第2話 褒めてるっていうか、引いてんだけど
パウロはまず二人を監視した。
生物と視界を共有する魔法を使い、二人の近くにいる人間や虫などの視界を覗いた。また盗聴も行い、どのような会話をするのかも監視した。
一週間で行ったことはこれだけだった。
そして二人に会うことになった。
「よう。名前はパウロ、だっけ? まあなんでもいいや。それでどうすんの?」
「はい。オオノヨウタ様とセトマイカ様のロボットを作りました」
「ロボット!? どういうこと?」
「こちらです」
そこにヨウタとマイカそっくりのロボットが現れた。
「うわぁ! なんだこれ!」ヨウタはそう叫んで、マイカは言葉も出てこなくなり、口を押さえていた。
「触ってみてもいいか」その質問にパウロが許可すると、二人はそのロボットに虜になったかのように、ロボットの肌に触り続けた。
「まじで人間の肌みたいだ。お前こんなロボット作ったのか。それも1週間で」
「作ったのは今朝です」
「......!! まあ、どっちでもいいが、どちらにせよすごいな」
しばらくそのロボットに二人は興味津々だったため、パウロはなかなか話を切り出せなかった。飽き出してきて、やっと旅行のための計画を話すことにした。
二人の行動を監視していた話をしようかと思ったが、二人は高校生だ。思春期なのだから、監視などされていたら嫌がるかもしれない。そう思ったため、言葉を選んだ。
「このロボットにはお二人の行動パターンが読み込まれています。お二人とほとんど同じ動きをして、同じことを話します」
「このロボット自体くれねえか。そしたら学校でもなんでもサボり放題だ」
「それはできません。私はこの世界には存在していない特殊な力を使っています。そのためこの特殊な能力にまつわる情報が世に出回ることは望んではいません。このロボットが今回の目的以外に利用することは許可できません。許可すると、情報が出回る可能性がありますので」
「よくわかんないけど、そんな事情があるのね。それなら仕方ないけど、私たちはしてもいい情報なの? 私たちもしかして殺されたりする?」不安そうにマイカが聞いてきた。
「それはしません。部分的な記憶だけ操作することになりますが」
「あんた、本当になんでもできるのね」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「褒めてるっていうか、引いてんだけど。まじうける」マイカはそう呟いた。
「一つ確認したいのですが、学校には行かなくてもよろしいのでしょうか。その期間の学習はできないことになりますが」
「そんなもん別にいいよ。勉強なんかしたくねえし。マイカはまあ勉強しないといけねえけど、今回くらいはさぼっていいんじゃないのか。だってこいつのための傷心旅行だし」
ヨウタはマイカのことをさして、そう言った。
とある日の夜、みんなが寝静まった頃だった。
ヨウタとマイカは部屋から飛び出し、それと入れ替わるようにパウロが作ったロボットが布団に入った。
それから二人は旅行に行った。突然できた休日を熱海で満喫した。
二人を模したロボットは二人の役を演じ切った。演じたというよりも、ダウンロードされている内容を学習して、活動しただけだが。
二つのロボットは魔力で活動していた。だからパウロは遠隔地から魔力を注入し、そして二つのロボットがミスを犯していないか、監視していた。
無事、一週間は終わった。
「パウロ! ありがとうな! お前のおかげでめちゃくちゃ楽しかったぞ」
「私からも、ありがとう......」
「構いません。お二人が喜んでくれるのなら何よりです」
パウロは二人の顔を見た。ヨウタは心の底から喜んでいるように思えた。喜びの総量が多すぎて、顔にまで滲み出ているようだった。
マイカは少し恥ずかしそうに下を向いていた。だけど前よりも少し明るくなっているようだった。まだ完全に心が癒えたわけではないが、前を向いて生きていく気力はありそうだ。
二人からは感謝の言葉をもらえた。パウロの心臓の方で小さな炎のようなものが灯った。それは温かくて、優しくて、なんだか高揚感を感じた。
これが幸せだ。ご主人様が言っていた通り、心の底から感謝されれば、幸せを感じるものなのだ。パウロはそう思った。
「何か頼みたいことがあったら、また頼んでもいいのか?」
「はい。構いません」
「でもあんたは確か私たちの記憶を消すんでしょ? それでもあんたのことを覚えているっていうの?」
「はい。部分的に記憶を操作しますので」
「そう。ならいいんだけど」
記憶消去の魔法を行い、二人とは別れた。
3日後、パウロのもとに連絡があった。
新しい依頼か、楽しみにそのメールを開くと、それはマイカからのメールだった。
「また頼みたいことがある。聞いてほしい」そう書かれていた。
「どんな依頼でしょうか。また学校を休みたいのでしょうか」
「そうじゃない。個人的な依頼なの。ヨウタは全然関係ない。記憶は残ってないけど、あんた本当になんでもできるみたいだから、もしかしたらと思って」
そうメールでやり取りをして、会うことにした。
「依頼というのはなんでしょうか」パウロが聞いた。
「あんたは、タイムスリップってできるの?」
「できます。未来を変えてるほど、過去に変化を与えてはいけないなど、色々と条件がありますが」
「なら、できるかもしれない。依頼っていうのはね、私のお母さんのことなの。実は私のお母さん、3ヶ月前に死んじゃったんだ」
マイカとヨウタが傷心旅行をしたのは、母親の死で傷ついていたからであった。
母親は交通事故で何の前触れもなく、突然この世からいなくなった。明日も明後日も一年後も十年後も生きている、そう思っていたのに突然消えた。
最後に喋ったのは亡くなった日の朝だった。
その朝、マイカと母親は進路に関することで喧嘩になった。
マイカは母親に対して「まじで死ねよクソババア」そう言って、家から出て行ったらしい。
そして、本当に死んでしまった。
「ヨウタと旅行に行って少しは元気になったけど、やっぱり死ねって言っちゃったことが辛くて。だから謝りたいの。お母さんが生きてる時にタイムスリップをして。それってできそう?」
「それくらいなら、未来は変わったりしないかと推測されます。可能でしょう」
「よかった。もう一つあるんだけど......」
母親と喧嘩をした後、マイカは普通に学校で1日を過ごした。だからどうしてお母さんが何をしていたのかは知らなかった。いつ通りカウンセラーの仕事でもしているんだろうと思っていた。
しかし、そんな想像は間違っていた。
先生に自分の母親が死んでしまったんだとマイカは言われてしまった。交通事故で亡くなってしまったのだと。
交通事故に遭った場所は愛知県名古屋市だった。
理解ができなかった。だってマイカは東京都で生まれ、東京都で暮らし、東京都で生活しているからであった。名古屋は行ったことがなかった。
「お父さんに言われたの。今から病院にいくぞって。何が起こったのかわからないままついて行ったら、どういうわけか新幹線に乗ったの。到着した場所は名古屋の病院だったの」
母親がどこかに旅行行くなどとは聞かされていなかった。父親も当然知らなかった。どうして母親が名古屋に行ったのか、そして名古屋で何をしていたのかは誰も知らなかった。
「だからタイムスリップをして、どうして名古屋に行ったか一緒に調べてほしいの」
マイカは真剣な顔でそう頼んできた。




