第43話 魔道具修復
僕は部屋に戻り、壊れた魔道具を眺めている。
やはり、謎を解き明かしたいとか、修理して動かしたいとか、このワクワク感には勝てない。僕は、例の貯蔵部分の一部の線が切れているという解析出来た魔道具を見つめている。
修復する箇所も分かっている。
中心円に接続されている魔力を貯蔵する回路を作っているこの星の一部の線が切れている。この線を繋げば動作すると想定している。この線は魔法インクで描かれていて、魔法インクを継ぎ足せば修復出来そうである。
しかし、魔法インクをつくるための魔法銀がない。これがどこにあるか分からない。どこから見つかるか分かっているけど、どうしたら、そこに行けて、入手出来るかが分からない。
詰んでいる。
しかし、魔法エンサイクロペディアは自身の血で代わりにすることが出来ると言う。これは悪魔の誘惑である。
悩んでいる。
悩んでいるこの時間を、いつも解決するのはミーナさんの食事の呼び出しである。解決はしないが、気分転換になる。
昼食は一人だった。
「アンナさんは?」
と、ミーナさんに聞くと、
「お嬢さまは、泣き伏していらっしゃいます。食欲はないそうで、昼食はいらないとのことです」
ミーナさんが答えた。
責めるような口調があるような、ないような。
「そうですか。魔法を教えてもらっていたのですが、僕の前で魔法が上手く出来なかったようで、泣きながら部屋に戻って行ってしまいました。可哀そうなことをしました。オルフェス先生やマチルダさんが心配すると悪いので、もし、アンナさんのことを聞かれたら、そうお伝えください。そう言ってもらうと、僕への呼び出しがあるはずです。その時、僕から説明いたします」
正直に言う。
ミーナさんは聞いているのかいないのか、分からない無表情。
それで、次に僕のお願いをしてみた。
「針をお持ちではないでしょうか?貴重なものだと重々承知しておりますが、僕の実験に必要なので、お持ちでしたらいただけませんか?お金をお支払いします」
「お金はいりませんが、危ないことに使われるわけではないですよね。そうでなければお渡ししますよ」
「勿論、危険は絶対ありえません」
『はずです』
僕は虚勢を張る。
「分かりました。食事が終わりましたら、お渡しします」
ミーナさんは取りに行ったのか、そう言って、部屋を出ていった。
アンナさんのことを考える。どうにかして謝るしかない。しかし、悪いことはしてないはずなのにどう謝るべきか、悩むところだ。どちらにしろ良い未来が見えない。
結論がないことを考えても先に進めないので、こういう場合は、その場の雰囲気に流されるしかないとか、考えていたら、ミーナさんが戻ってきて、針を渡される。
「糸もお持ちしました。どうぞ」
と渡され、同時に、言われる。
「服の繕いが必要でしたら、私がやって差し上げますよ」
「いえ、裁縫は得意なので、大丈夫です」
僕はとっさに嘘をついて、針を入手した。余分だった糸も。
「ご馳走様でした」
日本風の食後の挨拶をしてそれらを持って、離れの部屋に戻る。
部屋の机の前に座って、例の魔道具を体の前に置いて、右手に針を持ち左手を見ている。
この針で、左手の人差し指の先を刺して、血を流し、この血で魔道具を修復する。
血を出した左手はヒールの魔法で回復する。それだけだ。それだけなのだが、針と指先を眺めながら、血を出す痛みに怯えている。
「ダメだなぁ。思いっきりが悪すぎる」
呟く。踏ん切りの悪い自分が情けない。
考える。
こんなことでためらうようであれば、たぶん、この世界で生きていけない。
異世界から転生してきた者である僕は、そもそも、この世界に最初から存在しておらず、当然、生きる場所などないのだ。
それを僕が必要とされる何かの能力によって自力で作っていかねばならない。
躊躇しているのは、たかが、指に針を刺すだけである。
