第53話 好きにして
慌ただしい夕ご飯を終えて、離れに戻ってきた。
ソフィアさんは後片付けがあって少し遅くなるようだ。オルフェス先生とマチルダさんの混乱が美味しいはずのソフィアさんのご飯を台無しにした感じがする。その原因を作ったのは僕だという事がわかっていたとしても、そこまで、熱くなる必要もなかったのではないかと思う。
どの案件に関しても人、物、金が必要であって、あのメンバーだけでは解決できないことは分かりきっていることなのだ。僕がやってくるまで、そういった外乱がなかったのだから、無理もないのかもしれない。
僕はいつものリビングのテーブルで、魔石ボックスを動かすとずれ、魔法が動作しなくなる件に関して考えている。やはり、動かないようなガードをつけるのが手っ取り早いと思っているが、安易すぎる気がしている。
カチッと収まった音がして、ロックが掛かる仕組みとかを考えてみたが、複雑な構造はコストもかかるし、壊れやすくなりそうだ。この世界は魔法の世界なのだから、魔法で解決出来れば良いけど、そうでなければ単純な仕組みが良い。
そこで考えたのが磁石である。磁石そのものを装着するのでなく、魔石ボックスの出力部の円を線でなく面で描いて、魔法陣の入力部も同じように面にして、魔法インクの吸引力で対応するとどうだろうか?と、考えた。
経年劣化で面が剥げると、吸引力は弱まる可能性もあり、耐久性には疑問も残るが、それは修復で対応するとすれば、いいように思える。
実際やってみると、軽く吸い付く感じで、ちょっと動かすくらいだと外れないが、ちょっと強い力だと外れるので、丁度良い。
良し、これで行こう。
量産試作で作成したライトの魔法陣の魔道具をこの方法で三式作った。また、魔石ボックスには魔石の残量が分かる仕組みを作った。仕組みというほどの事は無いのだが、魔石が見えるだけの細い窓をつけたのだ。これで魔石の色も確認出来るので、色がなくなるまで、どれくらい使えるかも分かり、交換の目安となる。
なんか、満足。
早速テストをしよう。
ライトの魔道具をリビングに置く。
点灯。
テーブルの上にあったランプを手にして、僕の部屋とソフィアさんの部屋の間の廊下に置いて、もう一つ点灯。
最後の一つは、僕の部屋に設置する。
僕の部屋に入ると、どこか違和感を覚える。しかし、ピンとこない。気のせいかと納得させて、僕の机に魔道具を置いて、点灯し、手に持ったランプを消す。
明るくなった室内で違和感の正体が分かった。僕のベッドの上の毛布が膨らんでいるのだ。また、もそもそ動くような気がする。野生の動物か、魔物が潜り込んでいるのかもしれない。
緊張する。
このままにして人を呼ぶべきか、それとも、このまま確認すべきか?攻撃魔法をまだ取得していない状況で戦うべきではないが、恐怖より、興味が勝った。毛布の端を掴んでおそるおそる引く。
少しずつ見えてきた。
しかし、手が出て毛布を引っ張って、こちらの引く力に抵抗するようになる。
「えっ、人。誰?」
さらに強い力で引くと、人が転がり落ちてきた。
「えっ、裸。なんで、アンナさん?」
「キャー、何で見るの?」
アンナさんが毛布を体に引き付ける。
「なんでって、それは、こちらの言葉だと思いますが。何でそんな恰好で僕の部屋にいるのですか?」
「早く出て行って。じゃ、なくて、早く私のヒールの魔法を強化しなさい」
「強化するというか、改善する事はできると思いますが」
「じゃ、早くして。恥ずかしいでしょ、痛くても我慢するわ」
「いや、そんなに痛くも無いと思いますけど、なんで裸なんですか?」
「お姉ちゃんにもこうしてやったのでしょう。だからよ」
「いや、変な情報ですよ。誤解されています。逆に、裸だと僕は集中できないので、やっぱり服を着てください。着るまで外で待っています」
「そんな、何とかしてよ。私をここに置いていくの?ひどい、酷すぎる。早くやってよ。私はこの国で一番の魔術師にならないといけないのよ。もちろん、王子を除いてね。そこは認めてあげるから、早くしなさい。しなさいよ。早く」
「えっ、言われても無理なものは無理ですよ。服を着てください。外にいますので、声をかけてくれれば戻ります。では」
と言って、廊下に出た。
「ねぇ、ねぇ、なんでだめなの。早くしてよ」
わーんと扉の後ろで泣き声が聞こえる。こんな時には悪いことが重なるもので、ソフィアさんがいた。
「王子、どうしたのですか?」
「何もしていませんよ」
視線が動く。
「でも、あなたの部屋から泣いている声がするのだけど。誰かいるの?」
「いると言えばいるのですけど。アンナさんが僕の知らないうちにいたのですよ」
「えっ、アンナ?王子、アンナに何をしたのですか?泣いているじゃないですか?」
ソフィアさんは僕を押し退けて、扉を開く。
そこには、裸で泣いているアンナさんがいた。
「王子、アンナに何をしたのですか?」
ソフィアさんが振り向き、鬼の形相に変わっていく。
「いや、する前ですけど」
「どういうことですか、アンナは泣いているじゃないですか。私がいるのにアンナにも手を出すなんて。
王子は綺麗な顔しているけど、心には悪魔が住んでいるのですね。どうしよう、お父さんとお母さんにも報告しないといけない。その前に、状況の整理をして、王子にも罰を与える必要がある。アンナ、どうしたの。何をされたの?」
ソフィアさんが僕の部屋に入り、アンナさんに近づいて、泣きじゃくるアンナさんと話し始めた。段々、泣き止むアンナさんと鬼の形相が和らいでくるソフィアさんを部屋の外で眺めながら、成り行きを見守るしかない。
どれくらい経っただろうか。
ソフィアさんが戻ってきて、扉を閉めた。そして、いきなり、頬を手でたたかれた。乾いた音が呆然としていた僕を現実に引き戻す。
「王子、大体状況が分かりました。アンナが悪いです。十八にもなって、何を考えているのか。王子に責任はないかもしれません。
でも、王子が何でもできるのが悪いのです。今まで、この世界にそういう人はいませんでした。それを見せつけられておかしくならない人はいません。
お父さんもお母さんも妹も私も、王子といるとおかしくなってしまいます。
頬をぶったのは申し訳ございません。
そうしないと私の気がすまないからです。
それも分かってください。
王子がやろうとすることを私達に止める権利はありません。
自重を求めることも無理だと思います。
しかし、王子の振る舞いで傷つく人がいることも覚えておいてください。傷つく人は少なく、多くの人には喜びを与えることができるのかもしれません。ただ、その少ない人達にあなたは支えられているということも忘れないで下さい。
今は分かってもらう必要もないかもしれません。
アンナには言い聞かせますので、一旦、リビングにお戻りください。
お願いします」
ソフィアさんが突き放すような言い方できっぱり言う。
「分かりました。リビングに戻ります」
僕はすごすごと戻り、ソフィアさんはもう一度、アンナさんと話すために僕の部屋へ戻って行った。
僕はリビングの椅子に座って考える。




