第73話 決意
僕が作った住居への道と噴水周りの光の魔道具を調整している。
それと、噴水の水が光でキラキラするようにしている。ソフィアさんの為に作った演出だ。僕はもう一つ隠し玉の演出を行う予定だ。ワクワクした気持ちと同時に、魔道具作りをサボっている背徳感は否めない。
でもこっちが楽しいのだ。
暗くなってきて、仕事終わりの住民が光魔道具で照らされた広場に集まってきた。長いテーブルには、料理が並び始めた。
同時に火の魔道具でシチューとかスープとかが温められている。また、デザート類も並んでいて、子供達もワクワクしている。
肉も焼かれ始め、良い匂いが漂い、エール、ワインと果実水も用意されており、男たち、女たち、皆、笑顔になっている。住人達も会が始まるのを、今か今かと待っている。
頃合いを見て、村長の声がかかる。
「皆の者、これから新しい街、アイデンスタッドへの歓迎会を開く。領主代理のロベルト様からの挨拶があるので聞いてくれ」
ロベルトさんが前に出て
「皆様、王国でアイデンドルフの領主代理をしているロベルトです。ですが、この街はアイデンスタッドと言い、この街の領主は、こちらにいるラインハルトさんになります。彼は素晴らしい知識を持っておられ、この世界に新しい未来を持ってきてくださる人だと信じております。
挨拶が長くなりますが、この街の領主であるラインハルトさんから言葉を賜りたいと思います」
僕がいきなり紹介される。
ソフィアさんとロベルトさんに押し出されるように前に出される。
「えー、ラインハルトと申します。
お見知りおきください。
この街は皆さんに長く住んでもらえるような街にするつもりです。まだ、皆様には灯りと水しか提供できませんが、いずれ、畑から穀物と野菜、果樹園から果実、畜産から肉とミルクを提供できるよう素敵な町になるよう考えています。
まだ、実力も人望もありませんが、良い街にするためにご協力をお願いします」
それを引き取るようにロベルトさんから、
「では、僭越ですが、乾杯の音頭をとらせてもらいます。皆さん、飲み物を手にしてください。よろしいですか? では、乾杯」
「乾杯!」
と、同時に僕は、僕の家への道と噴水の周りを一斉に光らせた。
「オー」
っとどよめきが上がる。次に、僕は、噴水の上方にファイアボールを打ちだす。地上20m程上に上がり、パーンという音とともに花火が開く。マチルダさんに隠せと言われた魔法だ。まさか、こんな使い方をするとは。
これが、隠し玉だ。
と、同時に噴水の灯りも点灯する。
花火の音に誘われた視線が噴水に降り注ぐ。
「ウォー」
っというどよめきに変わる。
夜の街が明るくなると同時に、花火が消えた空間に噴水の水の灯りが煌めく。
「綺麗だ」
という言葉がさざ波のように流れていく。
その波を崩すかのように、
「さあ、皆さん、食事にしましょう」
と、ロベルトさんから声がかかった。
賑やかだった宴が終わり、人々が家路についた。
雑然としたテーブルと椅子が今まで人がいて、騒いでいたことを表している。それをインベントリに入れ、片づけている。
人々の笑い声が溢れ、未来を語る言葉も一緒にインベントリに入れている気になった。あらかた片付けを終わり、ソフィアさんと顔を見合わせ、声をかける。
「終わりましたね」
「終わりました。皆さん、大変喜ばれていました。良い会だったと思います。皆さんの笑顔が溢れる生活が続ければと強く思いました。
今夜はこの街の第一歩だと思います。今日の一歩はついてきてもらえる一歩だったと思います。しかし、王子にも何度も言うようで申し訳ないのですが、王子の世界の常識で少しずつ変えていくが良いと思います。
本日の片づけはこれくらいにして、ゆっくりと家に帰りましょうか?」
「そうですね。ソフィアさんも本日はお付き合いありがとうございました。感謝いたします」
噴水の灯りが消え、噴水の周りの灯りが消え、僕らの家へ帰る道が光っている。今日は灯りが点いていて眠れないという住民の話もあったので、家に戻ったら灯りを消してみよう。家への道をたどりながら、僕の横でソフィアさんが言う。
「少し、お腹がすきました」
「そうですか、皆様の世話をされていて、ご飯を食べられなかったのですね。良かったら、パンでも食べますか?」
「いただけますか?」
ソフィアさんが僕の横に来てインベントリからだしたパンを受け取り齧りだす。
「無作法な女で、すみません。お腹がすいちゃって」
「問題ありません。そんなとこも大好きです」
「えー、それ以外、どんなとこが好きですか?」
ソフィアさんが甘えるように僕の腕に絡みついて、僕を見上げる。互いの眼差しが合って、
「うーん、そうですね」
と言い淀む。
「王子、そこは考えるところではありません。嘘でも良いからすぐに〝すべてが好きです〟というとこです」
ソフィアさんがいたずらっぽく笑う。それに相応しくない返答かもしれないが、僕は今の気持ちを返す。
「僕は貴方を離したくない。それくらい大事な人だと思っています。しかし、僕は貴方をどうしたら幸せにできるかが分かりません。また、その資格があるかも分からない」
「資格なんてどうでもいいじゃないですか?私が好きなら私のすべてを奪ってください。貴方は私の幸せを考える必要ないのです。貴方の行くところに私を連れて行ってください」
僕はその言葉の意味を深く考える。
「分かりました。ソフィアさんは僕についてきてください」
僕はソフィアさんを抱きしめる。急に抱きしめられたソフィアさんは驚いたのか、手に持っていたパンを落としてしまう。
「王子、焦らないで!ここはまだ、明るくて皆に見られるかもしれません。恥ずかしいです」
「分かりました。でも、僕は思った通りにすることにします」
家へと続く魔道具の灯りを消し、辺りを星明りにして、僕は彼女に長いキスをする。
〝貴方の行くところに私を連れて行ってください〟
ソフィアさんは僕の横で眠っている。偶に気の強さを見せる綺麗な横顔だ。穏やかな寝息を立てている。
僕はこの世界から帰れないではなく、帰らない。その思いは静かな夜に浮かび上がる。僕はこの人のためにも新しい世界を作ろうと決意した。