僕は右手で持つ針を左手の人差し指に近づけ、一度、深呼吸した。それから、目をつぶるようにして、刺して、引き抜いた。
当然のように、指に小さな穴が開き、鋭い痛みとともに丸く赤い血が出てくる。その血で、壊れている魔道具の星の線をなぞる。
赤い血が星の線の上にのるがコロコロとはじかれる。前に描かれている線と馴染んでいかない。魔力と魔力が反発しているようだ。
以前からの線をまず溶かすように魔力を込め、それから、自身の魔力の込められた血を強引に混ぜ込む。反発が手に伝わってくるようだ。その反発に負けないように、必死に抑え込む。
何度も、何度も。
額には薄っすら汗も出てきた。それでも、反発は収まらない。あきらめそうになる気持ちをこれが僕の生きる道だと信じ込ませて、何十回、何百かの抵抗を無理やり抑え込み、やっと、抑え込んだ。
「ふーっ」
安堵の吐息がもれる。
後は僕の魔力が混ざりこんだ元の線が乾くのを待つだけだ。額の汗を右手の甲で拭う。待ち遠しい時間はなかなかすぎていかない。
そうだ、乾くまで以前の残った魔力の残滓をたどって、効率化出来る部分がないか探す。
そういえば、ギルドのエミリアさんは〝炎の魔道具は、10cmくらい上に炎が出る〟と言っていた。これでは温める効果が出にくい。どちらかと言えば、ランプに近い。もしかしたら、本来はランプのように暗いところを照らすようなものとして開発されたものだったのかもしれない。
温める魔道具にするには、日本にあったガスレンジのように中心に4個、その周りに12個くらいの小さな炎が出た方が鍋とかを温めるのに効率が良いように思える。
そのために、スターター回路の星から直接炎を出すのではなく、それから支線を出して、その支線からそれぞれ日本のガスレンジのように小さな火を出すようにしたら効率がよくなるはずだ。また、煮炊きで使うとしたら五徳のような鍋の乗せ台も必要となる。
僕の血が乾いたので、真ん中の魔石を置く場所に指先を置いて、そこから魔力を流してみた。ある程度、魔力が溜まったと思ったら、10cm上空に炎が出た。魔力を止めると炎が小さくなって消えた。魔力の貯蔵回路がふさがったことを確認出来た。
「成功だ。思った通り、動作した。動作は問題なさそうだ。次は小さな炎を出すように修正してみよう。その前にファイアの呪文がどこかにあるはずだ」
と独り言を言いながら、確認していくと、スターター回路の星の近くにそれらしい文字を見つけた。
これを消す必要がある。もしかして、僕の魔力に反発するのではないかと思って、その文字に魔力をかけると反発するような形で文字がはがれて浮き上がる。その文字を掴んだ。掌で文字が生きているかのごとく動く。これを洗い場まで持って行って水で押し流した。
次に先ほどの要領で、人差し指から血を出して、星から12個+4個の支線を描いた。線に血をなじませ、接続するのに時間がかかったが、しだいにコツを掴んだので思ったより早く出来たと思う。
出来た新しい星の文様の周りにプチファイアの呪文を日本語で記述し、魔力で定着させ、再度、乾くのを待つ。やることもなく目をつむる。色んなことを考える間に、疲れか、いつの間にか眠っていた。
目が覚める。
寝ぼけた頭で今迄を振り返ると、魔道具の実験をしていたことを思い出した。インベントリから魔石を1個取り出し、真ん中の円に乗せる。魔力が吸い出され魔素が集められ、やがて、12個+4個の小さな炎が出てきた。
「出来た。これで、煮炊きが楽になる魔道具が完成したかもしれない」
そして、上手く出来た高揚感の中、その燃える火を見ているうちに、小さな疑問が湧いた。
『でも、この火はどうやって消すの。以前は高いところで火が出ていたから、その隙間から魔石をとって消火していたけど、今度は炎の中から魔石を取り出さねばならない。小さな火と言っても毎回火を消すためにやけどするのでは使ってもらえない。困った』
次の課題が出てきた。製品開発は難しい。




