その百二十 人外
「クルさん……大丈夫ですか?」
王都のとある一角。
そこにあった静寂は少女の不安げな声で破られた。
「……。」
声に対して、クルは笑顔と頷きで答えた。
クルの傷ついた喉では、無理に喋ることすらも出来ないのだ。
言葉は交わされないまま、マインを捕らえていた光の檻はクルの手で破壊された。
「ふう。良かったです……クルさん大丈夫ですか?休んでから行った方が良いとは思いますが」
「……フフン」
「嘘つき。もう立ってるのもやっとなの、見たら分かりますよ……ちゃんと休んでから行きますからね」
「……?!」
クル渾身のサムズアップは、マインのジト目によって無効化された。
大人しく腰を下ろしたクルの横に、マインは肩を寄せて座った。
2人の視線の先には、タイルの上で気絶しているバンフラ・レーリーの姿が。
「これ、死んでないんですよね。流石は元五聖って感じですか」
「……フフン」
「この人ですよね。クルさんが逆らえない人って言ってたのは」
「……。」
「面と向かって反論するのは、やっぱり怖かったですか?」
「……。」
「私は、足手まといにはなりませんでしたか」
「……?!、!!」
俯きながらすすり泣く声に、クルは大袈裟に反応した。
そんなことはない、と励ますように手を大きく振って見せている。
マインは動きで伝えようとしているその焦りように、クスリと笑った。
「へへ、泣いてませんよー。泣きマネでーす」
「……?!」
「セリルさんに教えて貰ったんですよ。どうです?騙されました?」
「……!!」
「あはっ♪痛い痛い、ごめんなさいクルさん♪」
クルはポコポコと肩を叩いた。
声が出せないが故に、行動で憤りを表しているのだ。
「ふ、ふふふ!……はぁ、はぁ……私も、疲れちゃいました」
「……!!」
「もう、そんな怒らないでくださいよー」
「……。」
「……そうですね。もう少ししたら動きましょうか」
「……。」
「皆さん大丈夫でしょうか。無事だと、いいんですけど」
レンガの壁にもたれた2人は、夜空に浮かぶ月をただ眺め続けていた。
〜〜〜〜〜〜
ド ガ ァ ン
夜のセイヴハート邸内を砕ける破壊音が響き渡る。
発信源の少し先には、廊下を駆けるレイミとケイナがいた。
何やら必死の形相で脚を動かしている。
「ひっ……ひっ……!」
「はぁ……はぁ……!」
走っている2人の後方。
辺りを破壊しながら迫る巨躯があった。
「待て、待たんかああぁ!!!」
「なに、なになになんなのアイツ!!何しても死なないじゃないのぉ!!」
「私と同じ形白ですよっ!なんであんな感じなのかは知りませんけど!」
「同じ形白なら、アンタと互角のはずよね!ちょっと、足止めしときなさいよ!その間に助け呼んでくるから!」
「ちょ、姫1人で逃げようとしないでください!」
2人は走りながら互いの腕を掴み合う。
今の彼女らには打つ手が無かった。
あらゆる手を使ってレーゲンに攻撃したが、標的は依然問題なく追って来ている。
火力不足な2人にはとりあえず逃げる選択肢しか用意されていなかった。
「そういえば。姫は何か奥の手的なものがありましたよね?クルさんから聞きましたよ」
「鎧袖一触のこと?嫌よ。絶対やんない!」
「最後の希望ですって!やってみましょうよ!」
「あれ辛いの!終わった後、全身筋肉痛になるんだから!」
「捕まって死ぬよりマシですって!」
「だからこうして助けが来るまで逃げ回ろうって_______________」
「うおあああぁぁ!!」
瞬間、叫びと共に後方からの瓦礫投げられた。
飛びされた豪速球は2人の頬を掠めた。
それは、少しでも位置が違っていれば2人のどちらかに直撃していたであろう攻撃だった。
「これ、もしかしていつまでもは、逃げられな……」
「_______________ぅ、ああもう!やるわ!やればいいんでしょ!?これで死んだらアンタ一生呪うから!」
「よ、よおしその意気ですよ!でも、呪うのはレーゲンの方にしてください!」
「それ余計な一言っ!白帝鎧袖一触!!」
魔力の粒子がケイナを包んだと思うと、白銀の騎士へと姿を変えた。
手に握られているのは白銀の弓と矢。
ケイナは迫る巨体を一睨みし、5本の矢で弓を引き絞った。
「動いたらぶっ殺すから、このバケモノ!!」
放たれた5つの銀線は蛇のようにうねると、やがてレーゲンの身体を貫いた。
ボ ゴ ゴゴ ッ
「_______________ウボ、ォ!!」
矢の太さに見合わない5つの大穴がレーゲンの四肢を引き裂いた。
だが、その穴は空いたそばから肉の修復が始まる。
それは2人が1度目にした光景であった。
「姫っ!」
「言われなくてもわかってるっての!」
間髪入れずにケイナは突進する。
両手で握るは、白銀に輝く剣。
「要するに、再生おっつかないくらいにぃ!!」
鎧袖一触により強化されたケイナの連撃が、レーゲンの体を細切れにせんと走る_______________!!
