見捨てられた荷物持ちとハズレスキル
騒がしい冒険者ギルドの喧騒を背に、アレンとクリスは初めての依頼に向かっていた。 選んだのは、初心者向けの『Fランク』に分類される廃鉱山での魔獣討伐だ。
薄暗く、湿った空気が漂う廃鉱山の内部。 松明の灯りを頼りに奥へと進んでいた二人の耳に、ふと、悲痛な叫び声が届いた。
「誰か……ッ!助けて、死にたくない……っ!」
「アレン殿、前方の広間からです!」
「行こう、クリス!」
二人が足音を忍ばせて駆けつけると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
体長一メートルを超える巨大な甲虫――アーマービートルの群れに、ボロボロの服を着た一人の少年が包囲されていたのだ。
少年の足元には、彼自身の体よりも大きな荷袋が転がっている。
「あの荷物の量……冒険者のパーティに雇われた『荷物持ち(ポーター)』かもしれません。でも、周りに他の冒険者がいない……」
「魔獣の群れに遭遇し、足手まといの彼を『囮』にして逃げたのでしょう。……卑劣な!!」
クリスが義憤に駆られて大剣を抜く。 巨大な顎を鳴らし、甲虫たちが少年に群がろうとしたその瞬間。
「クリス、前衛頼む!」
「はっ!」
アレンの指示と同時に、銀色の閃光が広間を駆け抜けた。
クリスが大剣を横凪ぎに振るい、少年に迫っていたアーマービートルの一匹を強烈な打撃で壁へと吹き飛ばす。 魔獣たちの意識が一斉にクリスへと向いた。
「はい、フォーメーション完了。あとは的当てだ」
アレンの右手に魔力と共に具現化したのは、9ミリ自動拳銃。 気弱な少年の瞳に、冷酷な戦術家の光が宿る。
タァンッ!タァンッ!タァンッ!
暗い坑道に乾いた銃声が響き渡る。
放たれた弾丸は、剣の刃を弾くアーマービートルの分厚い外殻をあっさりと貫通し、内部の急所を的確に破壊していった。
ものの十秒足らずで、群れは緑色の体液を撒き散らして全滅した。
「あ……あぁ……」
へたり込んでいた少年が、信じられないものを見る目で二人を見上げていた。
「怪我はないですか?」
スキルを解除し、元の気弱な少年に戻ったアレンが手を差し伸べる。 少年はアレンの手を取り、震える声で名乗った。
「お、俺はレオ……。スラム育ちで、金がなくて……銀ランクのパーティに荷物持ちとして雇われたんだ。でも、魔獣が出た途端、荷物ごと俺を置いて逃げちまって……」
「やっぱり……ひどいよ、そんなの」
アレンは胸を痛めた。弱い者が理不尽に切り捨てられる痛みを、誰よりも知っているからだ。
「俺が、無能だからだ……」
レオは自嘲気味に笑い、泥だらけの拳を握りしめた。
「俺のスキル、魔力を込めてもスキル名を叫んでも何も起きない、用途不明のハズレスキルなんだ。だから戦うこともできなくて、ゴミみたいに捨てられる……!」
その言葉に、アレンはハッとした。 発動しない用途不明のハズレスキル。それは、つい数日前までの自分と全く同じ境遇だったからだ。
「レオ君。君のスキルの名前、教えてくれないかな?」
「え?……ああ。鑑定で出た名前は、『トレーディングカード』って言うんだけど……なんだよそれ、武器でも魔法でもねえじゃんか……」
(――『トレーディングカード』!?!?)
アレンの脳内に、前世の記憶が雷のように落ちた。
現代日本で、子供から大人まで熱狂的なブームを巻き起こしていた大人気トレーディングカードゲーム『デュエル・レジェンド』。
アレンも前世で狂ったようにデッキを構築し、大会にまで出場していたカードゲームだ。
特に、そのゲームを題材にした大ヒットアニメの演出は、世界中の少年の心をくすぐるものだった。 プレイヤーが「サモン!」と叫ぶと、左腕に機械仕掛けの『カードデッキ』と『カードデッキホルダー』が出現する。
そして、場に最大三枚までカードを展開し、そこから本物のモンスターや魔法を具現化させて戦うという、夢のようなシステム。
まさか、このファンタジー世界でその名前を聞くことになるとは。
(僕の【兵器】スキルが、『銃の構造と物理法則』を理解していなければ発動しなかったのと同じだ。この世界の人間に、現代のカードゲームの『ルール』なんて分かるはずがない。だから発動しなかったんだ!)
もし、僕の【兵器】と同じ条件で発動するのなら。 アレンの顔に、再び前世のゲーマーとしての、抑えきれない笑みが浮かび上がった。
「レオ君。君、スラムから這い上がりたいか?自分を見捨てた奴らを見返してやりたいか?」
「え……?あ、ああ!もちろんだ!でも、俺には力が……」
「あるよ。君のスキルは、使い方さえ分かればもしかしたら最強クラスのスキルかもしれない」
「なっ……!?」
驚愕するレオと、不思議そうに首を傾げるクリスをよそに、アレンはレオの左腕をガシッと掴んだ。
「僕が今から、君のスキルの『ルール』を教える。僕の言う通りにイメージして、ある言葉を叫んでみてよ」




