第29話 王子としての自覚は?無い
「えっ、王子?アレクサンドの復興?」
同時にオルフェス一族のキラキラした目が気になり、どういう表情をして良いか分からない。このキラキラした目は魔法のデモンストレーションが原因では無いのか?
「オルフェス先生、勘違いって事はないですか?私は何も出来ませんし、まして、この国の、この世界の事を何も知りません。血筋があったとしてもこんな私にやれる事なんてほとんどありません。買い被り過ぎです」
正直な気持ちを伝えた。
「ラインハルトさん、いや、王子。貴方のその謙虚な態度こそが人を集めてしまうのです。多分、レバークレーゼンさんも協力を惜しまないでしょう。貴方は私に新しいものを与え、そして、新しい夢の国を作ってくれるのでは無いかと感じさせます。
見せて頂いたライトの魔法は安定して持続させるのは難しく、また、光の位置を動かすことなんて誰も考えつきません。さらに、貴方の治癒の力が有れば多くの人を救う事が出来るでしょう。貴方を見ていると新しい時代が訪れるような気持ちになるのです」
オルフェス先生の気持ちは揺るがなそうに見える。強く否定する訳にいかない。気分を害することが目に見えている。ここは日本的感覚で穏便に、
「できるだけ、ご希望に沿えるように努力しようと思います。しかし、本当にご希望に沿うことが出来ず、失望させてしまうかもしれませんよ」
とやんわりと否定した。
「そうですか、決意していただけましたか。感激です。私達一族を手足のようにお使いください。また、娘はどちらも器量良しです。私も目に入れても痛くないほど可愛いと思うのですよ。最終的には王妃、いや、側室でも……」
否定しているはずが肯定となり、凄い展開になりそうなので、
「オルフェス先生、冷静にお願いします。まだ、何も私は成し遂げておりませんし、分け与えられるほどの財産もありません。ただの迷い人です。もう少し、考える時間と生活に余裕をください。焦る必要はないですよ。私は逃げも隠れもしません。この学院で学びます」
「焦る必要はない……か。そうですよね。食事を続けましょう。でも、いかがでしょうか?娘のことは考えて頂けないでしょうか?」
「こういったことはお嬢様達のお気持ちもあることですし、また、好きな方が既にいらっしゃるかもしれません。私の口からは何とも……」
「あなた、王子様が困ってらっしゃいますよ。本日はこれくらいでいいんじゃないでしょうか?」
マチルダさんから助け舟がきた。
「そうですね。まず、食事を楽しみましょう」
そう言って、僕は食べ始めた。
「魔法エンサイクロペディアですが、こんな本です」
食後のコーヒーと甘いクッキーを食べながら、インベントリから取り出す。
「ミーナ、悪いけどその本を持ってきてくれ」
本をミーナさんに渡す。ミーナさんから本がオルフェス先生に渡される。
「表紙にも、ページをめくっても何も書いてないなぁ。マチルダ、見てくれ。どうだ」
「そうね」
マチルダさんがパラパラとページをめくる。
「何も書かれてないみたい」
「どれどれ、私にも見せて」
ソフィアさんも覗く。
「アンナ、何か見える?」
「私にも何も見えない」
「不思議ね、見えないものが見えると言われると、やっぱり、一度、使ってもらうしかないのかしら」
マチルダさんからの要望があった。僕は席を立ち、彼女たちが待っている席へ移動する。マチルダさんに本を持ってもらい、表紙を開く。やはり、Webの検索枠が見える。
なぜ、見えないんだろう。
「何か、魔法関連で聞きたいことがありますか?」
「そうね、回復ポーションの作り方を教えて」
「わかりました。回復ポーションの作り方ですね。調べてみます。いや、聞いてみます」
肩越しに、指先を伸ばし、検索枠のマイクにタッチすると、音声入力してくださいの文字が表示される。さっきと同じだ。本に呼びかける。