ギ ッ
「……?」
何かが引っかかる音。
ケイナは剣を持つ手にのしかかる謎の違和感に、剣先へと目を向けた。
「姫、離れて_______________!!」
その光景にケイナは絶句した。
剣を伝い、その腕ごと飲み込まんとするレーゲンの肉がすぐそこまで来ていたのだ。
そしてその時はもう、手を離すには遅かい瞬間であった。
「飲まれろ、愚かな侵入者ぁぁぁ!!」
既に蠢く肉がケイナの指先を喰らい始めていた。
「う、いやあああぁぁ!!」
「っ!姫、失礼しますよ」
闇夜を光る鋭い刃。
駆けつけたレイミの短剣が肉のみを的確に引き裂き、ケイナの指を引き出すことに成功した。
しかし、その一連の流れはレーゲンの再生には十分である。
「殺すぅぅぅ!!」
再生、そして振り上げられる拳。
「超魔力」で強化された一撃は尋常ではない。
「レイミちょっと下がって_______________!!」
直撃を庇ったケイナの背ごと、その衝撃は直に伝わる。
2人は密着したまま大きく吹き飛んだ。
ド ゴ ォ ン !!
衝撃の余り壁を突き破り、再び外へと投げ出された2人。
謎の敵は、ケイナの鎧袖一触ですら殺し切れないと証明された瞬間であった。
「いっ、つつ……ねぇこれ、もう詰みなんだけど」
「打つ手なし……姫は動けますか?」
「無、理……」
呻くような声に、ケイナの纏った鎧は塵へと帰っていった。
「はぁ……もうダメね。アンタだけ逃げていいわよ」
「はい逃げます」
「やっぱなし」
「……冗談ですよ。毒のナイフがあるんで一応今から試してきますよ」
「それはそれでやめときなさいよ。死にたいの?」
「……その時はマインをよろしくお願いします」
レイミは立ち上がり、短剣を構え直した。
見据えるは倒壊した壁から顔を出す05。
彼女には負けると分かっていても挑むべき戦いがあった。
いざ、死地へと_______________!
「ゲベふっ!!」
「……えぇ?」
走り出そうと踏み出したレイミの足は、横から伸びた足先に引っかかり転んだ。
「うぉっ、毒かよ危なっ!」
「あ、セリルさん」
何食わぬ顔で立っているセリルの姿がそこにあった。
「こっちの回収は終わった。後はお前らとクルくんと魔王のとこだけだ」
「そ、そうですか……あっ!セリルさん、アタシ達連れて一旦撤退!あそこのバケモノマジでヤバいから!」
「ヤバい?気にするな_______________」
自信ありげな表情でセリルは夜空を仰いだ。
闇夜の王都の中、猛スピードで駆ける影が辺りを瞬いた。
「こっちの五聖の方が数千倍はヤバい」
セイヴハートの邸宅にて「影の骨」の到着が確認された。
「ドヤってないで、セリルさんも手伝っちまってくださいよ」




