第69話 アイデンスタッド
「やってしまいました」
ロベルトさんにまた頭を下げている。実は、倒れた木をすべてインベントリにいれてしまったのだ。
それを見た村長の驚愕の表情を思い出すと、申し訳ない気が再度、やってくる。その後の村長は神を見る目で見ていて、僕が言葉を発する毎にいちいちひれ伏すようなお辞儀をするようになった。
まずいと反省するも、ロベルトさんは放置していた。後で聞くと、その方が僕への信頼感が増し、住民もおとなしく従うとの判断だった。
村へ戻ると村長が村民を集め、住居を移すことに関しての話合いを行っていた。村長が押し切る形で強引に移住を決めてしまったようだ。移住に関しては三回に分けて行うことになり、その評価で移住しないという決断をしても良いということになったようだ。
村に帰ってきたロベルトさんと僕を村長が見つけると、皆の前に連れてきて、僕を神様だと紹介した。それを否定しようとしたら、横のロベルトさんが肘で小突き、僕を黙らせ、何も言えずにお辞儀だけの挨拶となった。
村長は興奮して魔法を使えというが、それは勘弁してくださいと辞退したが、集会に参加している人々の前で先に移住する村長の息子家族の家をインベントリに収納したら、住民の何人かは腰を抜かし、また、何人かはひれ伏して僕に祈りをささげている。やはり、やりすぎは良くない。僕に過度に期待されても困る。僕は神でないのだ。村長含め、村民には僕は普通の人であることをいずれは説明しておく必要がある。
それから、先行する村長の息子家族五人、息子さん、その妻と子供三人を引き連れて、鉱山の入口から灯りの魔道具が照らす道をたどって崖の上の街に戻る。街を見た息子家族は不思議な世界を見るような顔をしている。
現在、最初に見た噴水に興奮した子供が噴水にかけより、転げまわり、村長の息子夫婦は建築中の家を見て驚愕し、住宅街にインベントリから出した以前の家が新築になっていたのを見て、家族一同、家に入るのを尻込みしてしまう。
さらに家の前に見ているうちに出来上がった土魔法で作った洗濯場に立ち尽くす。僕は、洗濯場につけた蛇口の操作を説明すると、子供含めて、ひねって水を出して、ひねって止めるを繰り返す。
水場で遊んでいる村長家族に、川沿いの土地に畑を作るために、土地を耕してほしいというお願いをした。了解を得ると、僕は彼らから離れ、建築中の住居の前に戻ってきた。
入手した大木を出す。家具を作ろうと思うが、椅子とかテーブルとかはイメージはあるが、実際に作るための仕組みとか、それを組み立てる技術はない。できるとしたら、組み立て式の三段ボックス程度の簡単なものしか作れない。
しかし、三次元プリンターで家具を作れる気がしている。
取りだした大木を素材にして水と火魔法で溶かし、それを固めて成型する。まずは、ダイニングの椅子の三次元フレームイメージを作成し、その倍率設定を行い、三次元プリンターを起動する。にゅるにゅると木材素材の原料が出てきて木目がないプラスチックのような椅子ができた。
次はテーブルを作る。三次元フレームをイメージして、三次元プリンターを起動する。木目がないプラスチックのようなテーブルができた。味わいはないが、これでいいかもしれない。
ダイニング、厨房、従業員の部屋、応接室、休憩室。二階の各部屋に同じように机と椅子、ベッドのフレーム、チェストを作っていく。三階にも研究用の大きな作業テーブルと作業用の椅子とベッドフレームを用意した。
あとは、ベッドのクッションとか布系のものか?このあたりは、アルベルトさんのレバークレーゼン商会から購入しよう。
午後は、日課である魔道具工房で、ソフィアさんと魔道具作りとなる。ソフィアさんが言う。
「王子、昨日休んだ分も作る必要がありますね。頑張りましょう」
「そうですね。フローラさんの期待に応えないといけないですね。あと、噴水の傍に村長の息子さん一家が住み始めました。なので、提案なのですけど、住まいを変更しませんか?新しい家をある程度、住めるようにしました。いかがでしょうか?」
「勿論、王子と一緒ならいいですよ」
手は休めず、お互いに魔道具を作っていく。
「王子、私からの提案も良いですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「この光の魔道具ですが、魔石ボックスの抜き差しで消えたり、点いたりするのですが、ちょっと使い方として不便に感じます。何と言いますか、魔石ボックスを接続し灯りを点けたままで、灯りを消したり、もう一度、点けるということはできないでしょうか?」
「やはり、そう感じられましたか?アッ、でも、まだ、〝停止〟で止まる回路はあったか。ソフィアさん、これから、光の魔道具を点灯させますので、それから、〝停止〟と魔道具に呼びかけてもらえませんか?灯りが消えると思います」
僕は光の魔道具に魔石ボックスを装着して点灯させる。それに、ソフィアさんが声をかける。
「停止」
「あっ、消えた。凄いです、王子。でも、点ける時にはどうするんですか?」
