第65話 穏やかな日々
ロベルトさんは一日に一回、
「お変わり、ありませんか」
を言いに、僕らに会いに来る。
なんとなく、僕とソフィアさんの親密さが増したことを感じているようだが、何も言わない。僕らの住居が次第に広くなり、街が整備されていくのを確認して帰ることを繰り返している。
僕とソフィアさんの静かな一日が過ぎていく。
午前中は街づくりを行う。ソフィアさんはパン工房でパン作りだ。余ったパンはロベルトさんが村人へ配っているようだ。
僕は、アイデンドルフ村へと続く出入り口を中心に大きな広場にし、それを中心に放射状に広がる街並みを想定して土魔法で石畳の道を作っている。
同時に作る石畳の道の脇の排水路には傾斜をつけて、水が自然に広場に流れてくるようにしている。その排水路から集められる汚水は、広場の下を通り、川の傍に土魔法で作った貯水槽に溜まり、それから、別の大きめの三つの貯水池を通って、川へ戻っていく。
三つの貯水池は、沈殿池、反応槽、最終沈殿池と分かれており、日本にあった下水システムとなった。反応槽にはゲームによくいた悪食のスライムが見つからず、地中にいたバクテリアを培養することにした。しかし、作ったのは良いが、まだ、汚れた水もなく、下水処理が正常に動作しているのか分からない。
また、川上流には上水施設のための貯水槽とろ過槽を土魔法で用意して、そこから、上水の配管を土魔法でブロック単位で小さな貯水槽を作って、最終的には、広場に噴水広場を作った。
僕が想い描く広場では自由市が開かれ、人々の活気を産み、明るい声と笑顔がこぼれていく。横にはこの噴水広場があり、その噴水の高く上がる水を見ながら皆が立ち止まり、市で買った食物をすわって食べるためのくつろげるベンチもあるそんな広場だ。そんな広場では、大道芸人が体芸、手芸、話芸で技を競い、舞台もあって歌も聞こえるような世界。しかし、まだ、そんな声は聞こえない。この世界はまだ僕とソフィアさんの二人だけだ。
昼食を食べた後は、魔道具工場で、火の魔道具と灯りの魔道具、魔石ボックスを作る。フローラさんの代わりに、ソフィアさんが手伝ってくれる。何回か説明したら、フローラさんの代わりにライトの魔道具をソフィアさんが作り始めた。
魔力の使い方が上手いのか、すぐにできるようになり、魔石ボックスの作成も手伝ってくれる。当初の日産で50個、50個、100個を二人だけでも半日でやっていけそうだ。
「ソフィアさん、魔力の扱い方が上手いので魔道具作り早いですね。流石です」
「王子、誰もいない時は、ソフィアでいいんですよ。〝さん〟は要りません」
「いや、そういう言い方はちょっと……」
「ちょっと……って、なんですか。問題ありますか?」
「いや、ありません」
「じゃ、呼んでください、早く」
「用事もないのに呼べませんよ」
「いいじゃないですか、早く」
うーん、困った。ソフィアさんが僕を見つめている。困った。期待を裏切るわけにはいかないと思い、
「ソフィア」
と小声で言って僕はうつむく。
「聞こえません」
彼女は微笑みながら、俯いた僕の顔を覗き込む。
「どうしたんですか、王子」
「そういうのは、ちょっと心臓に悪いです。これくらいで勘弁してください」
「ふふふっ、そういう王子も好きですよ」
ソフィアさんが笑って抱き着いてきた。彼女の体の重さと同時に体温を感じる。なんか言わないといけないと思い、
「ソフィア、さん、そういえば、川から上水を引いてきて広場で噴水が見られるようにしました」
「一緒に見ましょうか?」
「そうですね、ベンチもありますし、ゆっくりできます。あっ、でも、夜にしましょう。ライトの魔道具でライトアップしてみます。きっと綺麗だと思いますよ」
「楽しみです。光に照らされた噴水」
彼女は僕の頬にキスして離れた。
「王子、急いで夕食を作ります。早く、夜にならないかなぁ」
ソフィアさんが食事を作っている間、僕はライトの魔道具にタイマー回路と光の色フィルター回路を追加して、光が点滅し、同時に、光の色が変わるようにしたライトの魔道具を特別につくった。
それから、広場の噴水まで行って、噴水を囲むように贅沢に光の魔道具を配置し、さらに、噴水の中心部に、先ほどつくった点滅して灯りの色が変わる魔道具を配置した。後は、魔石ボックスを取り付けるだけである。
家に帰るときに、道沿いに光の魔道具を置いていく。星明りでも見えるだろうが、夜に家から光の道を歩いて、噴水まで行くのも楽しいだろう。
楽しい食事が終わると、僕らは家の外へ出た。星明りを消すように、光の魔道具の灯りが一本の道を照らしている。
「わぁ、素敵」
ソフィアさんがそういうと、いつの間にか、腕を組んできた。彼女のぬくもりが快い。それを愉しむように僕らはゆっくり光の道を歩いていく。やがて、噴水の前に到着する。
「ここに座りましょう」
噴水のベンチに、一緒に腰掛ける。
「見ていてください」
僕は、ベンチの手すりに魔石ボックスを設置する。噴水の周りから光が飛び出し、噴水がライティングされる。吹き出す水が聳え立つ塔のようだ。さらに、もう一つの魔石ボックスをベンチの手すりに設置する。今度は、吹き出す水の下から点滅する色とりどりの光が水とともにあふれ出す。
「わぁ、綺麗。光がキラキラ踊っている。私見たことがない。星の光が近くにあるようよ。王子、ありがとう。この目の前の世界を私は独り占めできるのね」
ソフィアさんがこの演出を喜んでくれてよかった。この演出をするために、ライトの魔道具の魔力線をベンチの手すりまで伸ばしていたのだ。
さやかな風が空気を揺らし、遠くにある草木を揺らす。それが、音楽のように聞こえ、湧き上がる水が光のダンスをしているようだ。
この世界で二人の時間が流れていく。
ソフィアさんは僕の肩に頭を預け、その時間の流れを愉しんでいる。僕は彼女の背中に手を回し、彼女の甘い匂いに酔って、酩酊する。
僕は夜の星を見上げながら、果てしない宇宙を抱いているような気がしていた。




