第56話 工場建設
フローラさん主導で工場建築場所の実地検分に来ている。
オルフェス先生から案内された学院の工場予定地は、研究棟と並んである武術訓練所という広場の研究棟よりの一部だった。五人程度が作業できる広さの家屋を建てて、入口近くを六畳くらいの工房に作業机、その奥に四畳くらいの倉庫を作り、そこに棚を置いて資材と製品を置くように考えていると話した。
ここから、フローラさんは早かった。
一緒についてきていた工事監督と話し出し、監督は間取りの位置取りをし始めた。それから、高さを決めると監督は帰って行った。
その後、離れの近くの僕が作ったパンを焼く窯のところまで戻ると、ソフィアさんがここでパンを焼いていると説明した。
フローラさんが言う。
「ソフィアさん、どうせだったら、魔道具工房の横にパン工房を移転しませんか?そうすれば、魔道具工房の作業状況を確認しながら、パンを焼くことができますよ」
「そうね、いい提案ですね。お父さん、良いでしょう?王子、窯を移動したいのですが、よろしいですか?」
ソフィアさんから窯の移動をお願いされる。僕は、窯をインベントリに格納する。
「えっ、インベントリ。窯も入るくらいの容量がある。凄いですね、ヒロシさん」
「そうですか?たいしたことないと思いますよ」
「いやはや、もう底知れないですね」
と、フローラさんとの会話。それを聞いていたソフィアさんが、
「私の王子は凄いでしょ。このインベントリで私の部屋の引っ越しも簡単に終わったのですよ」
「そうなんですか、ヒロシ様がいると便利ですね。私の引っ越しもお願いしたいですね」
「引っ越しとかあるんですか?えー、どちらに?」
「それは秘密です。ふふふっ」
フローラさんは意味深の笑いをしていた。皆で魔道具工場の建設場所に戻る。すると、何人か引き連れて監督が戻ってきており、指示を出しながら、資材を建築場所に置き始めていた。
「早すぎないですか?」
僕がフローラさんに言うと、
「商売はタイミングを逃すと大きな利益を失ってしまうのです。巧遅拙速で対応するのが、私が教えられた商売の基本になります」
フローラさんが答える。
こんな娘だったのだ。
フローラさんがまた監督と話し始めた。魔道具工場の横にパン工房の間取りをソフィアさんと確認していく。オルフェス先生はうなずくしかないのか、傍観している。
何か大きな歯車が動き出した気がする。
それはゆっくりとだが、確実に回りだした。
その中心には誰がいるのか?
作業の様子を漠然と眺めていると、ソフィアさんから声がかかった。
「王子、もう、私達がやれる事は無いようです。お父さんも学院に帰っていきました。それでと言っては、何ですが、昨日言われた攻撃魔法をお見せしたいのですが、お時間はいかがですか、母にも連絡してあります」
「大丈夫です。是非、お願いします。場所は、と言えば、訓練所がすぐ横にあったのですね」
ソフィアさんに先導されるように訓練所に行く。
訓練所は、遠くに丸い的がかけられている50m四方のただの広場だった。的から30m程度離れたところに来ると、そこにはマチルダさんが待っていた。
ソフィアさんが言った。
「お母さん、王子に魔法を見せてあげて、お願い。私はミーナと今日食べるパンを焼かないといけないの」
「分かったわ、ソフィア」
そのマチルダさんの言葉に、ソフィアさんは離れの方に戻って行った。
「王子、私の魔法の威力に驚かないでね」
マチルダさんが少し笑って、僕に話しかける。
「ここから、火属性の攻撃魔法であるファイアボールをあの的に向けて魔法を放ちます。いきますよ。
天地の理に沿って、私は彼の的に打ち当てる、ファイアボール」
彼女は強く右腕の掌を突き出すと、火の玉が放出され、先の的にぶつかり、ドーンと大きな衝撃音を出し、はじけて爆風が髪を撫でていく。
「マチルダさん、凄い威力ですね。もう一度、見せてもらえませんか?」
「分かりました。次はランスを放ちますね。
天地の理に沿って、私は彼の的を穿つ、ファイアランス」
彼女は強く右腕の掌を突き出すと、火の槍が放出され、先の的にぶつかり、突き抜けるような金属音が響き、次に大きな衝撃音を残して的の先の壁にぶつかった。
「凄い、凄すぎる。何が起こっているか、もう分からない。どうしよう。凄く興味がわいてきた。マチルダさん、少し、体をみせてもらっていいですか?」
