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異世界の魔法をプログラムする~日本生まれの異世界の王子は培ったプログラミング技術で魔法国家を建設する~  作者: 霧里 野蒜


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第51話 魔道具の試作

 ソフィアさんが籠一杯のパンを抱えて現れた。

 ずーっとパンを焼いていたらしい。小麦の焦げたいい匂いがする。いきなり、籠ごと抱えたまま体をぶつけるように近づいてきて言った。

 「王子、ふわふわパンいっぱいできましたよ。食べてみてください」


 そんなソフィアさんを受け止めるようにして、僕が返答する。

 「あー、ソフィアさん。近い、近いです。パンじゃない柔らかいのが僕の腕にあたってます。食べます、いただきます。ですから、少し、離れてもらっていいですか?」

 僕はパンを一つかごから取り出し、片方の手でソフィアさんの肩を軽く押す。ソフィアさんはお構いなく、笑顔を僕に近づけながら、話し始める。

 「美味しいでしょう。こんなに上手くできたのは生まれて初めてなのです。ミーナも褒めてくれました。いつでも嫁に行けるとのことです。へへっ。ですから、王子、食べてください。お父さんもお母さんも喜んでくれると思います」

 色んな誤解をしてしまう発言だが、食べてみると確かに美味しい。


 「美味しいですね。本当に美味しい。ソフィアさん、上手く出来ています。出来たばかりの窯を上手く使ってもらってありがとうございます」

 「ミーナも言ってましたけど、使い勝手が良い窯ですよ。美味しいパンがこれからいくつでも焼けると思います。また、ミーナとも話していたのですが、この美味しいパンのレシピは学院から商業ギルドへ登録してもいいでしょうか?」

 「問題ないと思いますけど、登録していい事があるんですか?」

 「レシピが商業ギルドに登録できると、そのレシピが公開され、そのレシピが購入されたり、使用されたりすると登録した人に一定額の使用料が支払われるのです。それが、少しでも王子のためになればと思っています」


 『あー、特許料みたいなものか』

 僕は納得して、ソフィアさんに返答する。

 「それであれば是非お願いします。色々、ご配慮いただいているので、お金に関しては私は不要ですので、ご家族の皆さまでお分けください」

 「えー、そうなんですか。王子に喜んでもらえると思っていたのに」

 ソフィアさんの笑顔が曇る。

 「喜んでいますよ。こんなに美味しいパンが食べられたんですから。オルフェス先生やマチルダさん、アンナさんは食べられたのですか?」

 「まだですよ。出来立ては王子のものです」

 なんか、どうしたのだ、このぐいぐい来る感じ。ソフィアさんはそういうキャラだった?

 「じゃ、夕飯にこのソフィアさんのパンを出すのはどうでしょうか?多分、びっくりするくらい美味しいって言ってもらえると思いますよ。僕もオルフェス先生とマチルダさんに試作した魔道具を見てもらいたいので」

 と、試作した魔道具を指さす。

 「凄いものができたのですね」

 彼女はすぐにキラキラした目で、試作品を見つめる。そして、話し出す。

 「わー、綺麗。それに、高級そうな感じですね」

 ソフィアさんの興味の対象が変わり、テーブルの上にある大理石でできた魔道具に近づく。


 「こちらがライトの魔道具です。そして、こっちが火の魔道具になります。そこの長細い、魔石ボックスの底にある丸と魔道具の真ん中にある丸を合わせてください。魔法が発動します」

 ソフィアさんが光の魔道具の丸に魔石ボックスの丸を重ねる。

 ポワーっと灯りが灯る。

 「簡単ですね。それに熱くない。火じゃないから火事も起きないから安全ですね。なるほど、円をずらすと灯りが消えるのか。ちょっとした操作で簡単に消えるのは問題あるかもしれませんね。

 ただ、便利です。この重さだったら持ち運びも出来るので、夜の廊下も階段も怖くないわ。あー、そうか。ずーっとつけていられるから、廊下に設置していたら持ち運ぶ必要も無いのか?

 コレが手に入るようになると、寝るだけの夜が変わって行く気がします。

 あっ、五徳のあるこっちが火の魔道具ですね、きっと同じ操作ですね。魔石ボックスの丸と魔道具の丸を合わせてと、わー、火がついた。

 簡単だ。

 煙くない。

 そして、こうして押し出し棒でずらすと火が消える。

 簡単だ。

 コレだったら料理の勉強ができるわ。

 ミーナに教えてもらいます。王子、嫁入り道具として私にも一台お願いします」

 振り返り、僕の方に念を押してくる。

 「分かりました。ソフィアさん専用の火の魔道具を作ってお渡しします。使った感じはいかがですか?」

 「簡単に使えて、便利だと思うわ。早速、お父さんとお母さんに見せに行きましょう。学院に行く?」

 「学院に行くと、何が起きるのか分からないので、母屋で待ちましょう。それまでに、ライトの魔道具を何個か作っておきます。この離れで使えるようにしましょう。離れが魔道具のモデルルームになるように頑張ります」

