第24話 実技試験
「実技試験ということですか?分かりました。まだ、覚えたばかりなのでうまくいくかわかりませんが。では、まず、ライトの魔法を使用します」
「ライト」
と言葉を発する。すると、天井から10cm程度離れた位置で光源が光を出力して、昼間でも少し暗い感じの室内を明るく照らす。驚いたようなアルベルトさんとセバスさんの表情が見えた。
「もうよろしいでしょうか?ライト停止」
光が消える。
「次はまだ覚えたてですが、プチファイア」
僕は指を立て、指先から小さな火を出す。
「確認しましたが、この火は熱く、小枝を燃やすことが出来ました。プチファイア停止」
小さな火が消えた。アルベルトさんとセバスさんは固まったままだ。
「次は治癒魔法ですが、傷とかがないと確認出来ませんね。ここには健康な人しかいないので、無理ですね」
「いや、この指の傷を治してみて下さい」
オルフェス先生が懐からナイフを取り出すと、自分の左手の人差し指にすっと刃を引いた。
赤い血が流れだす。
「なんてことをするのですか?」
と言いながら、
「ヒール」
と、言葉を発すると、オルフェス先生の指の血が止まり、傷が塞がっていく。幸い多くの血が流れることはなかった。
「申し訳ございませんが、これらが、今、私が使える魔法の全てです。練習すれば、風を吹かせたり、水を出したり、土の壁をつくったりも出来る気がしますが、練習していないので、やれと言われても出来ません。これくらいの能力では入学は難しいでしょうか?」
と、オルフェス先生に尋ねる。
呆気にとられた顔を見せていたオルフェス先生が話し出す。
「いや、素晴らしい才能です。当学院の教師レベル、否、超えているかもしれません。教えることも無いような気もします。逆に私達が学ぶことが多いかもしれません。入学試験は合格です。
汚いところですが、是非我が学院へおいでください」
オルフェス先生がそう答えてくれたので、ほっとした気になった。
「合格と言ってもらえてよかったです」
僕は素直に感謝の言葉を述べた。
僕の入学が決まり、アルベルトさんが現実に戻ったのか、横から声をかける。
「ヒロシさん、疑ってすみませんでした。本当に魔法が使えるのですね。ヒールの魔法が使える者は神の使いとかと言われております。
その力を使って、本当に娘とセバス達を治していただいたんですね。遅ればせながらありがとうございました。
治癒の魔法だけでもこの国の王に召し抱えられるほどの能力かと思います。
どうですか?
学院とは言わず、私が研究費をお出ししますので、私の屋敷で魔法の研究をされてみてはいかがでしょうか?」
と、アルベルトさんは商人の顔をだしてきた。
「お誘いありがとうございます。魅力的なお誘いですが、やはり、私は学院で魔法の勉強をしたいと思います」
「そうですか、魔法学院では研究資金もないでしょう。私がお出ししてもいいんですよ」
「すごく嬉しいです。しかし、ご厚意に甘えてばかりではいけないと思っております」
僕がやんわり断ると、
「残念です。本当にご遠慮は不要ですよ」
と、アルベルトさんはさらに食い下がる。商売の匂いを感じたのかもしれない。
「遠慮はしておりません。この世界で誰にも頼らず生きていくことが出来ないと、元の世界に帰ることも出来ないと思っております。今回は、わがままを言わせて下さい。
しかし、頼らないといったそばからですが、ひとつお願いがあります。もし、よろしければ、こちらにある魔道具を見せていただくわけにはいかないでしょうか?
先ほども申しました通り、最終的には転移の魔道具を作成しようと思っています。その参考に出来ればと思っています。また、何か使える魔道具が製品化出来たら、アルベルトさんの商会で販売していただき、その資金で研究費を捻出出来ないか?とも考えています。時間が出来たらで良いので、見せて頂けないでしょうか?」
僕は商売につながる話を交えて、魔道具を見せてもらうお願いをする。
「実は、ここにも魔道具はあるにはあるのですが、私も使ったこともないですし、見栄のために飾ってあるだけです。いつでも訪ねてきて、煮るなり焼くなりしてくださって結構です。娘やセバスの命の恩人ですから、本当に何でも申し付けてください。
また、誰でも使える魔道具が出来たらそれは画期的な商品になります。その時はこれでもこの国の三本の指に入る私の商会で独占販売させてください。勿論、損はさせませんので、その時は大船に乗った気持ちで大丈夫です。
アハハ!
学院への入学が決まって、少し、気持ちも落ち着かれたでしょう。お茶をもう一杯いかがですか?
セバス、新しいお茶をお持ちして!」
僕の魔法の実演の効果か、以前より、親近感をもった言葉をもらった。やはり、アルベルトさんは、突然現れた僕が怪しい魔法を使って、彼らを助けたというのは信じがたいことだったんだろう。今はその疑いが消えて、逆に僕への興味に変わっているのかもしれない。
「生活の不自由があれば、学院からなんなりと申し付けください。あ、そうだ。娘から言われておりました服を用意しております。そちらにお召し替えなさった方が暮らしやすいかと思いますので、是非、どうぞ。また、髪も少し整えた方が男っぷりが上がると思います。オルフェス先生、その間、少し、待っていただけますか?
ヒロシさん、もといラインハルトさんが戻られるまで学院への寄付のお話でもいかがでしょうか?私も少しだけ魔法に興味がでてきました。
投資というわけではないのですが、ご協力させていただくお話は出来ませんでしょうか?」
と、重々しかった雰囲気が一気に別の方向に変わっていく。
「では、ラインハルトさん、こちらへ」
セバスさんに別室へ連れていかれた。
促された部屋には水桶があった。桶から水を汲んで体の汗を流し、用意されていた服に着替える。服の着方が分からず、セバスさんが手伝ってくれる。最初はダボダボかと思っていた服だが、意外にフィットし、動き易かった。中世ヨーロッパの貴族の軽装のような服である。今までの服はインベントリへ放り込む。
軽快な服で、動き回るとこの国の住民になった気がしている。次に、鏡の前に座らされ髪を切られた。腕が良い職人であるのだろう、鏡の中の自分が別人に見えた。
「こんなに彫りの深い顔つきだったっけ」
思わずつぶやく。また、セバスさんも驚き、
「見違えました。髪に隠されて分からなかったのですが、どこかの国の王子のような気品があります。変われば変わるものなのですね」
と言う。
「では、旦那様のもとに参りましょう」
セバスさんの後を追う。
「旦那様、入ります」
「入れ」
の合図で、扉を開けて入っていく。
「おー」
両人の声が重なった。
「化けましたな」
「化けましたね」
なんでそういう表現になるかわからないが、そう驚いた表現なのだろう。視線が耐えられない。
「学院へ連れて行ってもらえませんか?」
と、オルフェス先生に声をかける。
「そうですね。そろそろお暇しましょう。今回は優秀な人材を紹介くださり、ありがとうございました。また、寄付のお話もいただき重ね重ね感謝いたします。では、アルベルト様失礼させていただきます。ではでは」
オルフェス先生が立ち上がり、
「ラインハルトさん、行きましょう」
「アルベルトさん、ご厚意ありがとうございました。今後、精進してお返し出来るようやっていきます。本日は誠にありがとうございました」
「気になさらず、些細な事でも良いのでなんでも頼ってください。では、ごきげんよう。セバス、お送りしてください」
何回目だろうか、セバスさんの後を追うように玄関に向かった。




