第75話 街の診療所
僕が考える街には役所があり、病院があり、学校があって、警察、消防が必要だ。それぞれの機能が違うし、いずれは作っていくつもりだが、役割を担う人もいなければ建物もない。だから、やれることからやるしかない。
僕は、僕を信頼してやってきたこの街の住人を守る必要があるからだ。
まず、戸籍の作成だ。
戸籍というよりは、マイナンバーカードタイプを意識して作ることにした。
マイナンバーカード作成の魔道具を作る。
仕組みはいたって簡単。
三次元プリンターでタブレットPCサイズのガラスプレートを作り、そのタブレット下に魔力線で繋いだマイナンバーカードサイズのカードが一枚ずつ入るボックスを二つ作る。そのボックスの横に魔石ボックスが収納できるような隙間をつくる。その隙間に魔石ボックスを押し込むとカチッと収納できる。
ガラスのプレートに向かって『ステータス』と声かけると、その言葉に反応して表示されるステータス情報をガラス面に表示する。この情報が二つのボックスのカードに定着され、定着が完了したらガラス面の表示が消える。
これを実現するような魔法陣をガラスプレートに描き、魔法インクで実体化して、最終的に魔石ボックスで動作するようにする。横にいるソフィアさんに向かって、説明しながら、作成が終了した。
パン工房の作業が手伝いの人で行えるようになったせいか、ソフィアさんは常に僕の横にいることになった。
ロベルトさんに話して、村長の息子さんの奥さんを役所の戸籍担当に指名してもらった。奥さんに使い方を説明する。
「いいですか、これが魔石ボックスと言います。魔石ボックスを装着すると、この魔道具が動きます。そして、この二枚の銅のカードをこのボックスにそれぞれ入れてください。それから、このガラス面に向かって『ステータス』と声をかける、言った人のステータスが表示されます。しばらくするとこの表示が消えるので、この二枚のカードを取り出します。簡単ですよね。分かりましたか?」
僕が言うと奥さんは自信なさげにうなずく。
「じゃ、自分でカードを作ってみてください」
僕が言うと、奥さんは魔石ボックスを装着し、二枚のカードをボックスに装着して、ガラス面に向かって、『ステータス』と言った。ステータスが表示され、そして消えた。二枚のカードを取り出すと、奥さんのマイナンバーカードができていた。ホッとした状態で僕にカードを二枚渡してくる。一枚を奥さんに渡し、一枚を確保する。
「街の入口の扉はこの渡したカードで開くので、出入りができます。すべての住民に対して同じことをしてください。喋れない子供、赤ちゃんは必要ありません。よろしくお願いします。あと、ソフィアさん、申し訳ありませんが、奥さん、一人じゃ不安だと思いますので、奥さんが慣れるまで一緒に作業をお願いします」
二人ともコクコクとうなずく。
僕は保存したカードと照合することにより、街に出入りする扉が自動的に開くシステムを構築することにした。街の入口は、噴水のある広場へつづく道にあり、ここに入ってくる長方形の入口があって、閂がかかる扉を設置していた。
まず、この扉の街側にポスト状の箱を作った。ここの開いた口からマイナンバーカードを入れるとそのカードで扉の開け閉めが可能になる20cm四方の四角い白いセンサー部を扉の表側と裏側の壁に作成する。このセンサーはかざされたカードに魔力をかけて読みに行き、街側のポスト状の箱から同じカードがあるか判別し、あれば、扉を解錠する仕組みである。
ロベルトさん達が村から鉱物資源を王都に運ぶということで、ロベルトさんにもマイナンバーカードを作ってもらった。これで、ロベルトさん達は安心して認証扉のシステムを運用できる。
ソフィアさんと村長の息子さんの奥さんが家に戻ってきた。カード枚数が90枚程度。喋れないこどもが、その他に五、六人いるようだ。この街の人口は100人いないことになる。今後は、この情報を台帳管理して、本来の戸籍を記録して、街の住人の管理ができるようにしていく。
当面の製作量を終えたので、午後の魔道具作りはもうやめることにした。
街には病院が必要だ。
ポーションも必要だし、医者も必要だ。当面僕が医者の真似事をするにしても正式な医者は必要だろう。その前に衛生に対する考え方を変えて行かないといけない。
