第55話 事業化計画
オルフェス先生とレバークレーゼン商会のアルベルトさんの所へ来ている。
ちょっと違うのが、ソフィアさんもついてきている事だ。これからは、僕の監視要員として常に一緒にいるとのこと。アルベルトさんも、今日は、娘さんのフローラさんも同席している。
いきなり、フローラさんから挨拶をいただく。
「ヒロシ様、先日来、持って帰りました残務処理が多く時間がとれず、お礼のご挨拶もできてなくて申し訳ございません。そちらもほぼ片付きましたので、今回、父より、ヒロシ様の新しい案件に参加するように依頼を受けまして、列席させていただいております。
あのときは、お見苦しいところをお見せしました。命を助けていただいた方の前では、商人の顔でお返しするのが筋かと存じます。ヒロシ様の利益につながるよう尽力いたしますので、何なりとお申し付けください」
アルベルトさんが、言葉を繋ぐ。
「というわけです。私よりも娘の方が優秀で、仕事も早いと思います。今後は何卒、娘をよろしくお願いします」
オルフェス先生を見ると、僕に喋るようにと目で合図された。アルベルトさんの評価が、僕を胡散臭い魔法使いから金を生む魔術師へと変化させていることを気付かされるフローラさんの参加だと理解した。
まぁ、仕方がないかなぁと思いながら、
「こちらこそよろしくお願いします。早速ですが、今回は、お約束通り、火の魔道具をお持ちしました。また、ついでと言ってはなんですが、ライトの魔道具も用意しました。まず、試作品を見ていただけないでしょうか?」
僕は、魔石ボックスがずれにくく改修した火の魔道具とライトの魔道具をとりだす。
「こちらが火の魔道具です。ご要望は三種で火力をご用意する予定でしたが、まず、一つ用意しました。この火の魔道具の上にこの馬蹄形の五徳を置きます。この五徳の上に鍋がのります。魔石ボックスの底にある銀色の丸と火の魔道具の銀色の丸を合わせると火が点きます。こんな感じです」
僕が操作すると、五徳の周りと中心に火が点いた。火は、火の魔道具から5cm程度上で点いている。
「また、点いた火はこの火押し棒で魔石ボックスをずらすと消えます。操作はこのようになります。また、魔石ボックスには狭い縦長ののぞき窓を用意して、そこから、魔石の色の確認ができるので、残りの使用時間の目安にすることができます。操作以上です。
これが、中火力となりますので、小火力、大火力も用意する予定です。何か、ご質問ありますか、というより、実際、動作させてみますか?」
と言って、火の魔道具をアルベルトさん、フローラさんの前に押し出す。
「初めて、見ますけど凄いですね。これがあると、煮炊きするときに薪がいらなくなりますね。また、火を熾す作業がなく、すぐ調理できるようになりますし、火を持ち運べるので馬車の旅でも煮炊きが可能になります。何より、煙くないのが良いですね」
そう言いながら、フローラさんが魔石ボックスを動かして、火の魔道具の火が点いた。
「あら、操作も簡単。これは売れますよ。どれくらい期間使用できそうですか?」
「まだ、正確な実験はできておりません。ただ、一日で使用できなくなることはなさそうです」
「そうですか、私どもでテストするので、試作品のお貸出しは可能ですか?」
「はい、こちらをお貸出しします。次が、ライトの魔道具ですが、こちらになります」
と、僕はライトの魔道具も出す。同じ操作で灯りが点くことを説明すると、こちらも高評価だった。
アルベルトさんが話し始める。
「レバークレーゼン商会としてはすぐにでも販売したいと思います。どれくらいの数が提供可能でしょうか?」
この質問にはオルフェス先生が回答する。
「それに関してですが、効率よく生産するために、学院内に小さな工場を建て、そこを生産拠点にし、販売していただくことを考えております。また、魔道具の材料である石盤と魔法インクを作る魔法銀の提供と工場の建設資金の提供を受ければ、すぐにでも学院の人員を動員して安定した供給ができると思っています」
その言葉を引き取り、フローラさんが澱みなく回答する。
「分かりました。どれくらいの工場でしょうか?小さな家くらいであれば、数日で建てるよう手配します。場所は学院でいいですか、このお話合いの後、すぐに場所を見に行き、手配します。
また、魔石と魔法銀は既に調達しておりますので、こちらも工場建築後、すぐに支給いたします。次に石盤ですが、これと同じ物であれば、これも数日で提供可能なようにいたします。
次に、販売計画ですが、最初はプレミアムをつけて売り切り、品不足感を出し、購買意欲を湧き立たせます。その後、王都本店や支店での予約販売させていただく計画をたてております。