「何それ、何で体を見る必要があるの?外で裸になるのは恥ずかしいわ。どうしてもって言われたら、王子のためには人肌ぬぎますが……」
「魔力の流れを見たいだけなので、裸になる必要はないですよ。鑑定を使わせて下さいという意味です。鑑定を使うとある程度、魔力の流れが見えるのですよ」
「でも、この魔法は凄く疲れるので、もう、何回も使えないの。出来て、あと一回。それも、成功しないかもしれない」
「なるほど、それはまずいですね。では、アプローチを変えて、生徒に教えるように使い方を教えて下さい」
「分かりました。では、説明しますね。まず、ファイアボールの場合は、火の玉を想い浮かべて、呪文を唱える。その後、思いっきりドーンという感じで掌を思いっきり、前に突き出す。それでファイアボールが使えるようになります。やってみてください」
「やってみてって、言っていることが良く分かりません。もう少し、具体的に教えてもらっていいですか?」
「具体的に言ってって、十分具体的じゃない?呪文を唱えて、火の玉イメージを掌先からドーンと出すと、ピューッと出て行って、バーンって的に当たって爆発する。これ以外はないわ」
何故か、この学科をとる生徒が少ない訳が分かった気がする。それでも、マチルダさんの言う事から類推すると、魔力の膜で魔素を包み爆発させると火の玉状態になる。その状態の火の玉を体内の魔力を使い、強い力で押し出しているのだ。
多分、これは疲れるし、何度もできない。
ランスの場合は、ボール状でなく、槍状に広げた炎をさらに強い魔力で押し出しているのだ。
〝火を作る〟操作と〝押し出す〟操作をするために魔力を違った形式に変化させて使用している。これを感覚的に操れるのは天才である。としか、言いようがない。
「マチルダさん、困りました。できる自信がありません。もし、良かったら、マチルダさんのステータスを覗かせてもらっていいですか?」
「えっ、王子だから許しますけど。恥ずかしいから、早くして下さいね。ステータス」
「いやいや、変なとこを覗くわけではないので、すぐ、済むと思います。多分」
僕は彼女のステータスの火魔法の項目から、ファイアボールを覗いてみる。この状態で彼女が魔法を発動したら、何か、分かるかもしれないと、ふと思い、そのことを口にしてみた。
「マチルダさん、申し訳ないのですが、ファイアボールを失敗しても良いのでやってもらっていいですか?」
「分かったわ。王子の頼みだもの、何とかやってみます。
じゃ、行きますよ。
天地の理に沿って、私は彼の的に打ち当てる、ファイアボール」
すると、彼女の内部から魔力が膨れ上がると、見ているステータスの火魔法のファイアボールが輝きだし、魔法陣を作った。その魔法陣を瞬間的に僕のステータスの火の魔法項目に定着させる。
その魔法陣はさらに光り出すと、火の玉が勢いよく彼女の掌から放出された。その瞬間、魔法陣は消え、的に当たる衝撃音が遠くで聞こえた。
「もう限界、王子、限界。もう何もできない」
マチルダさんはゆっくり跪いた。
「気分が悪い。最悪」
僕はインベントリから、最高品質ポーションをマチルダさんに渡す。
「すみません。無理をさせてしまいました。最高品質ポーションです、飲んでください」
「あら、ポーション、王子、隠し持っていたのね」
と言って、彼女はそれを飲んでから、
「ところでこれはいつ作ったの?」
「マチルダさんと一緒に作った時の最高品質ポーションの残りです。魔力も少し回復するはずなので、気分が改善されませんか?」
「あー、そういえば、気分の悪いのが治ったわ。それに、なんか力が湧いてくるよう。こんな効果もあったのね。やっぱり、最高品質ポーションは凄いわ」
「良かった」
「ファイアボール使えそう?」
マチルダさんが僕に話しかける。
「使えるかどうかまだ分かりませんが、勝手に写させてもらいました。すみません。それを解析すればなんとかなるのではないでしょうか?
時間がかかると思います。それと、ステータスは消していただいて結構です。ありがとうございました」
僕はマチルダさんにお礼を言った。
「あら、そんなことまで出来るのね。構わないわ。王子が使えるようになるなら、それが一番よ」
僕の言葉にマチルダさんが答え、続けて、
「じゃ、戻りましょうか」
と、マチルダさんから声掛けをしてもらって、僕は訓練所からそのそばの工房建設場所に戻り、マチルダさんは学院に帰って行った。




