日本シリーズを控えて
「なんかお前ら遠くに行っちまったなあ」
呆れたように早稲田が言う。
二人で、川辺に座り込んでいた。
「お前にだってチャンスはあった。水瀬より速いだろ、お前」
早稲田は答えない。三神は言葉を続ける。
「あいつ、パの切り込み隊長だぜ」
「あいつほどのパワーはないよ」
ぽつり、と早稲田は言った。
結局、こいつはいつも自信がないのだ。
プロ向きではないのかも知れない。
「生まれて初めて、打席に立つのが怖いと思ったよ」
ぽつり、とした独白に早稲田が目を丸くする。
「逆に聞くけど、今までなかったのか? そういうこと」
「だって、プロに上がるまで壁らしい壁はイサムの奴ぐらいだぜ」
早稲田は絶句してしまった。
「また、怖くなるのかも知れない」
三神はまた、独白する。
「いやはや、呆れたよ。俺は何度もおっかないと思った。けど、お前はゲーム感覚だったんだな」
ゲーム感覚、と言われれば若干語弊がある。
三神だって努力や研究を怠らなかった。
結果を出すために。
それを言うと、早稲田は呆れたような表情になった。
「努力しても結果がでなくて嫌になるやつだっているんだよ。俺だってこの体、全然筋肉がつきやしない」
「良いジムあるぜ」
「講義あんだよ、大学生には」
「つってもスポーツ推薦の今まで勉強してこなかった連中も集まる科だろ?」
「バイトもあるんだよ、大学生には」
「俺なら、やるけどな」
早稲田は苦笑する。
「そこが、俺をプロを選ばなくて、お前がプロを選んだ境目だよ」
結局、言い訳なのだと鼻白む。
本当、良いもの持ってるんだけどな、この男。
「相手、竜也だな」
早稲田が、寝転がってぽつりと言う。
「どう打ち崩す?」
「竜也が一番自信を持ってるのは高速シンカーだ」
三神は、前だけを見て言った。
「その軌道は、目に焼き付いている。二年、あいつの球を受け続けた俺だからの特権だ」
「ストレート入り混じられても打てるもんかね」
「高速シンカーだけに絞る」
早稲田は上半身を起こす。
「お、おいおい」
「と見せかける」
早稲田はきょとんとする。
「ストレートの下を振ったら、相手は高速シンカー待ちと判断する。なら、その後は臨機応変……」
「いくら来る球を絞ったとはいえよ、打てるのがお前だよな」
「変か?」
「変だよ。その時によって曲がり具合だって違うし予測もつかないのに。打てると確信を持って言えるなんて。職人だよお前さんは」
ぼやくように言う早稲田だった。
「そんなに変かな……」
「龍樹には相談しないのか?」
三神は、痛いところを突かれたような思いになる。
「今回、龍樹は、西武の勝利の女神だ」
「竜龍コンビなんだからドラゴンズが引けば良かったのになー」
良い感じに気の抜ける時間だった。
つづく




