第88話 鑑定の魔道具
三階の実験室にこもっている。
〝鑑定の魔道具を作る〟
言ったのは良いが難易度が高い。
まず、持ち込まれる物品を鑑定して、鑑定の結果から、評価金額を取り出し表示する。その表示額を木片に焼き付ける。それが、購入するための装置。焼き付けた評価額を読み直して、販売する人に提示し、王国通貨をレジスターに入れるとお釣りが出てくる。これが、もうひとつの販売するための装置となる。それぞれの装置から買付、売上のデータを入力して、日毎の買付金額、売上金額が分かるようなデータ集計装置。これが、三つ目の装置。
うーん、よく考えてみるとこれは販売システムだ。いっそのこと、コンピューターを作ってシステムアップした方が限られた人数での操作や管理は楽かもしれない。それに、魔法と言えば魔法だが、コンピューターの動作は目に見える現象ではなく、僕が魔法を使う訳ではないので、ソフィアさんも納得してもらえるのではないかと思う。しかし、CPUとかメモリとかHDDとかSSDとか周辺のICとか時計ICもない世界でコンピューターを作るなんて無謀か、すべてを揃えるのは無理だ。魔法の世界であれば、それで実現するべきだ。
鑑定の魔道具を実現するには、鑑定スキルを使うことが一番である。まだ、レベルは低いが物に関しては十分な能力だと思う。しかし、この鑑定スキルは魔法でなく、スキルとされ、魔法と違う分類であり、多分、人そのものに生まれつき備わったものである。それを装置にできるのか?
魔法エンサイクロペディアに聞くと、僕自身を魔力線でその装置と繋げという回答だった。なるほど、鑑定の能力が必要な時に、自身のスキルを利用すれば良いという方法である。
しかし、それは、僕に何かあったり、その前に繋ぐ魔力線が切れた時点で、動かなくなる。血を分けたり、肉を分けるより、まだ、ましかと考える。
やはり、鑑定スキルを魔法陣化して、僕から切り離したい。魔法陣化できれば、魔法ぶっくに定着できる。そうすれば、魔道具化できる。
しかし、スキルという固有能力は魔法陣化できるのか?
分からなかった。
悩んだ。
そして、色々なことをやったが、ひとつも進んでいるような気がしなかった。
行き詰まって、魔法エンサイクロペディアのように、自身と装置を魔力線でつなぐ方法を考え始めた時、他の人がどう考えるのかを想像した。オルフェス先生だったら、マチルダさんだったら、ソフィアさんだったら、アンナさんだったら、フローラさんだったら、……。
多分、皆、固有スキルは魔法でないから、いくら王子でも無理だというだろう。僕は頭を抱えた。
設計をしている時に、行き詰まったときの仕草である両手で後頭部を抱えて、大きく椅子で背伸びをした。その後、いつものように、手を離して、俯いて頭を軽く振ると、ふと、マチルダさんのファイアボールを魔法ぶっくに定着させた時のことを思い出した。
あの時は、彼女のステータス画面から魔法の項目の中で、ファイアボールを触って、実際使ってもらい、それを、魔法ぶっくに定着させた。
『もしかしたら……』
僕は、自身のステータス画面を表示し、スキルの〝鑑定〟の項目に触れる。それから、目の前のテーブルを鑑定してみる。
鑑定結果が出る。
テーブル:ラインハルトが作った
価値 :0.5G
この時、ステータス画面の鑑定の項目が光った。
『できるかもしれない……』
僕は、同じ鑑定を繰り返した。
光る〝鑑定〟項目に触れると、魔法陣の形でそれが表示された。僕は思わず、定着のスキルを使った。
やけに胸がドキドキした。
恐る恐る魔法ぶっくの後ろのページにスキルの項目が追加され、そこに鑑定Lv1の文字と魔法陣があった。
「やった。できるかもしれない」
僕は大きなハードルを越えた。
スキルは魔法陣化でき、定着を使うことで魔道具化できる事が分かった。しかし、かなり手こずった。
解決策は〝ステータス画面から指定する〟である。普段は鑑定というスキルを意識した時点で発動するのだが、実際、この動作が、ステータス画面でスキルが指定されている操作だったということだ。
それが分かると、その操作で、鑑定スキルを魔法ぶっくに定着することができ、鑑定の魔法陣を定着することができるようになった。
しかし、そのまま行うと、自分で行う鑑定に比べて、鑑定する物を見るカメラと判定結果を表示するものがない。
それには光の魔法陣が記述されたガラスのパネルを作って、鑑定の魔法陣と魔力線でつなぎ、そのパネル越しに覗くと、王国通貨で鑑定価格に一定の割合で経費をのせた価格が表示されるようにした。
さらに、木の板に光レーザーで文字を焼き込む光の魔法陣のボックスを作って魔力線をガラスパネルの魔法陣と繋ぎ、パネルの価格表示を触ると、ボックスに入れた木の板に価格を印字するようにした。
これで、鑑定の魔道具ができた。価格の表示の乗率の変更はガラスのパネルの光の魔法陣の更新で行うことにした。
支払いに関しては、住人が簡単にできるようにするために、皆が持っているマイナンバーカードで支払いできるようにした。そのため、読み取る装置と支払いが一体になった魔道具を作った。
それが、光の魔法陣で価格の文字を光レーザーでなぞって読み取る魔法陣を作って、ガラスパネルに定着する。定着したガラスパネルの額の表示を確認して、問題なければ、支払いの箇所を触ると、マイナンバーカードに支払い額を書き込む。
支払いが完了した場合は、木の板の価格表示に二本の横棒をいれ、完了したことが分かるようにした。それと同時にマイナンバーカードからは、予め入力されている金額から今回の購入額が引かれることにした。
マイナンバーカードへの金額の入力は街での労働、貢献の対価をロベルトさんの執務室(実質この街の役所)で行うことにし、それを入力できる魔法陣の魔道具を置いて、運用できるようにした。
しかし、今まで作ったマイナンバーカードでは記憶容量が小さいので、くず魔石をすりつぶして魔力容量を増やして対応する必要がある。
まだ、まだ、やることも多く、手直しも多すぎる。ただ、幸いなのは、住人の数が少ないことだ。さらに進むための、後戻りは簡単にできる。
ある程度の試作が完了したので、僕はロベルトさん、ソフィアさん、エアリスに試作品のお披露目をすることにした。
でも、どうやって鑑定ができる装置を作ったかは秘密にすることにした。僕は、この方法を使えば、他人の魔法だけでなく、スキルも盗むことができるだろう。多分、それは、この世界で生きる人には許せないことかもしれない。




