第20話 魔法のスペル 実験
目が覚めると朝も遅かった。二度寝の辛さからか、魔力の欠乏からか、体が怠い。とは言え、頭を切り替えて1階の食堂へ。遅い朝食をいただく。スープとパンと卵料理。シンプルな塩味だけど美味しい。
いそいそと冒険者ギルドへ向かう。何故かって、それは魔法を使える場所を教えてもらいたいから。
宿が近いと便利。朝も夜も開いているギルドに入ると、エミリアさんがいた。良かった。
「エミリアさん、魔法を使っても良い場所を教えてください。どっか、広いとこがあればいいんですが」
と言って、カウンターに駆け寄る。
「あら、ヒロシさん、突然でびっくりしたわ。うーん、そうね、やっぱりこのギルドの裏のゴミの山の辺りならいいんじゃない。でも、あんまり魔法、魔法って大きな声で言わない方がいいわよ。ここでは、魔法使いって人をだましてたくさんのお金を巻き上げる嫌われ者なんだから」
「分かりました。できるだけ隠れてやります」
『それにしても、なんでそんなに嫌われてるんだ』
魔法使いは日本で言う詐欺師と変わらない認識なんだなぁ。と、思いながら、ギルド裏のゴミの山へ行く。
昨夜の魔道具の問題を解決するにはファイアの呪文だ。実践と経験あるのみだと思っているが、まず、構成を考える。僕のプログラミングの経験から、スタート処理、使用する変数の初期化、やりたいこと(処理)の羅列、羅列したやりたいことを繰り返す、条件によって繰り返しからの脱出、終了処理となる。
昨夜のライトの魔法では、スタート処理で体内の属性魔力を用意し、点灯するポイントの設定、魔素を包む属性魔力の範囲の設定、その圧縮率の設定等の初期設定を行う。その後、魔素を集める、魔素を圧縮する、体内属性魔力で点火、爆発させる処理をループさせて魔法を実現した。昨日はこの処理ループ内に繰り返し処理の脱出条件が無かったため、体内の魔力を放出し続けることになった。改善点はこの繰り返し処理に脱出条件を加えることだ。
繰り返しを止める一番簡単な方法は、体内属性魔力での点火をやめることだが、それを止めても魔素を集め、圧縮する処理は繰り返される。そのため、昨日のような魔法を行使した場合は、本来は限られた空間に高濃度の魔素が残って危険だったはず。それが残っていなかったのは、体内魔力が枯渇して、処理そのものが止まったと考えると分かりやすい。
しかし、魔法を使う度に魔力枯渇で意識を無くしてしまうのもどうかと思う。やはり、キチンとした脱出条件を考え、終了処理として魔法の後始末処理を考えないと普通に使うには難しい。
繰り返し処理の脱出条件としては、繰り返しの回数を決める、繰り返しの経過時間を決める必要がある。これにより何分間点灯し、その後消灯するということが実現出来る。しかし、繰り返し回数を決めるためには、まず、各処理時間が分からないと最適な値を設定出来ない。また、繰り返し経過時間に関しては基準時間をどこからとってくるかが未知であるため、現時点では制御不能である。
安易だけど繰り返し処理の中に脱出フラグが立ったら、繰り返し処理を止めて、終了処理を行い、魔法を終了する処理としてみよう。脱出フラグを変化させる条件は、停止の声があったらという事にする。そもそも、停止の声と言うかなり曖昧な表現での処理は許されるのだろうか?ともかく、これで出来るというイメージをする。
まず、ライトの魔法でやってみよう。魔素集め、圧縮、点火のその次に脱出フラグを作って一連の繰り返す処理とし、脱出フラグが立ったら、繰り返しを抜ける、その後、空間の設定を解除して終了する終了処理を一連の動作として頭でイメージし反芻する。再度、確認する。大丈夫だ。
目の前50cm先でライトの魔法を実行する。
「ライト」
日の光の中に、不自然な灯りが僕の目の前に浮かび上がった。成功した。これからだ。
「ライト停止」
光球体に声をかけるのは、何とも間抜けな感じだが、目の前の灯りが自然に消える。魔素の濃いところも見えないので空間の設定解除という後処理も上手くいっている。満足出来る結果だ。
上手くいかなかった時のために、本来なら慎重を期して、繰り返しカウンタによる脱出処理も加える必要があると思ったが、やってみたいという誘惑に負けてしまった。失敗すれば魔力枯渇まで光り続ける玉が、見た人を怖がらせる事も考えられた。今回は結果オーライとする。よく考えれば、ある一定時間だけ光る装置より、こちらの意思で点いたり、消したり出来る方が使い勝手が良いことに気づいた。
これからお待ちかねのファイアだ。ライトと同じ手順で、属性だけを火に変える。場所は右人差し指の先、1cmのところ。
そのイメージで言葉を唱える。
「ファイア」
指先に、ガスバーナーのような火が灯った。大きすぎる。
「ファイア停止」
火が消えた。消えるのは上手く制御出来ている。もう少し、小さな火にするには圧縮する範囲を狭くすれば良いのか?よし、これをプチファイアとしよう。
「プチファイア」
おー、小さな火が指先から出続ける。左手を近付けると暖かい。何かを燃やすだけの火力があるのか?指先の火を落ちている小枝に近づける。パチパチと燃え上がる。
「これが、本当のチャッカマンだ」
ぼそっとつぶやく。
「プチファイア停止」
指先の火は消えたが、地面の小枝は燃えている。慌てて靴で踏み消す。満足感を噛みしめて、ゴミの山から拾ってきた椅子だったであろうモノに座って考える。
次に何をすべきか?
昨夜の魔道具を解析するか? ()が付いている残りの属性魔法を実現していくかの二択だと思っている。流れ的には魔道具の解析だけど、魔道具はどこから手を付けたらいいんだろう。持っている五枚の壊れた魔道具を取り出した。




