第63話 崖の上の台地
翌日は朝食後、ロベルトさんの後をついて村を見て回る。
確かに井戸の他は何もない。あると言えば、住居の周りの小さな畑である。典型的な寒村の風景である。
確かに見捨てられた村なのかもしれない。
第一王子から上手く押し付けられた感が否めない。まず、昨日話した飲み水の確保が十分できないと人も増えないし、水を使うパン工房とかもできない。ロベルトさんが、村長の家まで案内して話を聞いてくれる。
会った村長に聞けば、近くに水源があるようなのだが、険しいところらしく、そこから水を引くには資金もなく、最初からあきらめているとのことだった。無理だという一点張りだったが、何度も繰り返し、見るだけでもいいからとお願いしていたら、案内してくれることになった。水をなんとかしたいという気持ちが伝わったのかもしれない。
水源は、確かにあった。
しかし、それは、滝として深い滝つぼに落ちていた。目の前に20mほどの垂直の崖がそびえ、その上から滝が落ちている。滝つぼは崖下からさらに低く、水は川となって流れ下っていた。滝つぼから揚水するよりは、単純に考えると滝の上流からパイプでこちらの平地に水を送るのが今後も利用できる最善の方法ではないだろうか?
崖の上から水が引けるか、確認したい。
垂直の崖の上に行くには、梯子か階段が必要なので、土魔法で崖に階段を作ることにした。
「皆さん、崖を削ります。少し、下がってもらっていいですか?魔法でこの崖に階段を作ります」
「アース・シェイブ・ウォール・3m×1m×20m」
崖に奥行き1m、広さ3mで崖を削る。
「アース・ステア」
削った土で階段を作る。
これを、何回か繰り返して、崖を上る階段ができた。
できた階段で崖を上っていく。
「王子、最初に上がるのは危険です。私が先に登ります」
ロベルトさんが腰の剣に手をかけて崖の上に注意深く登る。登り切って、僕に上がるように促す。
「王子、大丈夫です。問題ありません。上がってきてください」
僕も崖の上にあがる。見ると、大きな草原が広がっていた。ぽつり、ぽつりと灌木が見えるが、なんとも大きな草原である。山が遠くに見える。
「この土地は誰のものでしょうか?なんで、こんな土地があるのでしょうか?」
後から上がってきた村長に聞くと、こんな場所があるとは思わなかったと言っていた。鉱山は、現在の村のある位置から、この崖に坑道を下に掘っているとのことだ。だから、村長が分からないのももっともだと思う。
ロベルトさんもここは王国も知らない土地ではないかと言っていた。ただ、発見したとの報告の仕方によってはハインリッヒ王子の横やりが入りそうなので、オルフェス先生と相談してから報告すると言っていた。
「ロベルトさん、ここに魔法工房と住居を作ってもいいでしょうか?」
「王子、多分、ここは、誰の土地でもありません。私が管理を任されているのはアイデンドルフの村だけです。作るのは王子の自由です。但し、必要があれば、私も王子と王子の土地を守ることはやぶさかではありません」
「ロベルトさん、心遣いありがとうございます」
僕は行動を起こした。
まず、ここを拠点にして、この台地を探索してみよう。
僕は川が見え、また、上ってきた崖の近くに魔道具工場をインベントリから取り出し設置した。
ロベルトさんと村長は、突然現れた魔道具工場に驚きの表情を見せたが、僕はさっさと入っていく。それに、ロベルトさんと村長は従う。
魔道具工場で一休みしている時も、ロベルトさんは何か言おうとしていたが、無言だった。
無言で従うロベルトさんと村長をつれて、魔道具工場から出て、周囲を調べてみる。
見回すと、台地を割るように滝につながる川が流れている。この土地自体は、背の低い草花が生えており、豊かな牧草地のようだ。また、アースの魔法で土地の成分を確認すると、色んな作物も作れそうな肥えた土地だった。
生活するのには最高の土地である。
『ここに新しい街を作りたい』
僕は強く思った。
僕はこの台地への道を先程作った崖の階段でなく、坑道から直接上昇していく道を作りたいと思い、村長に聞いた。
「村長、現在、坑道には何人の人が作業していますか?」
村長は驚いたように僕を見つめ、ロベルトさんの顔を窺うように見た。
「村長、王子の言う事は、私の言う事と考えて、答えて大丈夫です」
と、ロベルトさんがフォローしてくれる。
「今日は掘り出した鉱物の仕分け作業をしているので、坑道には誰もいません」
村長がそう答えたので、
「ロベルトさん、僕はこの台地と村を繋ぐ道を今から作りたいと思っています。我がままだと思いますが許してください。できれば、坑道の入口近くまで、通路を延ばしたいと思っていて、坑道に影響があるとまずいので、作業の状況を確認しました。では、ここから、村の方へトンネルを掘ります」
「アース・ディグ・ホール」
斜めに穴が出来て、周りに土が積まれる。更に同じ魔法を繰り返し、掘り進める。出てくる岩はインベントリへ入れながら、掘り進む。馬車が通れるような広くて緩やかな道を作って掘り進む。所々に、ライトの空中魔法陣を設置し、インベントリから魔石を出して、灯りをつける。
それを何回、何十回繰り返したのだろうか、坑道の入口まで到着した。
MPを確認する。まだ余裕がある。魔臓が大きくなっているのを、こんなときに実感する。
坑道とつながった部分の修復に少し時間がかかったが、なんとか、たどり着いた。さらに、馬車が入れるように坑道の入口を広げる。そして、坑道の入口から、外に出る。
灯りの魔道具の明るさから、日光の明るさに目が慣れるのに少し、時間がかかった。陽の光が真上から降り注ぐ。
僕は二階建ての住処まで走った。
フローラさん達に崖の上に住みやすい台地を見つけたことを伝えたくてしょうがなかったのだ。




