第61話 平穏な日常とブランド化
それから平穏な日常が過ぎていった。
僕は魔道具工房で魔道具の作成を行い、偶に、パン工房でパンの製作を手伝い、ジャムを挟んだジャムパンとか、層を作ったパイ生地のパンとかを提案し、パンも種類が増え、好評だということだ。
パンに関してはレバークレーゼン商会経由で王都にパン屋とか宿泊施設で食べられるようになったということだが、美味しさと物珍しさで、これも予約制になったということだ。そのため、現在は、王宮御用達となっている。
かなりの収入になっているが、ソフィアさんも最初の感動が薄れ、機械的な作業になりつつある。そろそろ限界だと思う。新しい人を雇うか、工房でなく、工場とした方が良いのかもしれない。
また、ポーションの製作も順調なようだ。これに関しては、既に実験室から工房へと独立することになった。こちらも定期的にレバークレーゼン商会経由で冒険者ギルドへ販売出来ている。
アルベルトさん、フローラさんが来ている。
いつも夕食をする母屋の食堂である。
「食事の時間で、申し訳ないと思いましたが、居ても立っても居られないお話のため伺いました。申し訳ございません」
アルベルトさんがオルフェス先生とマチルダさんの方を向いて話し出す。その向かいには、僕とソフィアさん、アンナさんが座っている。
「どんな御用でしょうか?」
「今日、ハインリッヒ王子から王宮によばれ、魔道具の今回の販売状況を説明してきました。王子はいたく満足された様子で、今後も利益を増やしていくために王子の一族を表す月桂冠の称号を魔道具に着けることを許されました。この称号をつけることでこの国での魔道具を扱う商売は我々以外は許されないことになります。
反面、ハインリッヒ王子への利益の分配率も5割から6割になり、製作が続く限り支払い続けないといけないことを要求されました。これに関しては、商会の取り分からお出しすることにしますので、学院やラインハルトさんにはご迷惑をおかけすることはありません。
しかし、こちらの譲歩ばかりではと思いまして、大々的に工場をつくるための土地をお願いしましたところ、ハインリッヒ王子の所領地である王都からかなり離れた村の領主を私が拝命いたしました。
当然、私は王都にいる必要があり、そこで、代理を任命する必要があります。その領主代理として、オルフェス先生になっていただけないかと思い、居ても立っても居られずはせ参じました。
ハインリッヒ王子としてもやがて見つかるであろう製造場所を遅らすことも出来、また、その後の他陣営からの妨害もあることも想定出来るので警備の強化も必要ということで、さらに、自治も許されることになりました。いかがでしょうか、領主となっていただけないでしょうか?」
「なるほど、魅力的な提案です。是非、受けさせて下さい」
オルフェス先生が即答する。そして、話し続ける。
「しかし、私はすぐにこの学院を離れるわけにはいかず、また、マチルダもポーション作りで離れられないでしょう。パン工房はミーナがやるとして、隠しておきたい王子をその土地へ移動させられるのは我々にとっても都合が良いです。
王子には娘のソフィアとアンナをつけますが、警護の人がおりません。
これは私からのお願いになりますが、領主代理の職を、息子のロベルトに譲らせていただけないでしょうか?
そうなれば、息子が王子を守ることができます」
オルフェス先生の願いに、アルベルトさんが答える。
「それは、問題ありません。ラインハルトさんが魔道具製作の中心人物ですので、その警護は最優先事項です。相応しい人がいれば、オルフェス先生にお任せしますので、私は特に問題ありません」
「ご了解ありがとうございます。私とマチルダもこの学院の運営をやってもらえる人材を見つけしだい、その村へ行くことにします。ところで、その村の名前は何と言うのですか?」
領主を受け入れることを決めたオルフェス先生は、アルベルトさんに質問する。
「アイデンドルフという村になります。王都より、二日ばかりの距離の人口が100人程度の鉱山をもつ寒村のようです。住民は小さな畑を持っておりますが、ほぼ鉱山従事者で、鉄鉱石と石炭の採掘が主な仕事となっている小さな村ということでした」
アルベルトさんが言うと、フローラさんが続ける。
「私も今の魔道具事業の販売に目途がついたら商会の支店を作るという名目でその村に向かいます。ハインリッヒ王子のお墨付きをいただいたので、魔道具の価格は現行価格より二倍とするつもりです。
ハインリッヒ王子への支払いの割合も増えますが、金額ベースでは商会は一・五倍、学院は二倍となるので結果的には良い契約かと思います。ただ、予約プレミアムがついている状況ですので、庶民まで広がるような道具にならないのが残念です。
しかし、この国の全貴族の家々に配備されることを考えると、今後数十年単位での莫大な利益が望める商品となります。当然、それを扱う当商会はこの国の筆頭商会となり、この魔道具を使って他国にある支店の拡充を図ることが出来ます。
勿論、控え目に言って数年先だと思いますが、この大陸一の商会になるでしょう。そのつもりで魔道具事業には力を入れていく所存です。お父様にも今以上に頑張っていただき、ハインリッヒ王子を通じてこの王国の中枢の中で、王子の助力が出来ると思っております。
こういった差し出がましい計画をしておりますが、王子、お許しいただけますでしょうか?」
フローラさんの畳み込まれるような会話に押し出されるように僕は、
「大丈夫です」
と、答えた。
オルフェス先生が引き取るように、
「ソフィア、アンナ、良いね。王子のサポート頼んだよ」
「わかりました」
「わかった」
「でも、オルフェス。ロベルトにはどうやって話す?」
マチルダさんがオルフェス先生に聞いた。
「今からでも呼びに行ってもらう。ロベルトにも協力してもらうことが我が家の使命であることを説明して、納得してもらうしかない。
それに、ハインリッヒ王子の使命となると現在の部署も断り切れないだろうから、軍務の方も問題ないと思う。
ミーナ、誰かをロベルトのところにやって、至急、家にくるよう言ってくれ」
慌ただしく周囲が変わっていく。




