第85話 新しい作物
王都へ行こうと考えている。
ソフィアさんに言うと、一緒についていくという。エアリスも連れて行きたいが、彼女にはこの街のマイナンバーカードしかない。ロベルトさんに相談すると、アイデンドルフの住人であるという証明書を作成してくれた。
家の前に車をインベントリから取り出し、助手席にソフィアさん、エアリスをのせて、車体のバランスをとるバラストを調整する。今回の旅は、テンサイ糖、ジャガイモ、トウモロコシの苗か種子を見つけることが目的だ。
「出発」
街の入口から村へ出て、王都へのトンネルを通る。検問の人に挨拶して顔パスでトンネルから出ると、しばらくして、王都への街道に出る。ソフィアさんは二度目だが、エアリスは初めての車である。浮いて、動いていることが信じられないらしい。それに揺れないことも楽しいということだ。
「これから、少し、速度を上げますね。ソフィアさん、エアリス気をつけてください」
と言っても、気をつける方法はなく、慣れてもらうしかない。僕は、さらに前進速力を増すよう右三本の指に魔力をこめた。
「きゃー、王子、止めて、止めなくてもいいから、もう少しゆっくり、お願い」
という声が上がる。これはデジャビュ?
ソフィアさんはひきつった顔。対照的にエアリスの顔は興味に輝いている。声にならない会話がしばらく続いて、やがて速度を落としていく。
「ソフィアさん、エアリス、王都が見えてきました。降りて、検問を受けましょう」
僕は車を止め、インベントリに車をしまう。車での移動も少し慣れてきたのか、歩き出すとソフィアさんは元気になった。
王都に入ってもソフィアさんは元気だった。
エアリスの手前、気丈に振舞っているのかもしれない。
今回は、時間もあるので、学院にもレバークレーゼン商会にも寄ってみたい。しかし、目的は食料の買い出しと種子の調達である。
キョロキョロしているエアリスを引っ張りながら、市場を周る。小麦とか野菜の類を調達しているが、目的の植物を探すが見つからない。
鑑定をいつも以上に使っているので、非常に疲れる。
やっぱりないのかなぁ、と思いながら、あきらめかけていたら小さな実のテンサイをのせた野菜の荷車を発見した。
近寄ってテンサイに関して質問すると、この野菜は葉の部分を食べる野菜で根の部分は美味しくないので、家畜の飼料にするそうだ。
それを聞きながら、売っているテンサイをすべて購入する。ふと考えたことがあり、トウモロコシとジャガイモの話をしてみると、似たようなものを家畜の飼料にしているという。
荷車にある野菜をすべて買うので、それを見せてもらえないかと言ったら、野菜の販売も終わって帰るので、一緒にくるなら、良いと話してくれた。
学院とレバークレーゼン商会に寄る予定を中止して、彼についていくことにした。オルフェス先生にもマチルダさんにも会いたかったが、種の方が急ぐ。次に来たときにしよう。
一緒に行った農家から家畜のえさにしている野菜を紹介してもらう。
あった。あった。ジャガイモ、トウモロコシ。
こちらでは違う名前だが、確かにあった。鑑定を使うと確かにそうだった。どちらも購入したいと言ったが、好きなだけ持って行って良いと言っていた。
勝手に生えてくるそうだ。という事は、放置栽培なのか、もう少し丁寧に育てれば、有用な野菜なのだが残念である。でも、それ以上に入手できたことに感謝したい。無料では悪いので、テンサイの購入費と同じ額を、ジャガイモ、トウモロコシ分払った。
目的達成の成果に喜んで、街に帰ると、家の裏に、早速、実験農場を作った。
テンサイの畑、ジャガイモの畑、トウモロコシの畑である。
テンサイは葉ものの野菜だった。
根が小さく、これを改良する必要がある。
ジャガイモは玉が小さく、食べにくそうである。
トウモロコシも粒が小さく、固い。放置栽培だったためか、食用に向いていない。全体に栄養が取れていないような気がする。
全て改良が必要である。
各畑を土魔法で耕して、畝を作り、テンサイ、ジャガイモ、トウモロコシを植えて、水魔法で水を撒く。
結果を早く出したいので、作物の成長を早める魔法を魔法エンサイクロペディアで検索してみると、魔素の流れる道を作るとその流れが植物の栄養素であるチッソ、リン酸、カリウムを集めてくれるようである。
僕は、畑の畝毎に、端から端まで魔素の流れを作るように土魔法の魔力の膜を伸ばしていく。その魔力の膜に魔素を集めて、循環するように畝近くの空間に魔法陣を設置する。
設置した魔法陣の魔力入力部から魔力線を引き出し、それに繋がるように大型の魔力の蓄積ボックスを作り、くず魔石を放り込む。
土魔法の魔法陣を畝毎に作り、魔力線を引き出し、魔力の蓄積ボックスに接続する。これを、すべての畝に設置し、蓄積ボックスに接続し終わった。後は結果を待つだけである。
ただ、これは肥料をやっているのと変わらない。種を採って何代も選んでいかないと、本当の改良にはならないだろう。それは時間のかかる仕事だ。
今回、作った魔力の蓄積ボックスは魔石からの魔力出力ができるだけでなく、魔力の補充ができる入力部があり、そこから魔力を蓄積ボックスに注入し、魔力を常に使い続けることができるようにした。
魔力を切らすことができないので、この作業が僕の毎日の日課になった。




