その百二十一 影の主
ケイナの見あげる先に、闇夜を紛れる3つの影が宙を舞っていた。
「セリルさん、あれは……?」
「影の骨の連中だよ。例の術式は回収出来たからこうしてお前らの援護にだな……」
「おいコラ元ふくだんちょー!早く仕事しろ!だんちょーが怒ってるぞ!」
「そうだそうだ!サボるなよこの、のんべえめ!」
「うるさいガキども!分かってるから!」
セリルは出処不明の声に返事すると、すぐに上空へと跳び立った。
何やら上空で影たちと跳び回っている。
数秒もすると、セリルと交代するように1人の影がケイナの前に降り立った。
「っと_______________ごきげんよう。美しいお嬢さん方」
「……あ、はい。どうも」
「さっきの戦い、少しだけ拝見させて頂きました。必死に武器を振るう貴女達の姿は花のようで、月下美人とはまさにこのこと_______________」
無表情から出る、歯の浮くようなキザな言い回しにケイナは眉をひそめた。
レイミの方は満更でもなさそうである。
「あ、申し遅れました。影の骨の団長を務めてるナーダってもんです。向こうの敵を殺ったとて、追加料金取るわけじゃないんでご心配なく」
「目の前……あっ、あのバケモノ!あれ、ヤバいから気をつけてください!」
「ご忠告感謝します。でもまあ、職業柄しぶといやつとは何度か対峙したことあるんで」
ナーダは踵を返し、銀の長髪を翻した。
歩く先には壁を取り壊し、出てくるレーゲンの姿が覗き出ていた。
「せっかくなんで見てってください。ウチの、というか俺の殺り方を」
ナーダは白い手袋を外しながら、標的に悠々と歩いていった。
「新しい侵入者……王都の、敵ぃ!!」
「ハロー、フリーク。今日は月の明るい夜となりましたね」
「ぶっ潰すしてやるぞおぉぉ!!」
「濃い闇に、貴方の影が良く溶けそうだ」
彼は変わりなく、無表情で言う。
突進する怪物には臆することもない。
ナーダは静かに手を掲げ、指を鳴らした。
パチン
次の瞬間。
「_______________ぁえ?」
いつの間にかレーゲンに刺さっていた小さな筒が光を放った。
ド ガ ァ ン !!
そうして刺さった筒は爆発を始めた。
爆発と同時に別の筒が上空のどこからか放たれ、爆発を次々に誘発していく。
「ゴボッ、ウゴッ、ゲ、えあぁぁぁぁ!!」
レーゲンは連続する爆発に耐えながらも、前方のナーダへと飛びかかった。
「拘束、お願いします」
「り「「了解!」」っ!」
指揮するように命令。
同時にナーダは迫るレーゲンに驚くどころか、距離を縮めていった。
やがて、目の前に近づく頃には。
「う、動かん……!」
レーゲンは絡み合う鉄のワイヤーによって身動きが取れなくなっていた。
「過剰ですいませんね。念には念をと思いまして」
「王都……守る……ぅぅぅ!」
「アンタにも色々あるんだと思います。でも、ウチは殺ると決めた奴は確実に殺るんで……セリルさん以外は」
どこかから痛いような呻き。
ナーダは薄く微笑むと、拘束されたレーゲンの肉体に手を置いた。
「変革の影_______________」
「……?!」
己に秘められた能力を告げる。
内包式「変革の影」
ローナが自身の肉体を変化させる力だとするなら、ナーダは他者の肉体を変化させる力と言えるもの。
それは、触れた者の姿を思いのままに作り替える力であり、彼を屍術師の位たらしめている力でもあった。
「おごっ、あ、があぁぁぁぁぁぁ!!」
レーゲンの肉体はボコボコと膨れ上がったと思うと、急激にその規模を縮めていく。
みるみるうちに小さくなり、果てにはナーダの掌に収まりきるほどになってしまった。
「来世では、良い往生だといいですね」
ナーダは決まりごとのように呟くと、手の上の小さな影を握り潰した。
「ふぅ……終わりました。皆さん降りてきてください!」
「わっふぅ!終わった終わった!だんちょー褒めて!」
「ちょっとー、元ふくだんちょータイミング遅かったんですけどー!」
「う、いやすまん。久しぶりなもんでな」
「「合わせにくかったー!」」
ナーダの合図で降りてきたのは3つの影。
セリルと、あと2人は団員らしき服装の少女である。
物騒な風景の後の和気藹々とした団欒に、倒れていたケイナ達は怪訝な顔をした。
「アタシ達、あんな奴らの本拠地に堂々と上がってたの……?」
「暗殺にしては派手でしたけどね」
「……セリルさん相手にする時は、もうちょっと畏まっておこうかしら」
「はあ。今までなんだと思ってたんですか」
「ただの飲んだくれだと思ってた」
「いや……間違ってはないでしょう」




