第44話 報告は楽しい
夕食が始まる前に火の魔道具の火を消す方法が解決した。
乱暴な方法であるが、火掻き棒のようなもので魔石を中心からずらして消火する方法である。家の周りから木の枝を拾ってきて、やってみたら上手くいった。
魔法陣の中に、魔力を遮断し、火を消す機能を追加する方法も考えたのだが、今日の報告に間に合わない。
できれば、まず、動作を見せて、成果を報告する方が言葉で行うより理解が高まると考え、五徳を作成し、温めることが出来るというプレゼンをすることを優先した。
そのために、急いで粘土で五徳を作り、これをレンガを作るように焼いて、併せて、粘土を焼いた突き出し棒を作った。
この突き出し棒で魔石を円盤の中心に押し出すと火がついて、消したいときは、突き出し棒で魔石をひっかけて中心をはずすようにする。そのため、五徳は完全に円形とするのでなく、突き出し棒が入る隙間を作った馬蹄に近い円形とした。後は、使用時間の問題だが、こればかりは使ってもらわないとどうか分からない。
夕食である。アンナさんがいない。
嫌な予感がした。
許しを請うて、食卓を明るくするためにライトの魔法を使う。
「ライト」
落ち込んでいた気分が少しは和らいだ。すると、オルフェス先生から一言があった。
「アンナは夕食を別でとります。どうも、王子と会いたくないとのことです。何があったか、教えてもらえませんか?」
僕は今日あったことを話す。
できるだけ詳しく、感情を入れずにだ。それを聞いたオルフェス先生が話し出す。
「アンナも困ったものです。治癒の魔法の才能があるのは非常に珍しいので、子供の時から甘やかしすぎたのかもしれません。
王子の魔法は我々の想像を超えるものです。それを間近で見たアンナは自分の才能と比較し、自分の無能感にショックを受けたのかもしれません。アンナもいつかはそれを受け入れて、また、努力して良い魔術師になることに期待しましょう。
誰しも通る道かと思いますので、王子、アンナのことは気にせずにお願いします。マチルダ、ソフィア、アンナの様子を食事の後に見に行ってください」
オルフェス先生は続けた。
「王子、その他はどういう風にすごされましたか?」
僕は説明した。
土魔法が使え、その魔法で焼成レンガを作ったこと。そして、ゆくゆくは、そのレンガを使って、窯を作り、陶器、磁器の作成、販売して、学院の運営資金としたいということ。
また、魔道具の修理と改造を行ったことを報告した。そして、満を持して、修理した炎の魔道具を取り出した。使い方を説明する。
「最初の解析で、この魔道具はランプの代わりの灯りの魔道具だと判断しました。しかし、炎が出るので、煮炊きをする道具として使えないかと思って改造してみました。この器具、五徳というのですが、この上に鍋を乗せて、この屑魔石をこの突き出し棒で、魔道具の中心にある円まで押し出します。こういった風です」
と言って、インベントリから小さな魔石を取りだす。そして、それを突き出し棒で魔道具の中心まで押し出す。少し経つと、ボッと小さな炎がいくつも出てくる。
「火を消すときには、この突き出し棒を使って、魔石を中心の円からずらすと火が消えます。この通りです。どうでしょうか?煮炊きに皆さんで便利に使っていただけないでしょうか?」
と、簡単だがちょっと自慢気なプレゼンを終わる。オルフェス先生、マチルダさん、ソフィアさんが無言のまま、目を見開いている。その時間が続いた。
オルフェス先生が我に返ったように話し始めた。
「王子には驚かされてばかりです。ともかく、私が話を始めると、食事を始めるタイミングをなくすので、まず、食事を開始しましょう」
しかし、オルフェス先生は話を続けた。
「食べながらで失礼ですが、まず、窯の建築場所ですが、離れの横の畑の前にある水汲み場のそばに空き地があるので、そこをお使いください。薪とか炭はどうされますか?」
僕は答えた。
「小さな窯ですし、魔法で火を熾せるので不要です」
オルフェス先生は続ける。
「そうですか、魔力不足になりませんか?」
「もう何回も経験したので、大丈夫だと思います」
「そうですか、それであれば、その点は心配しません。土魔法も使えるようになったということですが、これで全属性が使えるようになったわけですね。やはり、稀代の天才と言われた王妃の息子の証明でもありますね」
そして、言葉を選ぶように、続ける。
「次に火の魔道具の修復ですが、これは凄いことです。修復しただけでなく、煮炊きの魔道具として、改造されました。でも、結果として、自身の血液を使うのは危険なのでこれ以降はやめていただけないでしょうか?
魔法インクをつくることが出来る魔法銀を、今、色んな所で探してもらっています。ある程度、目途がたっており、近日中にお渡し出来ると思います。それが届いてから十分に魔道具の研究をお願いします。
また、試したいのでこの火の魔道具を貸出ししてもらえないでしょうか?我が家の台所で使ってもらいます。併せて魔石を何個か貸してもらえないでしょうか?改善点も出てくるでしょう。
ランプの代わりになるものでも凄いのですが、煮炊きにこれが使えれば、どこでも誰もが簡単に火を扱うことが出来ます。その便利さは莫大な利益を生む可能性があります。もし、屑魔石が使えることが分かればそれだけでも利益を生みますので、今のうちに独占的に入手する手段を構築していく必要があります。レバークレーゼン商会のアルベルトさんと相談が必要です。彼の喜ぶ顔が目に浮かびます。
しかし、これから生まれる富は非常に危険です。我々の目的であるアレクサンドの復興資金になるかもしれませんが、うまく立ち回らないと、王子のみならず、この学院を含む全てが権力により接収され、我々は自由を奪われかねません。
最後にこれは私からのお願いになります。王子、明日、ある人の使いが学院に来ますので、私と一緒にある人にご挨拶に行ってもらいます。その人に王子を保護していただくようにお願いするつもりです。これは王子の将来を決める非常に大事なことになります。
堅苦しく考えることはないと思いますが、ある程度の自重はお願いします」
もっと褒めてもらえるかと思った僕は、少し落胆し、答えた。
「分かりました。色々とご配慮くださりありがとうございます。アンナさんの件は申し訳ございません。私が人の心の機微が分からないときがあり、もう少し、私自身が勉強する必要があると思っております」
と、僕は話を終わる。
皆が食事を始めているので、僕も食事を始める。
少したって、マチルダさんから声をかけられた。
「王子、ヒカリゴケの粉末ですが用意しておりますので、食事の後でお渡しします。貴重なものですが、比較的入手しやすいものなので、不足した場合は、再度、お申し出ください。
また、アンナの事は気にしないでください。私のせいでもあるのですが、私が王子、王子というものですから、嫉妬もあるようです。アンナには私からもよく言っておきます。
それと、朝のクリーンの魔法は毎朝お願い出来ないでしょうか、生徒に評判なのよ。ソフィアもそうでしょう」
「そうそう、生徒の見る目が変わってきたのよね。私もお願いします」
と、ソフィアさんからもフォローがあった。
「オルフェス、明日は誰に王子を紹介するつもり?」
マチルダさんがオルフェス先生に尋ねる。
「それだが、……」
オルフェス先生が話し出した。