 「王子、私が手伝えることありますか。何もご用事がなければ、この試作の魔道具お借りしてもいいですか。料理に挑戦してみたいのです」

 「いいですよ。光の魔道具も一緒にもっていけますか。それで、使い勝手を後で教えていただけないでしょうか?レバークレーゼン商会のアルベルトさんに見せる前にできるだけ完成品に近い形にしたいと思っていますので」

 「わかりました。では遠慮なく使用させていただきます」

 と、言い終えると、二つの魔道具を持って出かけて行った。残されたかごに入ったパンが、美味しい匂いを静かになった室内にばらまいていた。


 そもそも、ソフィアさんは僕の食事の世話をする前提でここに住むのではなかったのか?それが、料理の練習?何か、前提がおかしい気がしてきた。

 ここで色々詮索すると良くないことが出てきそうで怖くて聞けない。あえて、別のことを考えよう。

 そう、魔道具の量産方法である。ソフィアさんの部屋、僕の部屋、リビングルームに設置できるようにとりあえず、三式を作る。ただし、僕以外でも作れる方法を考えることも必要だ。今回の同じ魔力でないと上手く機能しないプロテクトの肝心要の魔法インクだけを僕がつくれば特に量産にも問題が出ないだろう。


 量産を行うためには魔法陣の印刷ができれば良い。版画、ガリ版刷りなど、メインの印刷のための基盤をつくり、それにインクをつけて印刷していくのがベーシックな方法だろう。ガリ版などの特殊な蝋紙は作るのがまず大変だ。版木の代わりに石で印刷面をつくる篆刻みたいものが現実的なのかもしれない。日本だったら、CADプリンターとかオフセット印刷で対応できていたが、否、日本の知識で行うのでなく、この世界の知識で作るべきだ。


 「そうだ、底面に描いた魔法陣に魔法インクを塗り、それを製作する石に押し付け、定着を行う方法はどうだろう。うん、これであれば、定着の魔法陣をうごかす魔力があれば作ることができる。魔法陣の保護を兼ねるプロテクト用の重ねる石盤だけでは当面は僕が作る必要があるが、これでいこう」


 今回は何回も使用することを考えて、アースの魔法で水晶の板を作り、それを原版とした。そして、その上にライトの魔法陣を定着させた。それから、魔法インクを乗せるための溝を魔法陣の線に沿って、針で少しずつ彫り進める。

 しかし、この作業は遅々として進まない。一時間かけて、最初の入力部と最初の星への繋ぎの線だけができた。これでは、いつ終わるか、分からない。

 もう一度考える。


 この世界の知識で考えるという想定が間違っているのかもしれない。それよりは、ガリ版や印刷の知識で考えるべきか?

 魔法インクは他の人が作ったインクを弾くことから、僕以外の人の魔力で作った魔法インクを一面に張った板に、僕の魔力で魔法陣を描いた原版ができれば、次回から、僕が作った魔法インクだけが、その原版にのり、新しい丸い板を押し付け、それから、定着の魔法を使えば、ガリ版印刷の要領で量産が可能かもしれない。


 僕は急いでソフィアさんを呼んで来て、ソフィアさんに魔力で魔法インクを作ってもらった。そして、それを用意した水晶の板一面に塗った。それから、その上にライトの魔法陣を定着させてみた。

 思ったように、空中にできた魔法陣を単純に定着かけようとしても弾かれるのが分かった。それで、ゆっくりと板に押さえつけるように定着をかけていくと、僕の魔力の魔法陣が水晶の板一面に塗った魔法インクを少しずつ押し退けていくようになった。

 その操作に何回か、失敗した後、最終的に、力づくで魔法陣を張り付けることができた。


 次に僕が作った魔法インクを原版の魔法陣に垂らすと、思ったように、僕の魔力が残るところだけに、インクがのった。すべての線が埋まったところで、試作用の石盤を用意して、原版の水晶の板に張り合わせる。

 そして、張り合わせた面の反対側に描いた定着の魔法陣に魔力を流すと、一瞬、水晶の板が光って、定着が完了する。

 原版を剥がすと、試作用の石盤にキラキラとした綺麗なライトの魔法陣ができていた。

 一緒に見ていたソフィアさんが僕に声をかける。

 「上手く行きましたか?」

 「多分。確認してみます」

 僕は出来たばかりの魔道具に、指から魔力を流すとライトの魔法が発動して光が灯った。

 「ソフィアさん、成功です。上手くいきました」

 疲れているはずなのに、僕の声は浮かれていた。


 その後、二枚作ってみたが、特に問題なく動作した。

 量産の準備も整ってきた。

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