第11話 レバークレーゼン商会
「旦那様とお会いする準備が整いました。私の後をついて来てください」
セバスさんが呼びに来た。
「はい」
と答えて、紅茶のカップを置いて立ち上がるとセバスさんの後を追う。再び、広い廊下に出ていくつかの部屋の前を通り過ぎ、セバスさんが一際重厚な扉の前で立ち止まる。
「旦那様、ヒロシ様がお見えになりました」
「入れ」
低いが、よく通る声だった。
「失礼します」
扉を押してセバスさんが入り、後に続く。15、6畳くらいの部屋だ。真ん中に高そうな応接ソファとテーブルがあり、その奥に大きな執務机がある。
書き物でもしていたのか、机の向こうで白髪の老人がおもむろに顔を上げた。僕を値踏みするように見つめる。
「座ってもらいなさい」
セバスさんに促されてソファに腰を下ろすと、老人も机を離れ、テーブルを挟んだ向かいに座った。
何か尋問のような丁寧な面談が始まった。老人は喋り出す。
「私はアルベルト・リセ・レバークレーゼンと申します。この度は娘をお助け頂きありがとうございました。娘のわがままで従業員を危険な目に遭わせたことを先程、きつく叱っておきました。
甘やかして育てたせいか、世間知らずなこともありますが、今回のことで今後は軽々しい行動を控えると思います。貴方に出会わなかったら命もなかったかも知れず、感謝してもしきれません。それに相応しいお礼が出来るかわかりませんが、微力を尽くしたいと思います。ご希望の内容によっては難しいかとも思いますが、何かございますでしょうか?」
やけに低姿勢で謝罪を受けた。
『立場が逆になったら、怖いんだろうなぁ』
「いえ、私こそ道に迷っていたところを救われました。お嬢さんを助けたのは偶然でして、そんなに気を遣われるとこちらが恐縮します。お礼など要らないと思っておりましたが、逆にお断りするのも失礼に当たると思いますので、ひとつお願いを申し上げます」
僕はさらに続けた。
「私は魔法の勉強をしようと日本という国を出て来ており、偶々学んだばかりの治癒の魔法がお役に立てて良かったと思っております。ただ、国からの正式な許可を得ているわけでも無く、純粋に興味と好奇心だけで魔法の習得を志している次第です。そのため、師と呼べる人もおらず、学校も出ておりません。そこでお願いになりますが、魔法を教えていただける先生もしくは学校を紹介していただけないでしょうか?」
僕は一気に話した。
内容が想像を超えていたのか、目の前の老人は少し目をつぶり、深く考え込む素振りをした。
「うーむ、少し考えさせて下さい」
長い沈黙の後、目を見開くと
「セバス、こちらへ」
と、執事を近くに呼んで、ヒソヒソと会話を交わし始めた。




