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野球と酒と女と男  作者: 熊出


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13/15

逆境

 初回は三人で終わった。

 悟が三振し、二番打者は出たが三番打者がゲッツー。

 一ノ瀬まで打順は回らなかった。


 一ノ瀬の気迫が普段とは違っている。

 ネクストバッターズサークルに入る彼の背を見てそう思った。


 いや、この場にいる全員がそうだ。

 日本シリーズ出場権を争って戦っている。


 ピッチャーマウンドへ向かう投手の肩を叩いた。


「気合、入れ直しましょ。貴方の球なら抑えれる」


 ピッチャーは一つ頷いた。

 二回の表は三者三振。


 二回の裏に向かい、一ノ瀬に打席が回る。

 一ノ瀬は四球で出塁。

 三神勝負となった。


(さて、責任が重いな)


 一球目は外れたストレート。


(……四球で良いと思って攻められてる、な)


 阪神ほど層が厚くない我がチーム。

 下位打線に移れば得点確率が下がる。


 二球目もボール。

 手を出せばゴロだっただろう。


 どうする、粘るか。

 自分で二点を叩き込む。

 そのエゴがあるか。


 なかった。

 打てるような球はなく、三神は進塁した。

 そして、その判断が、試合を左右した。



+++



 そこから、互いに点を与えぬ試合展開。

 七回で投手の打席に代打の古賀がホームランを打った。


「DH制になったらスタメン確実だな、あいつ」


 一ノ瀬が無表情に言う。

 義足の古賀は動きの激しいポジションの守備には向いていない。

 だが、このチームの一塁には不動の四番一ノ瀬がいる。


 古賀の才能は誰もが認めるところだが、そういうことが、プロ野球にはある。

 古賀がそのうち信頼を勝ち取っていけば、また変わるかも知れない。


 そして、三神はその試合最後の打席に立った。

 古賀がホームランを打って一点差。

 自分が打てば逆転だ。


 そこでツーボールツーストライクの並行カウント。

 次に空振れば終わりだ。


 際どい球が来る。

 普段の自分なら振っていただろう。

 振らなかった。


 ボールのカウントがされる。

 そこで、違和感に気づいた。

 なにか、おかしい。

 手が汗ばんでいる。


(緊張している……?)


 そんな、自分の心理に気づいた。

 今まで、気楽な七番打者だった。

 しかし、今は五番。ランナーを返す試合を左右する役割だ。


 自分の打席次第で、この歓声も、テレビ越しに見てくれているファンも、仲間達も、皆が今年を終える?

 その責任が、今更になってずわっと伸し掛かってきた。


 今までだって、甲子園で地元の声に背を押されて戦ってきた。

 けど、その時は、最初から応援してくれる味方というのは本当に少なかった。


 しかし今は、何年も何年も応援してくれていたファンが何千何万と。


(……あ)


 自分の内に意識をやっている内に、体に染み付いた動きで四球を選んでいた。

 一試合目のDeNAの攻撃は、そこまでだった。


「どうした」


 一ノ瀬が淡々と言う。


「いつもは生意気で自信満々なお前から、覇気が消えているぞ」


「……いえ、大丈夫です。立て直せる、はずだ」


 そう言って、三神はその場を後にした。


「古賀さんー!」


 どちらかと言うと一匹狼な古賀が、戸惑うように振り返る。


「……なんだ?」


「飲みません?」


 古賀は鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。



つづく




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