第74話 育てていくもの、守るべきもの
村長の家を除いて、すべての住民の移住が終わった。
村は村長夫婦しかいない状況になった。ロベルトさんも正式にこの街の住人として生活をし始め、ほぼ、この街にいる。
街の住人は、新しい坑道からの掘削を開始したことから、生産量も増え、活気を取り戻した。
僕は、人の少なくなった村の安全を守るため、木の柵を土の塀に交換している。今や村には立派な門があり、閂がかかり、ちょっとやそっとで入ることができなくなっている。ロベルトさんからの指示で、トンネルの街道側には検問所が設置され、住民の中から選ばれた人が番人として詰めるようになった。
急速に村が変わっていく。
街には畑ができて、耕す者、種をまき水やりをする者、家畜小屋を用意する者、鉱山以外の仕事をする人が出てきている。
女も子供も労働者である。
ソフィアさんのパン工房にも手伝う人ができて、朝から忙しそうだ。
僕は光の魔道具で灯りを作り、それを街に設置した。そのため、この街の住民は夜を恐れなくなった。昼間の労働の疲れから、暗く寝るだけの夜から逃れ、噴水の広場で談笑する、楽器を奏でダンスをする、食事をする、酒を酌み交わす。
寝るだけの夜の時間を愉しみの時間に変えていっている。生きる楽しさがここにあるように見える。僕はその人達を眺めながら、この人々を守ろうと思う。
それ以上に守らないといけない人もそばにいる。
僕は川に土魔法で橋を架け、その向こうの台地の開発を進めようと思っている。川幅は3mもないが、意外に深い。ドローン仕様の車で両岸を行ったり来たりしながら、護岸に三次元プリンターでコンクリートの橋台を作り、そこからアーチ式の橋梁を組み上げて強度を確保するとともに、馬車がすれ違うことができる幅の水平な道を造った。
川の向こうの土地を確認し、未開発の日当たりの良い台地で大々的にブドウの栽培を行って、この街の特産品を作れるようにワインの醸造を思いついた。
また、住民の食料とか衣料品とかの必需品の入手のために、レバークレーゼン商会へ支店を置く交渉も合わせてお願いした。
昼はソフィアさんと魔道具工房で魔道具作りである。
手慣れた作業となり、会話しながらでも問題なく作ることができている。ソフィアさんは、もう少し、時間ができたら、子供達へ読み書きを教えると言っている。
そうであれば、学校も作る必要がある。
やることは多い。
ソフィアさんにいつ頃から、そういった授業をやるつもりですか?と聞いてみると、アンナさんが戻ってきたらと言っていたので、あまり、時間がない。
こちらも近々やる必要がある。
ただ、光と火の魔道具作りは繰り返し作業となり、つまらなくなってきた。正直言って飽きた。誰か、代わってもらえないだろうか?そう思いながら、淡々と魔道具を作っていく。
本日からは、ロベルトさん交えた夕食となった。
彼の引っ越しを僕が手伝い、移動が完了した。また、料理人さんもいるし、セリーヌさんもきたのでソフィアさんは家事から解放された。彼らを一階にある部屋に案内して、風呂とトイレの使い方を説明し、恒例のトイレイベントをクリアした。お互いの笑いが生まれ、そこに信頼感も生まれたような気がする。
「水は蛇口をひねることでいくらでも使ってもらって構いません」
と言うと、目をぱちくりしている。水汲みという仕事がなくなり、水を使い放題というのが急には理解できないのだろう。さらに、今は、光の魔道具の説明をしている。
「〝起動〟で灯りが点きます。〝停止〟で灯りが消えます。簡単ですよね」
慣れてもらうしかないのだが、やはり、不思議そうな顔で説明している僕をみている。
「灯りの調整は、ライトとダークでできます。〝ダーク〟で暗くなります。寝るときは少し暗い方がいいかもしれません。ダークの場合は、〝ライト〟で元の明るさに戻ります。各お部屋にもついていますので、光の魔道具に向かって話してみてください」
「王子、説明し過ぎです。皆さん、混乱されていますよ。難しく考えなくていいんですよ、最初は、灯りを点けるのは〝起動〟、消すのは〝停止〟これを覚えてください」
ソフィアさんのフォローが入る。
それには、彼らはうなずいていた。
ロベルトさんが、食事しながら話し出す。
「王子、川向うの土地はいかがでしたか?」
「ブドウを育てるのにもいい土地だと思います。レバークレーゼン商会に、ブドウの苗木と、ブドウの栽培管理する人やワイン製造技術のある人の調達をお願いできませんでしょうか?ぜひ、大きなブドウ園にしたいと思います。
また、馬車が二台、一度に通れるような橋もかけました。資材や人の移動も楽になると思います。なので、ブドウ園だけでなく、小麦や野菜の畑も作れると思いますよ」
僕は答える。
「そうですか。明日、村長に言って、畑を作ってもらう相談をしてみます。それと、明日から鉄鉱石と石炭を王都に運ぶために、この街を留守にします。
多分、私がいなくても危険はないとは思いますが、その間、お気をつけください。また、王都に行ったときに、人足として同行する村人がこの村出身の住人に声をかけるようです。もしかしたら、住民が増えるかもしれません」
「人が増えるのはいい事ですが、粗暴な人が増える可能性もありますね。その時はどうしましょうか?」
僕は不安になる。
良い人ばかりではない。
「この街の住人になるためには面接を、私が必ず行うこととします。その時、犯罪歴のある人には住人となれないことを伝えることにしましょう」
ロベルトさんが答える。
「そろそろ、住民の戸籍も必要ですね」
と、僕が言うと、ロベルトさんが聞き返す。
「戸籍とはどういうものですか?」
僕は答える。
「身分証になるものです。この街の住人であり、この街のどこに住んでいて、誰それとどういう関係があるかという証明書になります。
また、税金の徴収もそれにより行いますので、この街で非常に重要な物になります。それを、管理する役所と言われる部署も作る必要があります。
この街の住民登録が終わった人には、この街の住人であることを示すギルドカードのようなものを渡すことにします。このカードを持っていれば、この街に検問なしで、自動で開く扉を通って、街に入ることができます」
「なるほど、この国では身分証は商業ギルドと冒険者ギルドが発行するもので、住む場所と結びついた台帳はありませんでした。
この街の住人は戸籍で登録され、住民と認められた場合は住民カードが与えられるということですね。
それは便利そうですね。持っていない人は持っている住民と一緒じゃないとこの街に入れないということですか?」
とロベルトさんが言う。
「そうなります。それが、この街の安全を守る第一歩になります」
と言いながら、日本で使っていたセキュリティカードで扉が開閉するドアシステムの構想を考えていた。




