第二話 村で一番の秘密
投稿頻度が悪く申し訳ないです。
「……えっと、その、たまたま、古い魔導具を拾ったのだ。祖父の遺品の中に」
森からの帰り道、リゼルは苦しい言い訳を絞り出していた。
「魔導具って、あんな威力のもの、王都の魔法騎士団でも持ってないと思うけど……」
エマの目は疑わしげなままだったが、それ以上追及してはこなかった。代わりに、彼女は不意にリゼルの手をぎゅっと握った。
「……ありがとう、リゼル。助けてくれて」
「……礼を言われるようなことでは、ない」
「ううん、言わせて。リゼルがいなかったら、私、今頃……」
エマの声が少し震えていた。リゼルは、その手の温もりに、妙な戸惑いを覚えていた。
千年の統治の中で、感謝されたことなど数えるほどもない。むしろ恐れられ、憎まれることのほうが圧倒的に多かった。目の前の少女が浮かべる、混じり気のない安堵と親愛の表情に、どう反応すればいいのか、リゼルには分からなかった。
(……悪くない、な)
そう思ってしまった自分に、リゼルは少しだけ驚いていた。
⸻
村に戻ると、すでに影狼騒動の噂が広まっていた。遠目に閃光と爆音を見た村人が何人もいたのだ。
「一体何が起きたんだ!?」
「森の方角から、まるで雷が落ちたような音が……」
村長のオズワルドが血相を変えて駆けつけてくる。エマが慌てて口を開こうとするのを、リゼルはさりげなく手で制した。
「大きな雷が落ちて、影狼が驚いて逃げていっただけです」
真っ赤な嘘だった。だが、村人たちは「ああ、最近は天候が不安定だからな」と、あっさり納得してしまった。田舎の村というのは、時にありがたいものだとリゼルは思う。
その夜、リゼルは自室の窓辺で、遠くの空を眺めていた。
(この程度で誤魔化せたのは、幸いだった)
千年の因縁も、大陸を揺るがした戦争も、今のこの小さな村では何の意味も持たない。土をいじり、薬草を摘み、幼馴染に手を握られて安堵する——そんな、あまりにありふれた日常。それこそが、前世では決して手に入らなかったものだった。
(このまま、静かに生きていければ、それでいい)
そう思っていた矢先――
コンコン、と控えめに窓を叩く音がした。
見れば、一羽の白い鷹が窓枠にとまっている。その脚には、王家の紋章が刻まれた筒が結び付けられていた。
「……嫌な予感しかせんな」
リゼルは、深いため息をついてから、その筒を手に取った。
中から出てきたのは、羊皮紙に書かれた一通の招待状。
『辺境の地にて、規格外の魔力反応を検知せり。カレンディア王立学園、特待生として招聘す』
差出人の欄には、見覚えのある紋章——数百年前、自分と刃を交えた勇者の血を継ぐ、王家の印が押されていた。
リゼルは、しばらくその紙を見つめたまま、動けずにいた。
(まさか、たった一度の失態で、これか)
静かな村での暮らしは、思いのほか早く終わりを迎えようとしていた。
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