手洗いの励行と石鹸の製作である。それと、現在の住民の怪我と病気の状態を確認する必要がある。そのうち健康診断もやっていきたい。
村長の息子さんの奥さんに怪我とか病気をしている人はいないか?と聞いてみる。
病人はいないが、鉱山で働いていて落盤事故に巻き込まれ、足を不自由にしている人がいるということだ。もう、古くからそういう生活をしているということだが、生活に不自由があるなら、診させて欲しいということを話した。
診療所として、魔道具工房の横に、三次元プリンターで使用する家のイメージを作成して、インベントリから木材を素材に取り出し、かまぼこ型の平屋の家を作った。
大きな窓にガラスをはめ込み、待合室、診察室、入院用の部屋の三室だけの簡単な作りだ。
外に出て、病院の扉を作成して、取り付けていたら、ソフィアさんが一人の男を連れてきた。この人が奥さんが言っていた足を不自由にしている男らしい。
立ったままでは何にもできないので、できたばかりの診療所の診察室に案内した。
事故が起きた状況を聞きながら、彼の足を見るとつま先が外側を向いている。鑑定を使うとやはり、膝の関節から腱が伸びて足の骨が外れ、膝下の骨が歪な方向に曲がっている。さらに、脛下の骨が正常にくっついていなかった。
「ソフィアさん、ここからの骨が膝からはずれています。また、この脛下の骨が正常にくっついていません。これで生活できているのが奇跡です。いかがしましょうか?」
ソフィアさんに対応を聞いてみる。
「王子、治せそうですか。この方は生活するのに支障がある状態ですね。このまま人生を終わるのは可哀想です。治したほうがいいと思います」
「分かりました。そのつもりで見てみます」
再度、治療を前提に鑑定を行う。膝から外れている骨は少しひねってしまえば治りそうだ。しかし、正常に接合していない骨はもう一度、骨を折って再構築する必要がある。これは麻酔が無い状態でやると痛そうだ。彼がその痛みに耐えられるのか分からない。その確認をすると、彼は治るのなら痛みには耐えるとのことだった。
「ソフィアさん、治せると思うので、今からやってみます」
彼の膝に手を当て、魔力を流し、魔力で神経を麻痺させる。痛覚がないことを確認して、膝の下の骨を魔力で掴む。掴んだ骨につながる足先を元に戻しながら、伸びた腱の細胞を活性化させる。それが、三か所あるため、魔力を散らさないように慎重に行う。その状態で
「ヒール」
と呟く。活性化した腱の細胞が再構築され、膝の状態が修復された。しかし、この状態では、曲がった足先は解消されず、片方の足とは長さが合わない。
「次は、痛いと思います」
魔力で痛覚を麻痺させながら、脛下の歪に固まっている骨を砕く。骨の砕ける音に、患者の顔が歪み、思わず声が出る。痛みではなく、音と振動への驚きだろう。砕いた状態の骨を正常の形を想いうかべながら、
「ヒール」
と呟く。骨が元通りになっているイメージが伝わってくる。脛下の足が一瞬、光って消えた。僕の額の汗をソフィアさんが拭ってくれる。患者は苦悶の表情をしていなかった。きょとんとした顔をしている。
「どうですか。痛くないですか?」
と僕は言いながら、患者の足をさすっていく。少し、筋肉のつき方が正常な方に比べて貧弱な気がするが、これは、使っていくうちにもとに戻るのだと思う。また、さっきまでふさぎ込んでいた顔つきまで変わって、若々しく見えてきた。
「痛くない」
と言う。
「足を動かしてみてください」
彼の足は問題なく動いている。すると、いきなり立ち上がった。
「いや、無理しないで下さい。痛いでしょう、痛いですよね」
僕が言っても、
「そんな事はない」
と言う。さらに、
「これ以上、やる事があるか」
と聞いてくる。
「ない」
と僕が答えると
「帰る」
と言う。ソフィアさんの顔を見ると、何か呆れた顔をしている。
「じゃ、明日も来て下さい」
と言って、帰ってもらった。
「また、痛くなったら、いつでも言ってください」
と、さらに念を押した。
患者が喜んで歩いて帰って行くと、僕はソフィアさんに言った。
「どうなっているんでしょう」
「私が聞きたいです。王子、また、やりましたね」
ソフィアさんが怒ったように答えた。




