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死神の正体と白銀の騎士――命の恩人は泣き虫で満身創痍な家出少年



「えっと……あの……?」


銀色の髪を泥に濡らした少女は、目の前の信じられない光景に困惑しきっていた。


頭部を完全に吹き飛ばされた、魔獣オーガの巨大な死体。


そのすぐ横で、泥水に顔を押し付けて「ひえぇぇっ!おっきかったぁぁっ!殺されるかと思ったぁぁっ!」と幼児のように大泣きしている可憐な少年。


つい数秒前、悪魔のように冷酷な笑みを浮かべて謎の銀色の塊から雷鳴を放ち、オーガを粉砕した『戦場の死神』と同一人物とは、到底思えなかった。


恐る恐る近づき、少女は声をかける。


「あ、あの……大丈夫、ですか……?」

「だいじょうぶじゃないですぅぅっ!血がいっぱい出てるし、痛いし、もうヤダぁぁっ!」


アレンはしゃくり上げながら顔を上げた。

その顔を見て、少女はハッと息を呑む。彼が着ているボロボロの外套の隙間から、無数の痛々しい裂傷が見えたからだ。


先ほどの魔獣(ブラッドウルフ)の群れから受けた傷である。


限界を超えた肉体の疲労と、大口径(マグナム)を顕現させた魔力消費の反動。


二つの負荷が、気弱な少年の限界をとうに超えていた。


「痛い……寒いよぉ……」


アレンの焦点が定まらなくなり、そのまま糸が切れたように泥の中へ倒れ込んだ。


「っ!しっかりして!恩人様……っ!」


   ◆ ◆ ◆


パチパチと薪が爆ぜる音がする。 アレンが重い瞼を開けると、そこは雨風を凌げる小さな洞窟の中だった。


「あ、気がつかれましたか」


焚き火の向こう側で、ひしゃげた鎧を脱いで軽装になった銀髪の少女がホッと胸を撫で下ろしていた。 アレンの身体には、彼女が持ち合わせていた布で丁寧に包帯が巻かれている。傷口の熱も少し引いていた。


「あの……ここは?」

「近くにあった野営用の横穴です。あのままでは他の魔獣が血の匂いに集まってくるので、私があなたを運びました」


腹部にオーガの蹴りを食らって満身創痍だったはずなのに、彼女は背筋を伸ばし、真摯な眼差しでアレンを見つめている。


「改めまして。私はクリスティナ・ヴァンガード。没落した騎士爵家の娘であり、帝国軍の遊撃隊に所属しておりました。命を救っていただき、本当にありがとうございます」


深く頭を下げるクリスティナ。 アレンは戸惑いながら身を起こした。


「ぼ、僕はアレンです。その、ただの……家出、少年、です」


ストライフ家の人間であることは絶対に隠さなければならない。アレンは目を逸らしながら適当に誤魔化した。 しかし、クリスティナの目は尊敬と、異様なほどの熱を帯びていた。


「家出少年……?ご冗談を。あのような凄まじい威力の『無詠唱の極大魔法』を放つことができるあなたが、ただの少年なはずがありません」


(……極大、魔法?)


アレンは内心で首を傾げたが、すぐに納得した。 この世界の人間が『現代銃器(デザートイーグル)』の構造なんて知るはずがない。


謎の筒から雷鳴と共に圧倒的な破壊がもたらされれば、それは強力な古代魔法か何かだと勘違いして当然だ。


「あんな恐ろしいオーガを一撃で……。しかもあの直後、まるで別人のように泣き崩れたのは、強大な魔法を行使したことによる『魔力酔い』の激しい副作用ですね?」


(違います。ただ素に戻って、死体とバケモノにビビり散らかしただけです)


クリスティナの中で、アレンは『強大な力と引き換えに副作用に苦しむ、謎多き天才魔導士』という完全に美化された像が出来上がっているらしい。


アレンが訂正する隙も与えず、クリスティナは彼の前に歩み寄り、騎士の礼をとって静かに片膝をついた。


「ヴァンガード家の名にかけて、この命に代えてもあなたを護ると誓います。アレン様。どうか、私をあなたの『盾』としてお連れください」


「……はい?」


一人で平民として、誰の目にもつかず静かに生きていきたい気弱な少年に。 正義感の塊のような面倒くさい(しかも目立つ美人な)女騎士が、壮大な勘違いと極大の忠誠心と共にくっついてきた瞬間だった。


(……なんでこうなるのぉっ!?)


アレンの悲鳴にも似た心の声は、無情にもパチパチと燃える焚き火の音にかき消されていった。


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