第34話 ポーション
マチルダさんに連れられて、マチルダさんの研究室へ。
理科の実験室みたいなこぢんまりした部屋は整理されていた。薄暗く感じて、ライトの魔法で実験時の液体の色が分かるようにする。
「いきなり想定外ね。確かに明るい方がやりやすいかと思うけど、材料庫もあって光に弱いものもあるから実験室は暗めなの。まぁ、今日は分かりやすいのでこの明るさで行きましょう」
マチルダさんは化学者の顔になる。
「コレが今までのポーションで、コレが原料の薬草。鑑定が使えるから分かるよね、王子」
もう、僕の名前は呼ばないつもりか?
「分かります。回復ポーションと薬草ですね。ポーションは品質低、薬草は普通の品質です」
「便利だわ。これで毎回オルフェスの自慢気な顔を見る必要もなくなるかも。そうね、今回の実験の目的は魔力水で回復ポーションを作ることだから、まず、それからね」
「分かりました。どこに魔力水出せば良いですか?」
「そこの樽に入れてちょうだい。量だけど、そうね、適当でいいわ、実験だから」
困った。困る。こう言う曖昧な表現がいつも困らせる。どれくらい作るかも分からず、足りなかったら、レシピ通りに出来ないではないか?
僕はウォーターの魔法で樽に一杯の魔力水を作った。
「出来ました」
「あら、早いのね。えっ、実験だからそんなに作る事なかったのに、少しで良いのよ、少しで。魔力は残っている?気分はどう?そう、それなら良いけど。実験の途中で倒れられたら困るのだけどなぁ。まあ、その時はその時か?ともかく、始めましょう」
と、言って彼女はテキパキと作業を始めた。
魔石は既に粉末になっている。
薬研に魔石の粉末1gを入れ、次に薬草を10g入れた。すり潰す作業に入るが本当に上手い。簡単に薬草が液状となり魔石粉末と混ざっている。これを錬金釜に入れる。錬金釜は金属製の広口の釜で周りに色々な刺繍のような紋様がある。年季が入っているようで鈍く光っている。
「この釜は亡きアレクサンドの遺物らしく、御先祖が大事に持ってきたもので世の中にはあまり無い貴重なものなのよ。大事に使わないといけないのに、大分傷みが激しくなってきて、いつまで使えるか分からないの、その事は不安でしょうがないわ」
と言いながらも、測った魔力水を投入し、混ぜ込む。
緑の液となった。次が火入れと撹拌の作業である。
「火で温める作業が一番辛いのよね。竈に釜を乗せて、竈に種火となる枯れ木をいれて火打石で火花を飛ばして火をおこす。この一連の作業は本当に大変だと思うわ。コレが作業で一番時間をとるのよ。ほら、中々火がつかないでしょう」
と、僕の方を上目使いに見るマチルダさん。やっている事はアレだけど綺麗な人だ。いや、そんな場合では無い。
「火だったらつけましょうか?プチファイア」
すると、火がついた。
「あら、便利ね。私にも出来るかしら」
「多分、見た感じ火属性をお持ちのようなので覚えられると思います」
「そう、今度、その講義を受けたいな」
「良いですよ。僕が力になれる事だったら何でも言って下さい」
会話しながらも、テキパキとマチルダさんは作業を進めていく。攪拌作業の間、マチルダさんの魔力が少しずつ釜に注ぎ込まれているのが分かる。やがて、泡が少しずつ出てきた。
「釜を竈からおろさなきゃ」
「僕がやります。隣の火のついてない竈でいいですか?少し、強引ですけど」
と言って、指先から掌にヒールをかけながら、釜の取っ手をもって、隣の竈に移す。とっさに考えたことだが、上手くいった。
「大丈夫?無理しないでよ」
「問題なくはないですけど、上手くいきました」
「それならいいけど。後で手をみせてね」
と言いながらマチルダさんは攪拌の手をやめない。もう少しかもしれない。緑色の液が少し光ってきている。だんだん、光が増していく。マチルダさんの額の汗が輝く。同時に、強い光があふれ出てきた。マチルダさんの手が止まる。
「凄い、初めての経験だわ」
鑑定してみたら、高品質の回復ポーションだった。瓶詰めして十本出来た。満足そうなキラキラしたマチルダさんの顔が目の前にある。
