第1話 では一週間後、また会いましょう
ご主人様に会うために、異世界に転移したパウロだったが......
その世界には魔法がなかった。
魔法がない代わりに、科学というものが進んでいた。
科学というものが進んでいるから、高い建物があり、医療が進んでおり、コンピューターというものが存在した。
パウロのいた世界は科学が進んでいなかった。科学という言葉すらなかった。科学の代わりに魔法が進歩していた。
パウロはロボットであったが、コンピューターは組み込まれていなかった。魔力を動力源として、記憶や考える脳、動くといったことが可能になっていた。
パウロがいた世界では、魔法は限られた人間しか使えなかった。とてつもない努力をしたもの、生まれ持った才能があるものしか、魔法は使えなかった。
それに比べてこの世界は、知識があれば誰でも科学を利用できる。
それは素晴らしいことだと思った。発展するのも当然である。
そしてもう1つ、この世界の優れている点があった。それはたった1万年程度でここまで進化しているということだった。
パウロの世界は魔法がここまで進化するのに10万年はかかっている。
歴史書が残っているだけでも10万年であるから、それ以上昔から魔法は存在していたと思われる。10万年以上かかって今の魔法のレベルまで進化した。
しかしこの世界は縄文時代という原始時代があったそうだ。そんな何も進化していなかった時代から、パウロが転移した西暦20XX年まで、たった1万年程度でここまで進化したのだ。この進化はパウロがいた世界では考えられないスピードであった。
ご主人様はこの世界のいつかの時代のどこかの場所にいる。ご主人様に出会うために、この世界で旅をする。長い旅になるだろう、そう思った。
パウロは幸せという感情が好きだった。とてつもなく満ち足りた気持ちになるからだ。
だから幸せになる方法を知りたくて、ご主人様に聞いた。幸せになるためには、人に感謝されることだと教えてもらった。
だからこの世界でパウロは人を救い、感謝される旅をしながら、ご主人様を探すことに決めた。
この世界にはインターネットというものが存在した。それは離れた場所にいても、人と人が繋がれるという媒介をしてくれるものであった。
インターネットの掲示板に投稿した。
「どんなことでもタダでやります。基本的になんでもできます」そんな旨のことを投稿した。
詐欺かなんかだと思われたのだろう。ひたすらに無視された。
1週間経ってようやく、依頼をしたいという連絡があった。会って話すことになった。
依頼主は若い男女であった。
「うわ。まじできた」
第一声はそんなものだった。女の方がそう言った。
「こんにちは。パウロと言います。よろしくお願いします」
「パウロ? キラキラネーム。どう書くの?」男の方にそう言われた。
「カタカナでパウロと書きます」
「えっ。外人?。日本語うまいじゃんすご。俺、オオノヨウタ。隣にいんのがセトマイカ」
ヨウタという男は気分が高揚しているように見えた。目の前におもちゃを置かれた子供のようにワクワクしていた。
それに比べて、マイカという女は悲しげな顔をしていた。悲しげというよりも、悲しみ続けて疲れ切っているような顔をしていた。しかし、そんな感情を必死に隠し、耐えているように見えた。
「お二人は恋人同士なのですか?」
「恋人? なんか言い方重くね。普通にカップルだけど」
パウロは二人の話し方や態度に驚いた。だがすぐに対応することができた。事前にこの世界で「チャラい」という言葉やこの世界の若者の「ノリ」について学んでいたからであった。
「えっ。てかさ、まじでなんでもできんの?」
「基本的にはなんでもできます」
パウロは魔法とその知能で基本的にはどんなことでもできたが、この世界には魔法がない。魔法というものは存在しない世界なのだから、パウロが魔法を使ってしまうと、この世界の人々に魔法の存在を知られてしまう。だから魔法を使ったとしても、それを知った人々の記憶を消す必要があった。それがご主人様のタイムスリップの魔法の文書に書かれていたことであった。
「ほんとなんでもやってくれんの? しかもタダで」
「ええ。タダで結構です。できれば感謝してほしいですが」
「感謝くらいならいくらでもするよ。その代わりできなかったら10万円くれよな」
「10万円ですね。わかりました」
「そのお願いっていうのがまじで不可能なことだと思うんだけどさ......」
「まじでお願いすんの? 可哀想だって」
「いいだろ、こいつが自分でなんでもできるって言ってんだから。できなかったら絶対10万円払えよ?」男の方は笑いながらそう言ってきた。
依頼内容を聞くことにした。
彼らの依頼は次のようなものだった。
二人で一週間くらい旅行がしたい。金はあるけど、学校休んだら親に怒られるし、高校生二人だけで旅行することも親には許されない。だから変装して代わりに学校に行ったり、家に帰ったりしてほしいとのことだった。
結論を言うとその依頼は冗談だったようだ。彼らは本当にできるとは思っていなかったらしく、10万円をもらうのが本当の目的なようで、もっと言うと10万円を要求していたことも冗談だったらしい。
「ならなぜこんな依頼をしたのですか?」パウロがそう聞くと、
「だって、なんか、おもろいじゃん」と笑って言ってくれた。
だが、パウロにとっては簡単なことだった。
「私が学校にいたり、家にいたりしなくてもよろしいですか?」
「いいけど、他に頼めるやついんの?」
「いませんが、できます。少々お時間をください。一週間程度」
「まあ、いいけどさ、本当にやんの?」少し引いているようだった。
「できますが、やりませんか?」
「まあ、やってくれるなら頼みたいけど」
「では一週間後、また会いましょう」そう言って別れた。




