第83話 甘味は救う
僕は取ってきたメイプルの樹液をインベントリから取り出す。
さきほど煮詰めたものを液体と沈殿物と分けるために、樹皮で作成した布で絞ってガラス瓶にシロップを詰めていく。10本できた。もう一缶持ってきていたので、これも温めて、ひと煮立ちさせ、風魔法で冷やしてから、同じように絞って、メイプルシロップをガラス瓶に詰める。さらに10本できた。
ソフィアさんと相談して、丸パンから、日本の食パンを焼くようにお願いした。そのために、金属の長方形の上が開いている箱を作る。この箱の中に捏ねたパン生地をいれて発酵させる。それをパン窯で焼くのだ。
まず、一本焼いてみた。
こんがり焼けたパンを窯から取り出す。取り出した金属の箱を少し高めの位置から何度か落として、箱を傾け焼けたパンを取り出す。綺麗な四角い山型のパンができた。
「これが食パンです。これは切って食べます。ソフィアさん、食べやすい厚さで切ってきてもらっていいですか?」
と言って、ソフィアさんが僕、エアリス、自分の分で三枚を切り分けた。
「トーストして食べたほうが美味しいかもしれませんが、出来立てのパンに、このメイプルシロップをかけて食べるのも最高ですよ。早速やってみましょう」
ガラス瓶から切り分けたパンにシロップを振りかける。
「食べましょう」
食べてみるとほんのり温かく柔らかいパンとしっかり香ばしく焼けているパンの耳、それに染み込んでいるメイプルシロップが美味しい。思わず声が出る。その前に彼女達の声が先か。
「美味しい。甘い」
幸せそうに食べている顔を見るのはなんと至福なことか。
感動の声も思わず揃ってしまう。すると、パクパクと食べていてもうなくなっている。ソフィアさんはもう次のパンを切り分けている。
それにも、メイプルシロップを振りかける。躊躇なく、二人の手が伸びてパンを自分の口に持っていく。幸せな顔が続いている。
「これをロベルトさんと村長さんにも試食してもらいましょう」
と僕が言うと、彼女達の顔が曇る。
「ソフィアさん達のシロップはこちらにありますので、すぐにはなくなりませんよ」
彼女達に安堵の顔が広がる。
「ロベルトさんと村長さんを呼んできてもらえませんか?」
ロベルトさんと村長さんがメイプルシロップを塗った食パンを無言で頬張っている。すぐに食べ終わると、次が欲しそうな顔をしている。でも、これはあくまでも試食だ。
「パンが美味しいですよね。メイプルシロップは美味しいですか。このシロップ造りを街の産業としたいのですが、いいでしょうか?」
「これが産業となれば毎日食べることができるということですか。毎日、お風呂にも入れて、こんな美味しいものが食べられる。そうなれば、王侯貴族でもできない生活かもしれませんね」
ロベルトさんが言うと、村長が、
「本当にありがたいことです。ラインハルト様には感謝してもしきれません」
続けた。
「感謝ついでに、もう少し、いただけないでしょうか?」
「村長さん、今回は試食です」
僕がそう返すと、村長の顔が曇る。すると、ロベルトさんが、聞いてきた。
「えっ、もう食べられないのですか?」
「他の人の意見も聞きたかったのですが、パンも少なくなったようなので、ある分をここで食べてしまいましょう」
と、僕が言うと、ソフィアさんが残りのパンを切り分け、皆でシロップをかけておいしくいただいた。
メイプルの樹液の採取は、村長の差配で街の女性と子供の仕事となった。シロップの取り出しは未だ僕の仕事のままである。
メイプルシロップは季節もあり、季節を過ぎたら取れなくなるかもしれない。甘味に関しては、それとは別にテンサイ糖が作れないかと考えている。
併せて、住人が増えてくれば農業分野の改善が必要となってくる。村の食料の大半は、現在の僕のインベントリにある食料で賄っているこの状況も改善する必要がある。
家畜とか小麦の栽培は進めてはいるが、主食の小麦に代わるジャガイモの栽培またはトウモロコシの栽培ができないかと考えている。この苗とか種子とかがないか王都に探しに行ってみよう。
食料の増産ができるようになったら、備蓄倉庫の建築が必要となるか。
その次が衣食住の衣だが、綿とか羊毛とかで糸を作り、機で織り布を作ることになる。これは未だどう手をつけていいか分からない。
当面、購入しかないのか。
いずれにしろ、やることが多すぎて、僕が一人でできることではない。街の人は少しずつ増えてきているが、まだまだ人は足りない。