「回復ポーションのレシピを教えて」
本が光りだし、ページがめくられる。見開きをみるとレシピが記述されている。
回復ポーション レシピ
材料
1.薬草 10g
2.魔力水 1リットル
3.魔石 1g
4.香りづけ(レモン) 適量
作り方
1.薬研で魔石を粉末状にする
2.魔石の粉末が出来たら、そこに、薬草を入れ、すりつぶす
3.薬草が液状になり、魔石粉末とまざったら、それを錬金釜に入れる。
4.魔力水を少しずつ釜に投入しながら全部入れ、緑色の液が出来るまで混ぜ合わせていく
5.程よく混ざったら、魔力を込めて撹拌しながら、釜を火で温める
6.釜の底から泡がでてきたら、火をとめる
7.火を止めたあとも液体が光りだすまで撹拌する
8.強く光ったら高品質、弱く光ったら低品質のものとなる
9.最後に香りづけを数滴たらして完成
「わかりますか?読めますよね?」
マチルダさんに確認する。
「本が光って、ページがめくられたのはわかったけど、ページには何も書かれていない」
マチルダさんは困惑している。
「もし、良かったら、読んでくださらない?」
「分かりました」
と、ページの内容を読み上げる。
「いかがですか?作り方はあっていますか?」
「ほぼあっているけど、ちょっと違うわね。魔力水でなく井戸の綺麗な水を使っている。それに、撹拌しても光ることはないの。これは、今までのレシピ以上のものの気がする。今まで以上に高品質のポーションが出来るかもしれない。そんな予感がする」
マチルダさんが研究者の顔になってきた。
魔力水か?
材料の項目の魔力水をよく見ると、〝魔法で作った水〟と吹き出しがでてきた。とすると、水魔法でだした水かもしれない。
「マチルダさん、魔力水は水魔法で作った水ということです。水魔法の使い手がいれば明日にでも実験出来るのではないですか?」
「出来ないよ。水魔法は戦闘に役立たない魔法なので数えるほどしか、この世界に習得者がいないの。少なくともこの学院にはいない。
あっ、ここにいた。ラインハルトさん、出来るのよね」
『いや、水魔法はまだ一度も使ったことがないんだけど』
その問いに、僕はそう言い返すことも出来ず、黙っていると、マチルダさんは続けた。
「明日どうかしら、昼から授業がないの。回復ポーションを作りましょう。
そして、出来たものはオルフェスに鑑定してもらいましょう。
もし、高品質ポーションが出来たら、どれだけの金額で売れるかしら、楽しみだわ。そうすれば、色んな機材が購入出来て、凄いものが錬金術のレシピに加わり、生徒は増えて学院の運営も楽になり、先生を増やして、私は研究三昧。
最高だわ。
決まり、決まりよ。ラインハルトさん、明日の昼は研究棟で待っているわ、きっと来るのよ。約束破ったら……」
マチルダさんの僕を見る目が変わった。
「おい、マチルダ。しっかりして、冷静になれよ」
オルフェス先生がマチルダさんの肩を揺する。
「ラインハルトさんが困っているだろう」
オルフェス先生が僕の方を見て、
「ラインハルトさん、妻が無理なことを言いまして申し訳ございません。その本、魔法エンサイクロペディアですが、今までの経緯から私達では使いこなせないことが分かりました。貴重な本を死蔵するわけにもいきませんので、是非、あなたが使ってください。その本ですが、もう、しまってください。でないと、妻が正気に戻らない気がします」
「わ、わかりました」
僕は本をインベントリにしまう。
「ラインハルトさん、今晩はここでお開きにしましょう。明日の朝もミーナを呼びに行かせますから、今日、ご案内したところでお休みください。戻り方は大丈夫ですか?そうですか、それでは安心です。では、お休みください」
慌ただしい幕切れとなった。
「インベントリも使えるんだ」
つぶやく声が聞こえた。




