奇跡の一枚(ドロー)
レオが盤面にカードを叩きつけた瞬間、坑道全体が目を開けていられないほどの強烈な金色の光に包まれた。
「な、なんだこれ……!?俺の中から、力が全部吸い出されていく……ッ!」
「耐えろレオ君!それが『召喚』の代償だ!」
絶叫するレオの左腕から、莫大な魔力がカードへと注ぎ込まれていく。
カードから溢れ出した光の粒子は、暗い岩壁の天井を突き破らんばかりの巨大な魔法陣を空中に描き出した。
そして、光の奔流の中から姿を現したのは――圧倒的な神々しさと暴力を内包した、体長十メートルを超える『白銀の竜』だった。
「シャァアアアッ!?」
突然現れた規格外の存在に、先ほどまで圧倒的な気迫で迫っていたデス・ストーカーたちが、本能的な恐怖を感じて足を止める。
「いけぇぇぇぇッ!!あいつらを、吹き飛ばせぇッ!!」
魔力を限界まで搾り取られ、意識が朦朧とする中でレオが叫んだ。
その声に応じるように、白銀の竜が大きく顎を開く。竜の口内に凝縮されたのは、星のように眩い純白の閃光。
次の瞬間、鼓膜を破壊するような咆哮と共に、極大の光のブレスが坑道へと解き放たれた。
ゴォォォォォォッ!!
B〜C級の凶悪な魔獣であるはずのデス・ストーカーの分厚い甲殻が、飴細工のようにドロドロに溶け、蒸発していく。
絶命の悲鳴を上げる間すらなかった。白銀の竜の放った一撃は、十匹近いサソリの群れだけでなく、その奥の岩盤ごと坑道を一直線に抉り取り、魔獣たちを文字通り「塵」一つ残さず消滅させてしまったのだ。
「……嘘、だろ」
狂気の自我に支配されていたアレンでさえ、その圧倒的なオーバーキルを前に、握っていたハンドガンを下ろして呆然と呟いた。
クリスに至っては、大剣を構えたまま石像のように固まっている。
群れを殲滅した白銀の竜が、主であるレオを振り返った。
しかし――。
「はぁっ……は、ぁ……」
「レオ君!」
レオの顔には一切の血の気がなく、白蝋のように青ざめていた。
限界を超えた魔力の過剰消費。
スラム育ちでレベルが低く魔力総量も少ない彼が、あのような規格外のモンスターを召喚するなど、本来であれば命に関わる行為のはずだ。
「俺、やった、のか……?」
「ああ!凄いよ、君のスキルは本物だ!」
アレンが駆け寄るのと同時に、レオの目が虚ろになり、その場にガクンと倒れ込んだ。完全に魔力が枯渇したことによる気絶だった。
主が意識を失った瞬間、左腕に装着されていた機械仕掛けのデッキホルダーと、坑道を埋め尽していた白銀の竜が、光の粒子となってフッと霧散していく。
気絶したことによる、スキルの自動解除。
「……終わった」
アレンは倒れたレオを抱き起こし、静かに息を吐いた。
銃を空間に消滅させると、前世の狂気が潮が引くように退いていき、気弱な15歳の少年の自我が戻ってくる。
周囲の凄惨な跡と、気絶したレオを見つめながら、アレンの頭の中には底知れない疑問と「違和感」が渦巻いていた。
(……おかしい。絶対におかしい)
僕の【兵器】スキルは、僕自身が前世で現代兵器の構造や物理法則を熟知していたからこそ発動できた。 だが、レオは違う。彼はこの世界で生まれ育ち、前世の記憶など持っていないはずだ。当然『デュエル・レジェンド』のアニメも、現代のカードゲームのルールも知るはずがないのだ。
それなのに、僕が「盤面をイメージしろ」「カードをセットしろ」と教えただけで、スキルは発動した。 まるで、カードを引き、場に展開するというゲームのルール(システム)が、最初から彼の中に、あるいはこの世界の法則の中に『組み込まれていた』かのように。
(現代兵器。そして、現代日本のカードゲーム。どちらも、この世界にあるはずがないものだ)
偶然の一致とは到底思えない。
誰かが意図的に、地球のサブカルチャーや兵器の知識を、この世界の『スキルシステム』として組み込んだとしか考えられないのだ。
この世界は、ただの剣と魔法のファンタジー世界ではないのではないか? 人々が神の奇跡だと信じて疑わないスキルの数々は、もしかすると世界そのものを管理する『何者か』が、前世の地球の記憶を元に作り上げた、巨大なプログラム(システム)の一部なのではないか。
だとしたら、僕が前世の記憶を思い出したのも、ただの偶然じゃない――?
「アレン殿……。彼は、レオ殿は大丈夫なのですか?」 ようやく我に返ったクリスが、大剣を収めて心配そうに駆け寄ってきた。
「うん。魔力枯渇で気絶してるだけだから、休ませれば目を覚ますよ」
アレンは思考の海から浮上し、レオを背負い直すためクリスに手伝いを頼んだ。
「僕の銃(魔法)と同じ。彼のカード(魔法)も、強力すぎるが故に反動が大きいみたいだ。あの白銀の竜を喚び出すのに、彼の魔力を丸々消費してしまったんだと思う」
強すぎるスキルは、己の身を滅ぼす諸刃の剣。
アレンは【魔力自動回復】というチートスキルが運良く発現したおかげで連射できているが、レオにはそれがなく、まさに「一発限り」の切り札だった。
「クリス。急いで街に戻ろう。彼を宿で休ませたい。それに……この異常発生、中堅パーティが逃げ出した理由も分かりましたし、早急にギルドへ報告しなきゃ」
「はい。すぐに向かいましょう」
気絶した新たな仲間を連れ、二人は急ぎ足で坑道を後にした。




