第67話 夢を作る
「これはなんですか」
ソフィアさんの一言である。
「凄いですね」
ソフィアさんの次の言葉である。
何もない街にそぐわないこの建物が異様な威容を誇っている。
大体の外形はできたが、扉もなければ、窓もなく、床もまだできておらず、コンクリートむき出し状態だ。
ソフィアさんとロベルトさんと一緒にこの建物を歩いて、説明していく。
ロベルトさんの家を参考に、一階は玄関から続くホール。ホールの奥に二階へ上がる階段があり、ホールは二階まで吹き抜けである。
玄関から見て右横には、広めの応接室と休憩室を、左横にはダイニングと厨房、従業員の部屋。
二階は右が住居用スペース。左が客室である。各部屋には、バス、トイレを設置する予定だ。住居用スペースからは三階に上がる階段がある。
三階は僕の研究スペースとすることを話した。
そこからは、屋上に上がれる階段をつけてある。屋上には手すりがあり、転げ落ちない造りになっている。ここには、オーニングを作り、テーブルと椅子を置いて簡単な食事ができるようにしたいと話した。
それに、温室を作ることも。温室の横には既に作った貯水槽。
これで、この建物全体の水を賄う。引いてきた上水設備からここまで水をくみ上げる必要があるため、今は空の箱である。と、屋上で一通り説明する。屋上から辺りを眺めながら、ロベルトさんが言う。
「凄い景色が広がっています。王子の噂は聞いてはいましたが、話していただいてもどんな屋敷になるか想像ができません。分かるのは、この国のどんな建物よりも過ごしやすいものになるだろうということです。私もお手伝いしたいのですが、何かやれることはありますか?」
「あのー、お願いがありまして、この土地には見ての通り、木が非常に少なく、入手するには遠くまで行く必要があります。ですので、木材の入手ができません。木材の入手をお願いできないでしょうか?伐採が必要であれば、手伝います。あと、作物の種子とかがあれば、そちらもお願いします」
「分かりました。できるだけ、早く入手できるように対応します」
と、ロベルトさんは言って、ソフィアさんが作ったパンを嬉しそうに持って帰っていった。残されたソフィアさんが呟く。
「王子、私の部屋もあるんでしょう?」
「はい、用意しております」
「でも、私は要らない」
「えっ、なんでですか?」
「勿論、王子と一緒に住むからよ」
ソフィアさんが笑っていった。
「期待に応えられるような素敵な部屋にします」
「良かった。分かってもらえて。私も何かお手伝いしましょうか?」
「いや、もう少し、一人で作業したいので、待ってもらえますか?」
「そう、じゃあ、しかたないわ。仕事の邪魔になると思うから、帰りますね。王子頑張ってね」
と言って、ソフィアさんも帰っていった。
僕も地上に戻り、扉と窓を作ろうと思う。三次元プリンターの魔法陣で、作成する素材を鉄に替えて、今度は、ロベルトさんの家のデータの魔法陣を起動し、指定した各種扉と窓のフレームを作る。
次に作成する素材を石英と石灰石を溶融する魔法陣に変更して、三次元プリンターの魔法陣を起動して、ガラスを作成する。そして、作成したガラスをフレームに取り付け、扉と窓を仕上げていく。すべて開き戸であるのがいまいちなのだが、しょうがない。玄関の扉もガラス張りで、中が見えるのはどうかと思うが、これも仕方ない。後で頑丈な木の扉に替えよう。
とりあえず、密閉された空間ができた。
次は床である。
床はコンクリートだが、まず、このコンクリートに土魔法の魔力をまとわせ、魔素を封入して研磨する。研磨した後に、タイルサイズの筋目を入れて、滑りにくくする。これを一階から三階まで行っていく。壁も同時につるつるに研磨した。ひとまずは、内装はこの程度とした。内装の対応ができて、また、外にでる。
次は、給排水。鉄パイプのイメージと排水溝のイメージを石盤に定着する。家のデータで配管の長さを決めて、三次元プリンターで鉄パイプと排水溝のイメージをセットして、インベントリから出した岩泥の山を再度範囲設定して起動する。
できた順番に鉄パイプで配管を作り、排水口を作って、排水を下水管に流すように下向きの配管を設備する。建物の外に太めの配管を設置し、地中の排水溝に接続して、排水は完了である。