今回の製品は他の商会が真似出来ないものであるため、多分、この予約はとんでもない数になると想定し、最初の年はこの予約の対応だけで精一杯だと思います。
生産能力が予約に追いつかない場合は、予約を受け付けないようにして、さらに、購買意欲を掻き立てますので、供給能力に不安があっても心配しないでください。
同種の模倣製品がすぐに売り出される可能性がある場合は、市場を独占するために一挙に製品を大量に出す予定でしたが、真似できない仕組みがあるため、私ども商会の独占販売ができて、これから先も安定して利益を上げ続けることが期待できる商品だと感じました。
初回ですが、この火の魔道具を200枚、ライトの魔道具を100枚、魔石ボックスを600個を当面の納品としていただくことでよろしいでしょうか?その後は、日産で魔道具をそれぞれ20枚、10枚、魔石ボックスを100個として提供していただくようお願いします。
予約の状況により量産をお願いすることになるかもしれないので、順次、工場も広げていただくか、別のところに建てていただく必要があると思います。
ともあれ、生産計画に関しては、初回販売後、ご相談させてください」
初めて見ただけの製品に関してのこの判断の速さは、アルベルトさんのいう通り、フローラさんは切れ者なのかもしれない。これで眼鏡をかけたら、優秀なキャリアウーマンのようだ。でも、笑うとところどころに女性らしさがでて、このアンバランスさに魅かれるものがある。
僕のフローラさんを見る目が気に食わなかったのか、ソフィアさんが話し出す。
「王子と一緒に住んでいる、ソフィアと申します。王子とは懇意にさせていただいております。王子はこの世界の仕組みがまだ良く分かっていないので、父がいない場合は私が代理で対応させていただきますので、ご承知おきください。
また、このようなパンを学院製造で販売させてもらうつもりでおります。商会が扱っているパン屋と競合するつもりはないので、こちらはお見逃しいただくと助かります。ちなみに販売しようとするパンはこちらになります、ご賞味ください」
と、籠に入ったパンを打ち合わせの席においた。
フローラさんがひとつ、摘まんで食べ始める。その仕草まで優雅に見える。
「美味しいですね。それだけでなく、柔らかくてふわふわです。これもヒロシ様の知識ですか。ますますヒロシ様には興味が湧きますね。お父様もひとつ召し上がってみてください。新しい美味しさで、貴族にはうけると思います。しかし、これを庶民から販売するのは、利益を失う暴挙かもしれません。
ソフィア様、こちらも当商会経由で販売しませんか?
もし、ギルドに登録することをお考えなら、お止めになった方が良いと思います。これほどのものでもギルドは安く買いたたいて、自分達の子飼いのパン職人を使って利益を上げようと考えてしまうそのような商品です。これは、製法を分からないようにして販売した方が良いと思います。
そちらに損はさせませんので、この工房も一緒に立ち上げましょう。口の堅いパン職人も紹介できますし、工房を作る資金も商会からお出しします。いかがでしょうか?
お父様、よろしいですか?」
フローラさんの方が一枚上か、あの怯えて泣いていた女の子とは思えない。もしかして、別人なのか?
「おっ、確かに美味しいな。それに、中身が白くて柔らかだ。何個でも食べられそうな気がする。美味しい以上に、お金の匂いもする。良いね、投資しましょう」
アルベルトさんも即断だった。
「これに、表面に卵を塗って焼くと香ばしさが増しますし、焼いた後にクリームや餡を詰めたりすると別の美味しさがあります。また焼く生地を何回も伸ばして繰り返して、丸めて焼いたりするとパンのバリエーションが増えますよ」
僕が言葉を追加すると、オルフェス先生とソフィアさんが僕を睨む。
「王子、余計なことを言わないでください。皆さんが混乱してしまいますよ。それはまだ王子のアイデアですので、それが、すぐ実現できるわけではないのですよ」
「すみません。言葉が過ぎました」
「ヒロシ様、面白いお話ですね。是非、今度、お話をお聞かせください。ところで、ヒロシ様のことを先ほどから王子と呼ばれていますが、王子とはどういう意味でしょうか?」
フローラさんはさらに絡んでくる。
オルフェス先生が慌てて、返答した。
「あっ、すみません。ラインハルトさんが我が家に来た時の印象で、私の妻がつけた別名でして、我が家では、王子の愛称でお呼びしております。特に他意はございません」
これに面白くないのか、ソフィアさんが続ける。
「王子は私がいないと打ち合わせはできません。そこのところは、よろしくご理解してください」
と、きっぱり答えていた。それはそれで何かが僕の知らないところで始まる予感がする。
交渉は終わり、次は学院に戻って、工場建築場所の実地検分となる。




