第81話 風の魔術師 エアリス
助けた彼女は風の魔術師でエアリスというそうだ。
この国の住人でなく、遠い国からきた人々の子孫だと言った。その国の名は、アレクサンドという。そう、僕の母の国である。
彼女はアレクサンドからきた魔術師に呪いの呪文を埋め込まれ、その呪いの苦しみをなくすために、彼女の両親は脅され、その魔術師の悪事に利用されていたという。
しかし、彼女の両親はある計画で失敗し、見つかり殺され、用済みとなった彼女はそのまま放りだされ、奴隷となった。
奴隷の身分で隣の村まで売られてきたが、呪いのため使い物にならずそこも追い出された。街道にでた彼女は何も知らずに人が向かっているこの村まできて、僕に出会った。
彼女は風の魔術師と言ったが実際は魔法が使えない。
また、生きるための実務である料理、裁縫等のスキルを習得していなかった。しかし、算数とか読み書きの教養は身に着けており、ソフィアさんが気にいって、彼女を専属の付き人とした。そういう訳で彼女は僕の家の二階に部屋を与えられている。
昨日の今日にしては元気だ。
僕は三階の研究室で彼女にウインドの魔法を教えている。ソフィアさんの感覚的な教え方だとエアリスが混乱してしまったからだ。
まず、ステータスを唱えてもらう。
NAME:エアリス・ヴェンタ・セラフィーナ
AGE:18
職業:風魔術師
状態:△健康
HP:60/200 MP:150/400
STR:60 DEX:50 AGI:50 INT:60 VIT:50 LUK:30
武器:なし
防具:なし
アクセサリ:なし
スキル:算術、読み書き
魔法:
風魔法
(ウインド)
魔力は十分にある。
最初は魔臓からの魔力の取り出しである。以前、フローラさんにした説明を繰り返す。魔臓からの魔力接続は既にできているので、掌までもってくる練習が必要だ。
「魔力の存在は分かっていると思いますが、その魔力を放出するためには、その魔力を血管に乗せて、掌まで持ってくることが大事です。
まず、この言葉を唱えて下さい。
『天地の理に沿って、私は掌から風をだす、ウインド』。
『天地の理に沿って』は、
ゆっくり自分を落ち着かせるように見えない魔素を自分の魔力で覆うことを考えながら、
『私は掌から風を出す』で、掌から風を出すイメージを作って、
『ウインド』で右手を前に出します。その掌からお腹にある魔力を取り出すことを意識して、その取り出した魔力に、風が吹くイメージを載せる。
僕がちょっと触れて手伝うので、魔力の流れを意識してやってみましょう」
エアリスは、呪文を唱え、力強く掌を前に出した。その掌に僕の掌を重ねて、魔力を軽く吸い上げる。魔力が溢れるようにこぼれだす。ぶわーんと風が前に吹き出した。
研究室の機材が揺れる。
「できた。できた。嬉しい」
エアリスが単純に喜ぶ。
「これをこれから外で練習してみてください。但し、ステータスを確認して、MPが50をきったら、休憩してください。そうしないと魔力枯渇で倒れてしまいます。ゆっくり練習してください。また、ソフィアさんの手伝いの合間でお願いします」
「忘れないようにもう一回やってみていいですか?」
「いいですよ。最初は詠唱はゆっくりやってみてください。それが上手くできるコツかと思います」
「はい、わかりました」
彼女は詠唱を繰り返し、ウインドの魔法は成功した。僕はその時違和感に気づいた。インベントリのアレクサンドライトが光ったのだ。多分、彼女の魔力に反応しているのだと思う。
「エアリス、これは僕からのお願いになりますが、まだ、魔力に余裕があって、魔法を使えますか?」
「はい、大丈夫です。今から、やりましょうか?」
「ちょっと待ってください」
と言ってインベントリからアレクサンドライトの石を取り出して、机に置く。
「エアリス、魔法を使ってみてください。そして、魔法を使った時、この石を見ていて下さい」
彼女は覚えたての魔法を再度、発動した。
「分かりました。
天地の理に沿って、私は掌から風を出す、ウインド」
ウインドの魔法により、風が起こり、軽く部屋の機材を揺らす。同時に、机に置いたアレクサンドライトが光る。
「えっ、光った」
エアリスが思わず声を出す。
「光った。やっぱりそうか、君がこの村に来たのは偶然でもなんでもなく運命の導きなのだ。君は僕に会う必要があり、会うために困難に巻き込まれたのかもしれない。
君は選ばれた僕の協力者だった。君が苦難に陥れば、これからは僕が君を守る番だし、君はご両親のためにも新しい世界を僕と一緒に作っていく必要がある」
その突然の僕の言葉を、理解できないのか、不思議そうな顔をして僕を見つめた。そして、何か言おうとするが言葉にならない。そうしているうちに、彼女の目が潤み、静かに涙を流す。僕は彼女の頭に掌をおいて撫でる。
「ずーっと、一緒にいよう」
彼女は頭においている僕の掌を彼女の頬に持ってきて大声で泣きだした。




