第62話 ロベルトさんとアイデンドルフの村
アイデンドルフは本当に何も無い村だった。いや、あるものはあるのだが、無いものは無いという平凡な村だった。
あれから、ロベルトさんと面会し紹介された。
彼は王都の警備隊に所属している、きりっとした凛々しい顔をした背が高い銀髪の青年だった。オルフェス先生とマチルダさんからの事情説明を受けると、一人暮らしの気ままさなのか、ロベルトさんはアイデンドルフの領主代理となることを了解した。
本当に良いのかなぁと思うくらいの軽い決断だった。
その後、帰って行ったロベルトさんは、翌日から、アイデンドルフの村に赴任した。僕らが生活出来るように、村に宿泊施設を作ったり、工場の用地を確保するとのことだ。その間、僕はフローラさんと魔道具の製作をして過ごしていた。
製作時に、アイデンドルフ村の進捗状況や魔道具の販売状況を教えてくれる。フローラさんの魔道具製作にもベテラン感が出てきて、僕らの居住施設が出来たという連絡がきた頃には、火の魔道具を300枚、ライトの魔道具を300枚、魔石ボックスを1000個ほど作っていた。
これを、フローラさんの次の商売のためにレバークレーゼン商会ですべて引き取り、次の製品はアイデンドルフ村で作るとして、王都での製作は打ち切りとなった。
村への受け入れ準備が出来たと連絡がきた翌日の朝、僕は引っ越しのために、魔道具工場を丸ごとインベントリに仕舞い、また、ソフィアさん、アンナさんと僕のベッド含めた部屋の中身を丸ごとインベントリに仕舞う。
まぁ、驚かれるのも仕方ないと思いながら、食料、料理道具、生活用品をインベントリに仕舞った。
それから、ほどなくしてやってきたレバークレーゼン商会の馬車でフローラさん、セバスさんと一緒に王都を離れ、アイデンドルフへ向かった。
季節は夏に向かっており、また、道中の治安もよく、安穏とした旅となった。僕がフローラさんに出会った場所から王都へ向かう旅はにぎやかさが増してくる旅だったが、今回の旅は、次第に人気がなくなり、畑もなくなり、雑木林とその先に見える山に囲まれる旅となった。
昼は簡単な軽食と水で各自済ませ、途中の小さな村で一泊する予定だったが、着いてみると泊まれるほどの宿もなく、村の手前の空き地に魔道具工房をインベントリから取り出して僕とセバスさんが宿舎とし、馬車をフローラさん、ソフィアさん、アンナさんの女性達で利用し、野宿することになった。僕らの周囲に護衛の冒険者が見張りを兼ねてテントを張って宿泊することになった。
僕は火の魔道具を取りだし、セバスさんと一緒に料理をしながら、ソフィアさんのパンと一緒に皆にふるまう。簡単な料理ながら、皆さん喜んでもらった。
また、その後は光の魔道具で僕らの周りを囲んで明るくすると護衛の人々も驚いていた。また、物珍しさに村の人々が見学しにもきた。
それほど、この世界では、夜の灯りは貴重であるのを感じる。この明るさに動物は怯え、近寄らないだろうということだった。僕も旅の疲れからか、セバスさんのフローラさんの自慢話を聞いているうちに眠ってしまい、起きたら次の朝になっていた。
それから、朝食、山道を移動、昼食と休憩、山道を移動して、陽が暮れかかる頃、アイデンドルフの村が見えてきた。近づくと、入口と思われるところには、ロベルトさんが立って手を振っている。
ロベルトさんの笑っている顔を見ると、旅の終わりを感じ、一緒に来てくれた人達の無事に安堵した。入口から村に入ると、柵で囲まれたアイデンドルフは本当に何も無い村だった。
「いやー、清々しいくらい何も無いでしょう」
ロベルトさんが話しかけてくる。
「そうですね。鉱山の村だからでしょうか、少し、寂しく見えますね」
「住むとこだけは確保しております。この広場の先に見える二階建ての家になります。この家の一階を村の役所として使いたいと思い、ここに不似合いの二階建てとしました。住居は二階になっており、私の部屋もそこにあります。レバークレーゼン商会の方々は二階にゲストルームがありますので、そちらをお使いください。お疲れでしょう、早く家に行きましょう」
「分かりました。色々ありがとうございます」
ロベルトさんに促され、僕らは広場の先の家へ向かう。
「護衛の方には申し訳ありませんが、宿泊施設をまだ用意出来ておりませんので、広場を適当にお使いください」
とロベルトさんは護衛にも気を使っていた。
二階建ての家に玄関から入ると、学院の母屋とよく似た作りである。正面に二階へ続く階段がある。一階の右は事務所として使う部屋らしく、カウンターが設置されている。左はサロン、食堂、厨房となっている。そこで、