さらに、蛇口のイメージを石盤に定着する。三次元プリンターで鉄パイプと蛇口のイメージをセットして、排水設備をつくったように給水設備を作っておく。屋上に設置した給水槽から配管し、蛇口で止める。これを繰り返し行う。
最終的に給水槽へ水をあげるポンプを開発して設置すれば完了である。この給水ポンプに関しては、水魔法の魔道具で解決した。上水道と鉄パイプを給水槽と接続し、水を吸い上げる水魔法の魔道具を作って対応した。これにより、定期的に魔石の交換は必要となるが、一定量の水が常に屋上の給水槽に溜まることになる。部屋の蛇口をひねると水が流れるのは気分がいいものである。
さらに、三次元プリンターで陶器製のバスタブ、洗面台、腰掛け式のトイレも作る。設置調整に時間がかかったが、これにより、クリーンで綺麗にすることなく、風呂に入れる。また、腰掛け式トイレにはお尻を水で洗う魔道具も取り付け、超快適なトイレとなった。これで、ぼっとん式ともお別れである。
さらに、光の魔道具も設置する。
しかし、広い室内が明るくなると、部屋の調度類が無い分さびしく感じた。
それを解消するには、サロン用、食堂の机椅子とか、寝具とかの家具類の調達である。これは明日以降で対応するとした。
魔力の使い過ぎかもしれないが、非常に疲れた気がして、ソフィアさんの元に帰ることにした。
「ソフィアさん、早いのですが、帰ってきました」
「王子、お疲れ様です」
「あらかた住めるよう頑張りましたので、お腹もすきました」
「食事を用意しますか?」
「そうですね。そうしましょう。食べてから、見ていただけますか?少し、驚いていただけることもありますよ」
夕方の食事を終えて、ソフィアさんと再度、屋敷に戻ってきた。光の魔道具を点灯していく。今日は凝った演出はしない。
「王子、外が見えます。星が綺麗ですね」
ソフィアさんはガラス窓越しの夜景を見ている。山脈の先の星が点滅している。
「この屋敷にはこの国の未来を詰め込みたいと思っています。戦争もなく、皆が笑って、今日も一日楽しかったと言える世界です。まだ、どうしたら良いか?分からないことが多いのですが、こまごまとした生活労働から解放され、皆がこの国を良くしたいと考える時間を持てる未来です。分かってもらえると嬉しいんですが……」
僕はソフィアさんに語りかけるともなく話す。また、お風呂場に案内して、バスタブに栓をして、蛇口をひねる。
「見てください。こうすれば水が出ます。皆さんの水汲みの手間が減ります。ここは川が近いのでそういった労働にかける時間は少ないかもしれませんが、こういった時間を減らしていければ、誰かが今度は、こうしたら、もっと便利にできるということを考えることができます。そんな未来です」
「素敵な未来ですね。私も一緒に歩いていけますか?」
「僕が案内しますので、大丈夫です。その未来の一歩ですが、トイレにはいってみませんか?ここに、こういう風に座って用をたします。
終わったら、後ろのレバーを上げると、水で流されるので、匂いもあまり残りませんし、清潔です。さらに魔石ボックスをここにセットしてください。驚かないでくださいね。お尻を洗うことができます。終わったら、その魔石をこちらにセットします。すると濡れたお尻を温かい風で乾かします。一度、使ってみてください」
「恥ずかしいです」
「えっ、なんですか?」
「恥ずかしいです」
「えっ、どうしてですか?誰も見ていませんよ」
「王子、王子が見ています」
「あっ、そうですね。そうでした。では、見えないところに移動します。何か、あったら、呼んでください」
僕はそう言って、ソフィアさんから離れる。トイレの方からごそごそと音がして、
「きゃー、助けて!」
僕はトイレに駆け込む。
「ソフィアさん、どうしました?」
「キャー、王子、どうしてそこにいるのですか?」
「助けを呼ばれませんでしたか?」
「呼びましたけど。あっちに行ってください」
「大丈夫ですか?」
「恥ずかしいです」
「えっ、大丈夫……です……か?」
「恥ずかしいから、あっちにいって!」
やるせない気持ちで僕はトイレから離れる。しばらくして、ソフィアさんが出てくる。
「慣れると気持ちがいいものですね」
「そうでしょう。使っていただけて良かったです」
「浅はかかもしれませんが、王子の目指す未来がわかったような気がします」
なんか違う気がするけど、まぁ、良いか。