「そういえば、その回路はないので、今だと、魔石ボックスを抜き差しするしかないですね。こうやって」
と、僕は光の魔道具の魔石ボックスを抜いて、差した。灯りが点灯する。
「うーん、その操作でもいい気もします。でも、もっと便利に使いたいですね。消えた灯りをもう一度点けることはできませんか?」
「できるのですが、回路の追加が必要なのです。それをどうやってやろうか、考えているのです」
「追加した魔法陣に書き換えたらいいんじゃないですか?」
「それだと、これから作成する分は問題ないのですが、以前作成したものが既に古いものとなってしまい混乱が起きそうです。それをなんとか、回避できないかと考えています」
「できることが増えたのですから、それは、新しい製品として、販売したらいいんじゃないんですか?」
「そうですね。そういう考えもあります。しかし、今回は出したばかりなので、流石にそれはクレーム案件ですね」
ゆくゆくはダウンローダーも考えて、まるっきり違う魔法陣で動く魔道具も作りたいが、それには、バージョンも確認できるように付け加えることが必要だ。まだまだ販売して製品管理するにはやることが多い。
今回は、パッチを作って補完することにした。実は魔石を接続するために、光の魔道具から取り出した入力線には、メインの回路に割り込むダミーの入力線を用意していたのだ。そのラインを使うことにした。
魔石ボックスの魔力の入切で対応しようと思ったが、強制的な魔力の切断は、次に起動したときに以前確保した魔素のエリアとの干渉による悪影響が考えられた。そのため、メイン処理から引いてあった魔力のダミーラインからパッチ回路を追加して対応することにした。パッチ回路には〝停止〟で動作していない魔力と魔素を入力する回路を、〝起動〟という言葉で再起動するようにした。
追加回路の魔法陣を空中にセットし、光の魔道具の魔石ボックスのところに出ているダミー入力の線と魔力線を繋ぐ。魔石ボックスを接続する魔力入力部分に、人差し指を当て、魔力を流す。灯りが点灯する。
「停止」
灯りが消える。
「起動」
と、呟くと同時に指から、再度、魔力が吸われるように流れていくと、灯りが点灯した。上手くいった。
このパッチ回路を魔法ぶっくに定着する。次に、土魔法で2cm角の平面を持った印鑑サイズの石を作成する。そして、魔法ぶっくに定着したパッチ回路を再度、作成した印鑑サイズの石の平面に定着する。
「追加回路ができました。テストしてみます。ソフィアさんが作った灯りの魔道具をかしてもらえますか?」
僕は入手すると、パッチ回路の石の平面に魔法インクをつけて、魔石入力部の〇の縁に触れるようにして押して印刷する。
「出来ました」
「簡単ですね」
「じゃ、テストです。ソフィアさん、お願いします」
魔石ボックスを装着する。灯りが点いた。
「停止」
「起動」
ソフィアさんの声に灯りが消えたり、点いたりする。
「停止」
「起動」
「停止」
「起動」
「停止」
灯りの魔道具を点滅させて、喜んでいるソフィアさんが可愛い。
「面白いです」
ソフィアさんが花のように微笑む。
「自由に扱えるのは楽しいですね。これで夜中のトイレも怖くないです。でも寝るときには灯りを暗くできたりしますか?そうすると、夜もこわくないですし」
「そうですね。では、明るさの調整ができるようにしましょうか?」
〝起動〟で使ったパッチ回路が魔素の収集回路につながっているので、そこに収集量を通常量か、絞った量かの二段階で調整できるはずだ。
ソフィアさんが試していた魔道具から魔石ボックスを外して、〝ライト〟で通常量、〝ダーク〟で絞った量となるような追加回路を作成し、空中魔法陣化して、魔力線を魔道具に繋ぐ。再度、人差し指から魔力を放出して、〝ライト〟、〝ダーク〟と言って、ソフィアさんと確認しながら明るさを調整する。
ソフィアさんから許可が出たので、この追加魔法陣を魔法ぶっくに定着する。さっきの手順で、魔法ぶっくから定着して、ハンコ型の追加パッチ回路を作った。
これに魔法インクをつけて、魔石入力部の〇の縁に触れるようにして、さっきのパッチ回路の横に押して印刷する。
できたのを確認すると、ソフィアさんが呟く。
「ダーク」
「ライト」
「停止」
「起動」
「面白いです。使えないはずの光魔法が使えるようで嬉しい」
光の魔道具に照らされる彼女のキラキラした目を見ながら、彼女の優しい声を聴いていると、催眠術にでもかかったかのように僕は彼女に魅かれていく。
「ソフィアさん、この土地に名前をつけてくれませんか?」
「えっ、私が付けて良いの?前から考えていた名前があるんだけど。下の村がアイデンドルフでしょう?だから、鉄の町ということでアイデンスタッドってどうかしら」
「アイデンスタッド。いい名前ですね。それに移住してくる村の住人も違和感がなく使える感じです」
「良かった。ひとつでも王子の力になれて」
ソフィアさんの微笑みが花開く。
それに誘われるミツバチになった気がした。