「王都では今までのポーションを10Gで売ってきたの。オルフェスと相談するけど、このポーションはかなり良い値段で売れると思うの。これを定期的に作れれば学院の経営も少しは楽になりそうよ。協力ありがとう、私の王子様」
と感謝された。
「僕も協力出来て良かったと思います。ところで僕も一度作らせてもらってもいいですか?」
「いいわよ。私も手伝うわ。分からないことがあったら言ってね」
僕はレシピ通りに薬研に魔石を入れ、次に薬草を入れた。
すり潰すがうまく均等に出来ない。みかねて、マチルダさんが代わってくれる。僕がやったら時間をかけてもなんとかなったかも怪しい。次に錬金釜を魔力水で洗う。綺麗にして、薬研の液体を釜にいれる。魔力水を柄杓で汲み、片手で少しずついれていく。同時に片手で撹拌も行う。なんとか、レシピ通りの液体となった。
これから煮るのだが、僕にはアイデアがあった。
釜自体を自分の手から出す熱で温める方法である。これであれば火を止めたりする事も無い。
「マチルダさん、お願いがあります。僕が火属性の魔力で温めるので撹拌してもらえませんか?」
「分かったけど、魔力大丈夫?」
「多分」
「そう、じゃ、やるだけやってみましょう」
僕は手から魔力を出して釜全体を薄く包む。魔素をその魔力の膜と錬金釜の間に送り込み、プチファイアのイメージで釜全体に満遍なく火で包む。自身の手には先程やったようにヒールのイメージで火の影響があっても回復のするようにして、
「今から温めます」
と言って魔法を発動した。
錬金釜はカタカタと小さな音を立て始めた。しだいに熱をもってきた。釜の熱は中の液体にも影響を与えているようだ。順調だ。
「魔力は大丈夫?」
「えー、全然。余裕です」
「そう、よかった。もう少し、ぐつぐつしてきそう。王子はこういう使い方もあるのね。便利だわ」
まだ、魔力量的には余裕がある。もう少し、火力を上げて、最後の仕上げか?魔力を込める。
「ぐつぐつしてきたわ、王子止めて」
「分かりました。止めます」
僕は火力を停止した。しかし、魔力が吸われ続ける。
「何かがおかしいです。魔法を止めたのに、魔力が吸われ続けています。危険です。何が起こるかわかりません。マチルダさん、僕から離れて下さい」
と、言ったそばから錬金釜から強い光が放出され、僕は何度目かの意識を失うことになってしまった。
「大丈夫?」
薄く目を開けると心配そうなマチルダさんの顔があった。以前もあったなぁとデジャブ感がある。また、魔力枯渇だ。魔力枯渇はいつもこういうシチュエーションだなぁ。
「どうなりましたか?ポーションは?」
「最初にそれ?心配したんだから」
「あっ、ご心配かけてすみません。この世界に来てから何回か経験しているので、もう、大丈夫だと思います」
体を起こして、錬金釜の方を見るとピカピカの金色の釜がある。
「何ですか?あれは」
「錬金釜よ。中にはポーション液らしきものもあるわ」
「見てみる?」
鑑定を使うと液体は最高級品だった。体力だけでなく魔力も回復するようだ。また、錬金釜も修復されており、新品同様と表示された。
「錬金釜の液体飲んでみてもいいですか?体力だけでなく、魔力も回復するようです。実験台になります」
柄杓ですくって一口飲んだ。身体が薄く光って枯渇寸前だった魔力が200ほど回復した。同時に新しい力がみなぎるような気分になった。体力が全回復している。
「凄い。体力だけでなく、魔力も200回復した。やった、やった、なんか凄いぞ。マチルダさん、高く売れますよ。ビン詰めしましょう。でも、僕が毎回魔力枯渇で倒れるのでは増産は出来ない。次は効率化の検討だ」
僕は叫ぶ。
その姿を見てマチルダさんがつぶやく。
「やはり、王子は危険だわ。この学院で常識を学ばないと、色んな人がやって来て、王子を利用するだけ利用するのが目に見えるようだわ。何とか、手放さないようにしないとダメね。ソフィアやアンナじゃ若過ぎて王子が飽きてしまう。やっぱり私の出番かなぁ」
初めて作ったポーションに感動する僕の横でマチルダさんは髪をかき上げ、僕に不要なフェロモンをふりかけていた。




