第27話 いまさらながら はじめての魔法
案内された離れはこぢんまりとした一軒家だった。玄関があり、リビング、台所があり、寝室があって、お風呂場、トイレがあった。これは寮の準備が出来ていないので、このゲストハウスが本日の宿泊施設になったんだろうと推測し、納得した。
今はリビングではじめての魔法を読んでいる。薄い本なのですぐに読めそうだ。本にはこう書かれていた。
魔法は魔素がある世界で使えるものです。魔力の元である魔素が無い、または、少ない世界では失敗する可能性がありますので、たとえ、うまくいかなくても気にする必要はありません。
人には色々な肌の色、顔の形、身長、体重、子供、老人、性別がありますが、体の中に魔臓が無いと魔法を使う事が出来ません。魔法の適性がある人は魔臓を持っていて、それはおへその辺りにあります。この臓器で魔法の元(魔力)を蓄え、それを体外に放出する時の変化が魔法となるのです。
ですから、魔法の最初のステップは魔臓の有無を確認することになります。大きく息を吐いてお腹をへこませ、おへその下の辺りを手で押してみてください。硬いコリコリする感じがあったら魔臓があります。
ありましたか?あったあなたは、おめでとう、魔法が使えます。
なかったあなたは、残念ですが、魔法を使うことが出来ません。この本とはお別れになります。
次に、魔法が使える体の説明をします。あなたが見つけた魔臓からは属性の管が血の道に繋がります。これがいわゆる魔法属性と言われるモノです。これは生まれたときからそれぞれ違い、一つであったり二つであったりします。
魔臓を大きく、属性の管を太くすることを考えてください。魔臓が大きくなれば何回も魔法を使うことが出来ます。管の太さで発動の速さや威力に違いが出てきます。魔臓を大きくして、管を太くする事が魔法上達の早道となります。
その訓練は教える人でそれぞれ違います。死の危険を顧みず魔力の枯渇を絶えず繰り返したり、体内を切り刻み無理やり大きく太くしたり、独自の秘薬を飲ませたり、色んな方法を試している魔術師もいましたが、皆短命でした。
考えてください。死んでは何も意味がありません。魔法が使えるのなら、それを繰り返し使ってみてください。次第に魔法の威力は大きくなり、発動もスムーズになってきます。これで自然に魔臓は大きくなり、管は太くなります。急がば回れというように、日々の魔法の練習が魔法の基礎となります。
準備が整ったはずなので、これから魔法を使います。
まず、魔臓に貯めた魔力は体外に放出する必要があります。これにも訓練が必要です。魔臓の魔力を血の道を使って、指先や掌に運ぶことを意識してください。その次は運ばれた魔力を一気に放出します。やってみましょう。出来たら、体から何かが抜ける感じがあります。
出来ましたか?
出来たら次のステップです。出来ても気分が悪くなったら次のステップにいくことは出来ません。その人は体内の魔力がなくなっている人です。気分がよくなるまで待ちましょう。出来なかった人は練習あるのみです。でも、飽きたら杖の項目を見て下さい。
この放出された魔力で魔素を爆発させる事が魔法の効果として現れます。そのため、魔力を体外に放出する技術は大切で、魔力があってもうまく放出出来なければ、大きな成果を得ることが出来ません。
この放出する魔力を変化させることの補助をするのが詠唱となります。また、詠唱を使うことで誰が使っても同じ魔法の効果が表れます。詠唱は想像を凝縮した単語で構成されますので、この単語はひたすら覚えなさい。また、順番通りに正確に発音しないと魔力は変化しません。ともかく、ひとつでもふたつでも覚える事です。
つまずきそうになったら、杖を使ってください。杖は転ばないように体を支えるために使うのではありません。杖は簡単に体内魔力を吸い出し、放出することが出来るようになっています。が、止め方を知らないと魔力を吸われ続け、すぐに魔力切れになり、死が近づいてきます。注意が必要です。そのために、使用方法は事前に確認が必要です。杖を使い、詠唱を合わせることで魔法が比較的簡単に発動します。
ともかく、最初に呟いて下さい。
「天地の理に沿って、私は彼のものの浄化を行う、クリーン」
何かが起こりましたか?何かが起こったら魔法は成功しました。
その先はあなたの努力次第です。
本文はそこで終わり、あとは挿絵が続いていた。体が光っている挿絵、ベッドが光っている挿絵、食器が光っている挿絵。
読み終えた僕は挿絵のイメージのままに、自分の体から皮脂や服の汚れが繊維の隙間から落ちることを願う。
『天地の理に沿って、私は彼のものの浄化を行う』
心の中で唱え、口にする。
「クリーン」
淡い光が体を包み、パラパラと服から体から何かが落ちていく。何かが起こっている。本の内容からすると成功だ。
はじめての魔法バンザイ。
何も考えずに上手くいくなんて、滅多に無い経験だ。本をよく調べると、なんで上手く行ったのか判明した。本の裏に魔法陣が描かれていたのだ。なんだ、魔力さえ出せれば成功する可能性が高かったのだ。分かってしまえば至極簡単な理屈である。
例の如く魔法陣の解析を行う。決められた魔力を吸い上げて、手の触れた所から全身に薄い膜をつくる。その中に魔素を集めて、圧縮する事無く軽い爆発を起こす。爆発の光が身体から服から付着している余計なものを落とすようになっているようだ。そうか、連続で動作させているわけではないので、一回の量の魔力で良いのだ。
ひとつだけ驚くべきものがあった。
属性変換の星(回路)である。
魔力属性にかかわらずある程度の魔力を出せば別の属性に変換してしまう回路だ。クリーンの魔法は最終的には光魔法で魔素を爆発させるので、光属性のある僕の場合は変換回路がいらず最小で済むが、その属性を持たない魔術師でも変換回路により、光魔法を使えるようにしているのは発想としては素晴らしい。それに、小さな子供でも安全に魔法が使えてしまうこの本は良い本だし、それに効果もよく分かる。しかし、その分やれることが単純すぎて飽きてしまうものかもしれない。
それを考えて、ハッと気づいたことがある。魔法陣にあったあの処理の分からない星のことだ。もしかして、あの星は魔道具の魔石の属性を変換する機能なのかもしれない。とすれば、属性に関係なく、魔道具は動作することになる。
確認することがまた増えた。
本を使わず、クリーンの魔法を使ってみようと魔法の構築イメージを作っていたら、ミーナさんからの呼び出しがあった。夜ご飯だと言う事だ。
ミーナさんのいそいそした動きを見ながら借用した本については正直に報告するのが無難だと考えていた。




