第四話 王女、庭園にて
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計測石破損事件は、その日のうちに学園中を駆け巡った。
「あの子、辺境出身なのに歴代最高記録らしいわよ」
「計測石を壊したのなんて、開校以来初めてだって」
廊下を歩くたびに向けられるひそひそ話に、リゼルはひたすら小さくなって過ごしていた。目立たないどころか、初日にして学園中の有名人になってしまった。
昼休み、人目を避けるように学園の奥にある庭園へ逃げ込んだリゼルは、そこで思いがけない人物に出くわすことになる。
「あら。あなた、噂の転入生ね」
薔薇の生垣の向こうから現れたのは、金色の巻き毛を揺らす、気品ある少女だった。制服の意匠が、他の生徒とは明らかに違う。
「フィオナ・カレンディア……第一王女殿下」
リゼルは反射的に片膝をつきそうになった。長年の――否、正確には数百年ぶりの、王族に対する礼儀作法が体に染みついている。
「そんなに畏まらなくていいわ。ここは学園、身分は関係ないもの」
フィオナは楽しそうに笑い、ためらいなくリゼルの隣に腰を下ろした。距離が、驚くほど近い。
「計測石を壊した子に、直接会ってみたかったの。ねえ、あなた、本当はどれくらいの魔力を隠しているの?」
紫水晶のような瞳が、まっすぐにリゼルを射抜く。ただの好奇心ではない。この王女は、何かを見抜こうとしている――そんな鋭さがあった。
(厄介な。この国で最も聡明な王族というのは、伊達ではないということか)
「さて。私自身、驚いているところだ」
「ふふ、その喋り方も気になっていたのよね。まるで、どこかの物語に出てくる王様みたい」
図星を突かれ、リゼルは思わず言葉に詰まった。フィオナはそれを面白がるように、くすくすと笑い続けている。
「怖い顔をしてるわりに、存外わかりやすい人ね、あなた」
「……そのようなことを言われたのは、初めてだ」
「そう? なら、私が最初の一人ってことね」
そう言って、フィオナはごく自然にリゼルの手を取った。
「これから、仲良くしましょう。リゼル」
その手の柔らかさと、屈託のない笑顔に、リゼルの中で何かが小さく音を立てて崩れた。千年の統治の中で、王族から友好の手を差し伸べられたことなど、一度もなかった。
(……悪い、気分ではないな)
二度目の、そんな感想だった。
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