「こちらがメイドのセリーヌです。以前から私の身の回りの世話をしてもらっていたので、王都から連れてきました」
ロベルトさんから紹介される。
「セリーヌです。至らないところあると思いますが、これからよろしくお願いします」
「セリーヌさん、ラインハルトと申します。よろしくお願いします」
「ソフィアです」
「アンナです」
「フローラです」
と、フローラさんまで自己紹介する。
「お茶がいいですか?それとも、早いですけど、食事にしますか?」
ロベルトさんから聞かれる。
「この村のことをお聞きしたいので、まず、お茶にしませんか?」
と、僕は答え、続けて、
「ソフィアさんとアンナさん、フローラさんの旅装を解きたいので、部屋を教えてもらえますか?」
と、聞くと、ロベルトさんから答えた。
「その二階へ行く階段を挟んでコの字型の左右に三つずつ部屋があります。右の奥の部屋が私の部屋なので、子供の頃のように、次にソフィア、アンナとして下さい。左側の奥の部屋を王子の部屋として、残りの二つはゲストルームとしていますので、フローラさんとセバスチャンさんでお使いください。
セリーヌ、悪いけど、お茶の準備をしてくれる?」
「分かりました」
と言って、セリーヌさんが厨房に下がる。
「では早速。ソフィアさん、アンナさん、荷物を置きますので、お付き合いください」
と、彼女たちに言葉をかけ、連れだって二階に移動し、ソフィアさんの部屋に荷物をインベントリから取り出し、アンナさんの部屋にも同様に取りだした。
ベッド含め、王都の部屋からもってきた家具を配置する。それが、終わると僕の部屋も同様の操作で引っ越しが完了する。
ついでにゲストルームを見ると堅そうなベッドがあり、フローラさんでは体が痛くなる心配をして、ソフィアさんの部屋にあった以前フローラさんが使っていたベッドに交換しておいた。
セバスさんには悪いけど、この固いベッドで許してもらおう。
戻るとお茶の用意がしてあった。フローラさんとセバスさんが、お茶を片手にロベルトさんと談笑していた。
「部屋に荷物をおいてきました。お待たせしました。この村のことを教えていただけませんか?」
戻って席に着くとそう話しかけた。
ロベルトさんが答える。
「この村ですが、広場の先の鉱山の入口周りに十軒ほどの家があり、鉱山の入口に掘り出された鉄鉱石と石炭を野積みしております。この鉱物資源を定期的に王都から引き取りにくるようですが、現在は、掘り出される量が減っているため、引き取り頻度も減っていて、数か月に一回程度となっているようです。
小麦等の食料の購入もこの鉱山資源で行っているため、鉱山資源の減少は購入品の減少につながっており、慢性的な食料品不足となっています。このままではこの村は廃村になる未来が待っているというのが現状ですが、王子の魔道具工房が出来れば、これが改善していくと思っております」
「なるほど、当面の食料は持ってきたのでなんとかなると思いますが、食料は当面の課題ですね。次は、主力の鉱山からの資源の減少ですか。その前にインフラはどうなっていますか?」
「まず、飲み水ですが、井戸になっています。村の広場にある井戸が唯一となります。住民も苦労しているようです」
「近くに川とか、水が出ているところはありますか?」
「私は分かりかねますので、住民に聞いてみましょう」
「柵がありましたが、魔物とか野生動物の村への侵入とかはあるのでしょうか?」
「それは最初に来た時に確認しましたが、昔あったということでした。昔というのがどの程度かは不明ですが、住民の記憶にあまり残っていないことからほぼなかったものと判断しています。しかし、王子の工房が出来るので、秘密を守るためにもきちんとした柵というより、防護壁が必要だと考えており、手配をしております」
「分かりました。課題は山積みだと思いますが、まず、食料も大事ですが、これは、レバークレーゼン商会に当面はお願いするとして、飲み水の確保が優先ですね。
その次は、ここまでくる道の整備が必要かもしれません」
僕はそれだけ話して、一口、お茶を飲んだ。
何もない村にガッカリ感を出さないように、続けた。
「ただ、僕としては、やるべきことが多くてワクワクしてきました。アンナさんには、ここの事務所の一部を改造してもらって診療所を作り、担当してもらいましょう。ソフィアさんはパン工房の立ち上げですね」
僕がそう話すと、皆も口々に話し始める。
やはり、やるべきことがあると、村の未来の姿を想って色々なアイデアが出てくる。そのあたりのとりまとめはロベルトさんにお願いするとして、僕はこの世界も前の世界と変わらないということを感じていた。
やはり、何もない村は寂しい。




