第26話 書庫
僕はミーナさんに案内され書庫に入った。ひんやりとした薄暗さが保たれている。紙を傷めないための工夫なのだろう。灯りとりの窓を少しミーナさんが開けてくれると部屋の中の間取りが分かった。幅2m高さ2mの棚が正面の壁に二つ、その横にひとつあり、部屋の真ん中に燭台が置いてある机と椅子がある。
「ライト」
光魔法を使う。熱を持たない光に本が照らされ表紙が読めるようになった。本棚に近づき背表紙を読んでいく。鑑定の力か言語理解のスキルのせいか、不思議と文字が問題なく読めている。正面左から歴史書、文学書、動植物となっており、正面横のひと棚が技術書のようだ。そちらに近づくと同時に、区別出来るよう、二つ目の灯りには番号をつけ、実行することにした。
「ライト2」
魔法大全、魔法の言葉、魔法の理、魔法技術論といったものからはじめての魔法、簡単に使える魔法とかまで。さらに、錬金術概論、錬金術の全て、ポーションの秘密、魔法生物学1から10とか、興味をそそるものがいっぱいあった。
はじめての魔法を手に取ろうとするとその横の本が目についた。背表紙が輝いている。スキルでも文字が読めない。思わず手に取って表紙を見ると記号のようだ。やはり読めない。
開いてみた。
僕の目に明るい光が飛び込んできた。
その光の中から何かが体に侵入してきて体中を駆け巡り、頭部まで到達すると、目と鼻と口から抜け出し、それが本に戻って行った。
すると、開いた本のページに四角の入力枠のようなものが出来ており、Webの検索画面の文字の入力を促すキャレットがあった。四角い枠をタッチしてみた。枠の下にキーボードが出現した。同時に枠の右横にはおなじみのマイクのマークも。
思わず、マイクマークをタッチすると、四角い枠に音声を入力してくださいの文字が……。
「なんだ。これは、もしかして」
と試してみる。
「魔法とは」
と本に呼びかける。
本のページが自動でめくられ、下記の記述があった。
〝魔法はイメージである。空中の魔素を集め、体内の属性の素で包み、爆発させる。それが火、水、風、土、光の力となる〟
魔法ぶっくの記述通りである。
「凄い、なんて本だ」
ページを閉じて、再度、本の表紙を見ると魔法エンサイクロペディアの文字が現れていた。これは凄い発見である。これがあれば何でも出来るのではないかと万能感が増して、次第に興奮してきた。
思わず、会って間もないミーナさんに声をかける。
「凄い本がありました。ミーナさん、見てください。この光輝く本を。魔法エンサイクロペディアですよ。魔法に関することをなんでも知ることが出来ます。これがあれば魔法で何でも出来ます。素晴らしい本を見つけました。これは書庫でなく別のところで保管すべきものです」
興奮気味にミーナさんに駆け寄り本を見せた。
「……」
ミーナさんは本を一瞥すると僕の方を悲しげに見た。
「申し訳ありませんが、私にはただの薄汚れた古い本にしか見えません」
「じゃ、これは。これは凄いでしょう。ほら、こうしたら、文字を入力出来て、こうしたら、音声入力が出来る。ほら、凄いよね」
「残念ながら私には何も書かれていない薄汚れたページしか見えません」
ミーナさんの冷静なもの言いに、僕の上がったテンションが一気に落ち込む。
「えっ、見えないの。不思議だなぁ」
『原因は何だろう』
落ち込む僕を慰めたいのか、ミーナさんは僕の魔法を褒めた。
「でもあなたの光の魔法は凄いです。見たことがありません。これが、廊下にあれば夜でも歩きやすいですね」
続けて
「魔法の力のない私達でも使えれば夜も仕事が出来たり、ダンスの練習とか出来るんでしょうね。なんてことを考えていました」
「そうですか、この魔法は魔法を使えない人でも魔法が使える魔道具で実現出来ると思いますので、試作品が出来たら、最初にミーナさんに使ってもらいます。楽しみにしていてください」
ミーナさんに答える。さらに、
「この本、持ち帰っても大丈夫でしょうか」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。旦那様からはどれでも持って行っても良いと言われております」
「じゃ、遠慮なく、この本とはじめての魔法という本をお借りします」
僕は二冊本を抱えた。
「では出ましょう」
「ライト停止、ライト2停止」
二つの光が消え、書庫がまた薄暗い部屋になった。




