告発と鉄槌
「本当に……無念です。我々も必死に助けようとしたのですが」
冒険者ギルドの受付カウンターで、顔に傷のある男――銀ランクパーティ『赤き牙』のリーダーであるガストンが、痛ましげな表情を作って首を振っていた。
「Fランクの廃鉱山に、まさかアーマービートルの大群が巣食っていたとは。我々は前衛を張って群れを食い止めたのですが、あの無能な荷物持ちのガキがパニックを起こし、勝手に魔獣の只中へ突っ込んでしまって……」
「そうですか……。Fランクの依頼とはいえ、やはり油断は禁物ですね」
受付嬢が同情するように頷き、報告書にペンを走らせる。
「荷物持ちのレオ君が亡くなったのは残念ですが、銀ランクであるあなた方が無事に帰還できただけでも良しと――」
ギィィィッ……。
その時、ギルドの重いスイングドアが開く音が響き、受付嬢の言葉が遮られた。 喧騒に包まれていたギルド内の視線が、入り口へと向く。
そこに立っていたのは、ボロボロの外套を着た華奢な少年アレンと、その隣で泥だらけの少年を背負った銀髪の少女、クリスだった。
「――っ!?」
ガストンの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
クリスの背中で気絶している少年は、間違いなく自分たちが魔獣の囮として見捨てたはずの荷物持ち、レオだったからだ。
「レ、レオ……!?なんで生きて……ッ」
うっかり漏れ出たガストンの呟きを、アレンは聞き逃さなかった。 アレンはガストンたち『赤き牙』の胸に光る銀色のタグを見ると、彼らがレオを置き去りにした張本人たちだと直感した。
(あいつらが、レオ君を……!)
アレンは震える足を必死に前に進め、ガストンたちを真っ直ぐに睨みつけた。
本来の気弱なアレンであれば、大柄な銀ランク冒険者になんて恐ろしくて文句一つ言えない。
しかし、スラムで這いつくばりながらも生きようとしていたレオをゴミのように捨てた彼らの卑劣さだけは、どうしても許せなかった。
「彼がパニックを起こして死んだ……?ふざけるなっ。あなたたち、自分たちが助かるために彼を囮にして逃げたんだろ!」
アレンの細いがはっきりとした声が、ギルド内に響き渡った。 周囲の冒険者たちがざわめき始める。
「なっ……!言いがかりだ!俺たちはFランクの魔獣ごときから逃げたりしねえ!」
「アーマービートルから逃げたんじゃない。あなたたちは、坑道の奥から迫ってきていた『デス・ストーカー』の大群を感知して、荷物持ちにヘイトを押し付けて逃げたんだ……っ!」
『デス・ストーカー』という単語が出た瞬間、ギルド内の空気が凍りついた。
B〜C級の凶悪な魔獣が、初心者用の廃鉱山に群れで現れたなど、信じられない異常事態だからだ。
「で、デタラメを言うなヒョロガキがぁっ!!」
図星を突かれたガストンは顔を真っ赤にして激昂した。 ここで見捨てたことがバレれば、ギルドの規約違反で冒険者資格を剥奪される。焦燥に駆られた彼は、力ずくでアレンを黙らせようと腰の剣を引き抜いた。
「そんなバケモノがいるなら、お前らみたいなガキが生き延びられるわけがねえ!俺たちを陥れようとする詐欺師め、叩き斬ってやる!」
凶刃がアレンへと振り下ろされる。 (怖い……っ!) アレンの右手が無意識に虚空を掴み、ハンドガンを顕現させて狂気の自我で相手の脳天をブチ抜こうとした、その瞬間。
「――アレン殿に刃を向けるか、下劣なる虫けらめ」
氷のように冷たい声と共に、銀色の閃光が弾けた。
ガキィィィンッ!!!
「あ……?」 ガストンの手から、大剣の『鞘』による強烈な一撃を受けた鉄剣がへし折られ、宙を舞う。 クリスは気絶したレオを片手で支えたまま、もう片方の手で大剣の鞘を振るい、そのままの勢いでガストンの腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ごふぁっ!?」
大柄な銀ランク冒険者の体が、くの字に折れ曲がってギルドの壁まで吹き飛び、壁を派手にひび割れさせて崩れ落ちた。 レベル16、元帝国軍の遊撃騎士。その身体能力と戦闘技術の前に、中堅の冒険者など赤子も同然だった。
「ひぃっ……!」
「ガ、ガストンさんが一撃で……!?」
残された『赤き牙』のメンバーたちは、クリスから放たれる本物の死の気配に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「これ以上、アレン殿を侮辱するなら……次は鞘から抜くぞ」
クリスの凄まじい気迫に、ギルド内は水を打ったように静まり返った。 アレンは虚空を掴みかけていた右手をそっと下ろした。
自分の中の狂気を呼び覚ますことなく、クリスが完璧に自分とレオを守り抜いてくれたことに、心の底から安堵する。
受付付近よ騒ぎを聞きつけて奥から出てきたギルドマスターに対し、アレンは震えを抑えながら告げた。
「坑道の最深部は、高熱でドロドロに溶けて崩落しています。……僕の『炎魔法』で、デス・ストーカーの群れごと焼き尽くしたので。調べてもらえば、群れの残骸と彼らの嘘がすぐに分かるはずです」
「な、なんだと……あのガキが、B級の群れを全滅させただと!?」
周囲の冒険者たちがどよめく中、ギルドマスターは鋭い視線で腰を抜かした『赤き牙』の面々を睨みつけた。
「……おい、お前ら。急ぎ調査隊を廃鉱山へ向かわせろ。もし少年の言う通りイレギュラーの痕跡があれば、こいつらはギルド追放の上、衛兵に引き渡す!」
気を失ったままのレオを連れてギルドの医務室へと向かう二人の背中を、誰もが畏敬と驚きの眼差しで見送っていた。




