第93話 形あるもの
紫の魔石を風魔法でダイアモンドカットして、金の台座に嵌め込む。
その台座を金のリングに土魔法で接合させた。
僕は指輪を作っている。
ソフィアさんに渡す指輪である。この指輪にはウインドコムの魔法陣を書いている。彼女がこの指輪に魔力を流すと話せる範囲に僕が居れば指輪が光り、僕と会話することができる。
彼女の言葉が届けば、僕は指輪から流れる魔力痕跡で方向を特定し、その方向にウインドコムの魔法を使って会話をすることができる。
寂しい気もするが、これで彼女は僕と常に一緒にいなくてもよくなる。彼女は街の教育を学校で担ってもらわねばならない。この指輪があれば彼女は物理的に僕から離れられる。しかし、精神的には僕に拘束されてしまう。
僕は恐る恐る指輪を差し出した。
ソフィアさんはそれが指輪だと分かると泣き出した。
「えっ、要らなかった?」
「いえ、とても嬉しいです。王子が私を大事にしてくれているということが分かりました。それに、この指輪を付けている私は、王子が選んだ特別な女性であることを、皆に示すことができます。
そのこともとても嬉しいのです。
この指に、貴方から、その指輪をつけてください」
彼女は泣きながら、左手を差し出した。
僕は作った指輪を左手の薬指にはめた。
彼女の白く細い薬指に紫の光が輝く。
「きれい」
彼女はさらに泣き出した。
僕は落ち着いてきた彼女に指輪の使い方を教えた。
注意点として、屋内にいるときは風が通るように、必ず、窓を開けていて欲しいといっておいた。これで彼女とはいつでも連絡が取れるようになった。彼女が魔力を指輪に注ぐと指輪が光る。
小声で囁く。
「王子、ありがとうございます」
そよ風の中で彼女の声が聞こえる。
「近いので指輪での会話でなくても聞こえますよ」
僕は直接彼女の耳に答える。彼女は指輪に囁く。
「王子、子供ができました」
そよ風が耳をくすぐる。
「えっ、本当ですか?」
僕の声が大きくなった。
ソフィアさんは軽く笑って、今度は指輪を使わず、
「嘘ですよ。私の弱みばかり見せているようで、王子を少しだけ困らせたかったのです。試すようなことをしてすみません。でも、本当だったらどうしますか?」
「本当だったら嬉しいですね」
「そうですよね」
ソフィアさんはそう答えると、僕に近づき、それが自身の役割とでも思っているかのように僕に抱き着いてきた。
今度は指輪でなく、僕の耳に直接囁く。
「では、私も頑張りますので、王子も頑張ってください」
街を守る武力が必要だと考えている。
この街にも武器はあるが、本格的な武器は少なく、警備員が持っている剣くらいのものだ。後は、斧であったり、鉈であったり、包丁であったり、鎌であったり、木や肉や草を切るものである。
こういったモノは武器とは言えない。
それを持つ者を武力とは数えない。
今回の襲撃は考えさせられるものがあった。やはり守るためには武器が必要なのか?住民が使える技術のいらない武器は?
色々考えて、武器を用意することはやめた。
住民が戦うことを求めていないのに武器は必要ない。
また、僕が守るのは人である。人が残れば技術が残る。時間はかかるが再び同じ街を作ることができる。
未来があれば人間は前を向いて生きていけるのだ。
僕が大好きな街の人々は、場所が変わっても生きていれば、また、新しい街は作れる。そう考えて、僕は、武器を用意する代わりに街の住民と一緒に逃げるための装置を作ろうと思った。
それは、空を飛ぶ街である。




