第72話 歓迎会
止まることは出来た。
強引に風魔法を車に向けて使った。
その風力で前進が相殺され、ゆっくり動くようになり、そのままの状態ですべるように着地した。
そこで、車の前方にも三か所、風の魔法陣を付け、それぞれから魔力線を伸ばし、ダッシュボードの運転席左に大きな丸を魔法インクで描いて、ここから魔力を流すと、前進を止める風が吹き出すように改修した。操作方法として、左手で操作出来るように考えた。
合わせて、三次元プリンターでガラス管を作って、その中に水と泡を入れて閉じ、水準器として、縦と横に二本をダッシュボードに埋め込んだ。
それを使って、動作開始時の重心合わせを行うためのバラスト調整を行う。これで、僕の体重が極端に変わらない限り、調整する時間が短くなるはずだ。
また、フロントガラスも三次元プリンターで作り、車フロント部分に溝を作って、フロントガラスを埋め込んだ。さらに、灯りの魔道具をフロントにつけて、ヘッドライトとした。これに関しては、魔石の着脱で動作するようにしている。段々、車らしくなってきたが、シートベルトとかエアーバッグとか衝突時の安全を確保する仕組みも設置していく必要がある。これは、おいおい考えていこうと思う。
今回の車は、この世界の誰かに操作説明したとしても魔力制御が難しいので、この世界の人では動かすことが出来ない無用の長物だ。ソフィアさんに言われたように僕しか扱えないものとした。
この世界で僕が生きている意味はこれで良いのかもしれない。僕が生きていくのに不便だということを改善していき、それが、この世界の人に違和感なく取り入れてもらえることを考えて行けば良い。例えば、僕の存在、生み出すものを受け入れてくれる街を作っていくことが良いのかもしれない。
ソフィアさんとの夕食に車のことを話す。
「ソフィアさん、新しい乗り物を考えました。試運転しましたが、結構快適です。明日にでもドライブしませんか?」
「面白そうですね。一緒に乗りたいです。でも、その乗り物は揺れますか?揺れには私は弱くて、王子に迷惑をかけるのではないかと心配です」
「そうですね、乗り物の椅子が堅いのでお尻が痛くなる可能性はありますが、道のデコボコは関係ないので馬車よりは揺れないと思います。但し、風が強いと揺れる可能性もあるので、明日、風が強かったらドライブは止めましょうか?」
「そうですね。そうしましょう。揺れがない方が助かります。あと、固い椅子であれば、クッションがありますので、それを持っていきます。楽しみです」
ソフィアさん、楽しそうに笑う。続けて言う。
「村長の息子さんが話されていましたが、夜、外が明るすぎて寝られないそうです。笑いながら言われていましたので、そんなに気にされているわけではないと思いますが、少し気になりました。
それで、人も増えてきたので、王子のことを知ってもらうためにも、この前、王子が私の為にしてくれた噴水が光る演出を、これから、毎晩、やってみたらどうでしょうか?
そうすれば、住民の方も夜の過ごし方が変わっていくのではないでしょうか?
寝るだけの夜から、皆と今日あったことを話したり、そこで、食事したり、踊ったり、今日を楽しむことが出来るかもしれません」
「いいアイデアです。
噴水の演出ですが、早速、やりたいですね。
じゃ、明日の夜は噴水の傍で歓迎会の意味を込めて、住民参加で食事会を開催しましょうか?
ロベルトさん、村長さんに相談してみます。
決まれば、噴水前にテーブルと椅子、簡単に煮炊きが出来る設備も用意して、お祝いをしましょう」
僕はウキウキした気分になる。
明けて、ロベルトさん、村長と話をする。もう、旧来の村には五軒程度の住人しか残っていない。残りの人の移住をスムーズにする意味と入植してくれた住人の感謝の意味を込めて、噴水の広場でお祝いの会をしたいと申し入れると、ロベルトさん、村長ともども喜ばれて、了解を得た。
今日の夜はお祝いの会を開催することとなった。
ご馳走を作るか?買い出しが必要だ。
「ロベルトさん、買い出しに行こうと思うのですが、一番近い、街はどちらになりますか?」
「ここからですと、やはり、王都ですね」
「王都ですか?じゃ、昨日のトンネルからソフィアさんといってみます」
「馬車とか護衛とかどうしましょう。今はご用意出来ませんよ」
「多分、必要ないと思います。ただ、どれくらいの距離があるか分からないので、本日、もどれそうになかったら途中で引き返してきます。出来るだけ、早目に帰って来ますので、ご心配なさらず、お願いします」
とロベルトさんに言うと、一緒にいたソフィアさんに声をかける。
「ソフィアさん、王都まで行ってみましょう。ドライブです。時間がかかりそうだったら、途中で引き返すのでガッカリしないで下さい」
と、言って、皆の前で試作した車を取り出した。皆の驚きを前に、車に乗り込み、ソフィアさんを助手席に促す。
