第28話 僕は王子なのか?
「私の家族を紹介します。こちらから妻のマチルダ、娘のソフィアとアンナ。一人息子のロベルトは王国騎士団として働いていて、ここにはおりません。
新しい住人を紹介する。こちらがラインハルトさんだ。我が学院の聴講生となる。日本という国からの迷い人だ」
食事の前にオルフェス先生家族への僕の紹介があった。テーブルの上には蝋燭の灯りに照らされた食器とカトラリーがあった。
「マチルダは学院で錬金術と火の魔術を、ソフィアは一般教養を教えており、アンナはまだ学生ですが、珍しい光属性を持っていて、治癒の魔法の素質があります。特にアンナにはラインハルトさんの治癒魔法を教えてもらうと助かります。では、ラインハルトさんからも少しお話しを」
と、一気に自己紹介モードになった。
「僕はラインハルト。ステータスにはフォン・グリムとありますが、母の手紙によれば、父はアレクサンドという国の王だったようです。日本という国ではスズキヒロシなので、ラインハルトでもヒロシでもどちらで呼んで頂いても構いません。
昨日、この国に来た迷い人で、この国の事というよりこの世界の事が本当にわかりません。色んなことを皆様の差し障りのない程度で教えていただくと助かります。
魔法は以前住んでいた世界では使えず、この国に来た時に何故か使用する事が出来ました。この不思議さに興味を覚えたのがこの魔法学院で魔法を勉強したいという動機となりました。
今後は、覚えた魔法を生活に活かして行きたいと思っています。挨拶代わりに、論より証拠で、試しに、僕が覚えた魔法をお見せします」
「ライト」
ライトの魔法が発動し、天井近くに光が灯り、薄暗かったリビングが明るくなる。白い食器と金属製のカトラリーが明るさの中で本来の色を取り戻し輝いて見える。その変化に、女性達が一斉に天井を見上げている。
「この灯りは消えないの?」
「消せますよ。ライト停止」
室内が元の薄暗さに戻った。視覚効果のせいか、部屋の中が、最初来た時より暗くなった気がした。
「そうではなくて、どれくらい明るさが続くの?」
「測った事が無いので分かりませんが、僕の魔力が続く間は光ってます」
「ライト」
再度、天井近くに光の玉が出来て、また、室内は明るさを取り戻した。
「どうして光り続けているの?魔力が減って苦しくないの?」
アンナさんが、心配そうに尋ねる。
「平気ですよ。使っている魔力はそう多くないと思います」
「ずーっと持続させるために魔法を考え続けなくていいの?」
今度はマチルダさんだ。
「大丈夫ですよ。一度動き出すと勝手に動いていますから。魔法ってそういうものなんですよね。だから、僕は魔法が発動中でも話すことも、食事をすることも出来ます。また、明るくないと夜、本も読めないじゃないですか?」
不思議そうな顔で僕を見つめる皆が静かになった。
「そうだ、食事だ。ミーナ頼む」
時間が動き出した。食事が配られ、オルフェス先生の合図で一斉に食べ始める。
スープ、サラダ、パン、魚、肉。美味しい。塩味だけじゃ無いご飯だ。
「お食事いかがですか?」
オルフェス先生から声がかかる。
「とても美味しいです。豪華な料理ありがとうございます。重ねてのお礼になりますが、書庫から二冊の本をお借りしました。とても面白い本でした」
「そうですか、それは良かった。ところで、どんな本でしょうか?」
「『はじめての魔法』という本と『魔法エンサイクロペディア』という本です」
「『はじめての魔法』という本はわかりますが、『魔法エンサイクロペディア』という本がありましたか?どんな本でしょう?」
オルフェス先生が聞いてきた。
「その本は、魔法に関してのキーワード検索が出来、情報を得ることが出来ます。それに、音声入力で検索も出来るので、便利でしたよ。皆様がご使用になっていないのが不思議な気持ちになりました」
「えっ、見せてもらっても?」
「インベントリにあるのですぐに出せるのですが、食事を中断させることになりますし、また、久しぶりの美味しい食事を楽しみたいので、食後でも宜しいでしょうか?」
「それはそうですね、では、そちらは食後で」
その言葉で皆、食事に戻った。
オルフェス先生が、改まった調子で口を開いた。
「ところで、食事しながらでも良いので聞いていただけますか?
失礼ながら、鑑定時にお名前が気になったので先ほどまで学院にある古い歴史書というか、私の祖父の日記を調べておりました。ラインハルトさんは、アレクサンド国から日本という国に転移された女性から生まれたと言われましたので、気になって調べて行くと祖父の日記にアレクサンド国滅亡時、王妃が行方不明になったという記述を見つけました。それ以降王妃の行方は誰にもわからないようなのです。
さらに、フォン・グリムという名前はアレクサンド国出身を表す王妃の姓であり、その姓が許された貴方は王族の血を引く者ではないかと推測出来ます。
また、アレクサンドの王族は魔法に優秀な家系で、特にいなくなった王妃は治癒魔法で何度も奇跡を起こしたとされており、アレクサンドの秘宝には転移の魔法陣があったとも伝え聞いております。それらのことを踏まえますと、あなたがアレクサンドの王子である可能性があり、何らかの因縁のためにこの世界へ来られたように思えます。
そして、その高貴な顔立ちは、王家の血筋ではないかと推測しました。
ヒロシ様、否、ラインハルト・フォン・グリム様、貴方が王子であるならば、貴方の力になることが私達一族の使命です。
貴方の称号には『この世界を継ぐもの』とありました。
私達一族の夢もあなたを支えていくことでかなうと確信しました。どうか、我が一族とともに王国の復興を実現してもらえないでしょうか?」
祖父の日記? 母が日本に来たのは、僕が生まれる少し前のはずだ。それが、この人の祖父の代の出来事?
時間のずれが気になる。もしかして、僕の世界の時間経過とこの世界の経過が違うのか。
オルフェス先生の突然の告白に、食事どころでは無くなった。