「ソフィアさん、乗って下さい」
「コレに乗るのですか?」
「はい、そこを跨いで僕のとなりに座って下さい」
しまった、ドアが開くようになっていなかった。
跨いで乗ってもらう。
ソフィアさんが座ったのを確認して、
「出発します。怖かったら僕に掴まっても構いません。いいですか?では、出発」
僕は、小指から魔力を流し、車体を浮かせる。
ソフィアさんの体重分、前方左よりに車が傾く。再度、インベントリからバラストを調整しながら、水準器で水平を合わせる。水平になったので、50cm程度空中に浮くように小指に魔力を込める。
それから、ゆっくり方向転換して、街の入り口の方をむき、前にゆっくりと進ませる。灯りをつけて加速しながら、坑道を降りて行き、村に出ると、トンネルの入り口まで走る。緩く逆方向への風の噴射ブレーキをかけて止まる。
降りて、トンネルの扉を開けて、車に乗り込み、車を動かしてトンネルを抜けていく。しばらく進むと、トンネルの出口が近づいたので、ブレーキをかけて、停止。ここで扉を開けると、ソフィアさんが驚く。
「明るいです」
「途中の村を通り越した位置に来ています。これから、王都へ繋がる街道へ出ます。それから王都まで一直線になります。行きますよ」
街道まで続く道を車で進み、大きく旋回すると、
「あそこに遠く見えているのが王都のはずです。今から、全速力で進行します。でも、どれくらい速度が出るかわかりません。もし、遅すぎたら王都へは行かずに、途中までのドライブになります」
僕は前に言ったことを繰り返し、自分自身の戒めとする。
「行きます」
と、付け加えて、前進速力を増すよう右三本の指に魔力をこめた。車は少しずつ動きはじめ、次第に速度が速くなった。ソフィアさんが、
「凄いわ、木々が流れていく。凄い速く移動しているのに揺れない。お尻も痛くない。王子、この乗り物は楽しいです。風も感じられます」
「ソフィアさん、もう少し、速くなります。いいですか?」
僕は、さらに前進速力を増すよう右三本の指に魔力をこめた。加速度的に速度が増す。
「きゃー、王子、止めて、止めなくてもいいから、もう少しゆっくりにして、お願い」
という声が後ろに流れて僕にはきちんと聞こえてこない。ただ、彼女のひきつった顔が続いているのを見て、速度を落としていく。
「ソフィアさん、王都が大きく見えるようになってきました。手前で降りて、検問を受けましょう」
僕は車を止め、インベントリに車をしまう。
ソフィアさんを抱えるようにして検問の列に並んでいる。身分証があるので今回は不安がない。ソフィアさんに無理をさせたが、新しい街から王都まで二時間程度でやって来られそうだ。
王都に入ってもソフィアさんは、まだ、僕の腕の中でぐったりしている。
「大丈夫ですか?」
「もう少し、このままにしてもらっていいですか?」
「わかりました。あそこのベンチでやすみましょう」
広場のベンチに座って道行く人々を眺めている。色んな人がいて活気もある。にぎやかな声の中に、笑い声も混じっている。こんな街が作れたらいいと思う。インベントリから水を取りだし、ソフィアさんに渡す。
「ソフィアさん、水を飲みますか?」
こくこくと縦に首を振る。ソフィアさんの手が伸びて、水を飲み始める。
「ソフィアさん、パンを食べますか?」
こくこくと縦に首を振る。ソフィアさんの手が伸びて、パンも食べ始める。しばらくすると、パンがなくなり、手が次のパンを要求する。何か、おかしい。インベントリから二個目のパンを渡す。それも食べ始める。
おかしい。
「ソフィアさん、ひどいですよ。僕をだますなんて」
「ひどいのは王子よ。私が怖がっているのに、どんどん、スピードを出すから、それで気分が悪くなったのよ。少し心配させたいから、気分が直っても、悪い振りしてたのよ。それくらい許されるひどいことだったと思うわ。でも、王子の私への愛が感じられたから、まぁ、良い気分よ。へへへっ」
いたずらっぽくソフィアさんが笑う。
どう考えても僕の負けだ。
「時間がないから、パパっと買って帰りましょう」
急にソフィアさんが主婦の顔になった。
「ロベルトさん、戻ってきました」
ロベルトさんに報告する。
「王都にはたどりつけたのですか?」
「勿論です、ソフィアさんとお買い物してきました。僕が作った車で行くと急いでいくと二時間、ゆっくりで三時間くらいですかね。意外と近いですね。今から歓迎会の準備をします」
「そうなんですね。トンネルは有望ですね。この街ももっと人がくるかもしれません。そういった意味で、皆の団結式として、歓迎会ですが楽しみになりますね。手が空いている住民をソフィアの手伝いに向かわせます」
噴水のある広場でロベルトさんへの報告も終わり、僕も祭りの準備を行う。
机とか椅子とかカトラリーとか噴水の仕掛けとか、文化祭の準備をしているみたいでウキウキしてきた。




