第2話 会えるさ。きっと
魔法使いは全員捕まってしまい、刑務所の中で死刑になるのを待つことになった。
パウロは今後攻撃魔法が使えなくなるような設定に変更されることは決まったが、ロボットだったため、罰は下らなかった。
パウロは一緒に戦ってきた仲間たちを一人一人失っていくことを想像した。
パウロは最強だった。だが孤独ではなかった。それは仲間がいたからだった。
彼らを失う。彼らが皆死んでしまう。ご主人様が死んでしまう。
そんな未来を想像した時、初めて悲しいという感情をパウロは知った。
悲しい。悲しい。悲しい。
大事な仲間をみんな失う。悲しい。
ご主人様が捕まってしまって、目の前からいなくなった時、パウロは自分がご主人様のことが「好き」だったのだと知った。
失うと分かって初めて自分はご主人様のことを誰よりも愛していたということに気づいた。
どんなに悲しくても、涙は流れない。パウロの体内に水分はないから。
とある日の夜、パウロは透明になる魔法を使って、刑務所にこっそり忍び込み、牢屋に入れられているご主人様に会いに行った。
「ご主人様、こんばんは」
「おう! パウロじゃないか! よく来たなぁ」
ご主人様はいつもと変わらず元気そうだった。
「ご主人様。今回のことがきっかけで初めて悲しいという感情を知りました。それと同時に好きという感情も知りました。ご主人様を失うことになって初めて、ご主人様を愛していたことに気づいたのです」
「そうか。愛してくれていたんだな」
「悲しくて、悲しくてたまらないのです。仲間を失うことは何よりも耐え難いのです。どうしたらいいか考えていると、また新しい感情を知りました。それは死にたいという感情です。この世に大切な人が誰もいないなら死んだ方がいいと思いました。だから死にたいと思ったのです。しかし、私はロボットです。自分で死ぬことはできません」
「そうだな。自分自身は攻撃対象にならないようにお前を作ったからな」
「はい。そうです。ですから私のことを殺してください」
「それはできない」
「どうしてですか」
「できるはずがないだろう。お前は私にとって、最初で最後の一番大事な子供だからだ。お前は誰よりも優秀で私の自慢の子供だからだ」
ご主人様は当然のことのようにそう言った。
その時、また新たな感情が生まれた。
その感情は言語化ができなかった。
褒められて嬉しいはずなのに、涙が出てくるほど悲しいようなそんな過剰だった。
「この勘定はなんですか。涙が出てくるような感覚なのですが、どういうわけか嬉しくもあるのです」
「その感情か。その感情は幸せというものだ」
「これが幸せなのですか? 私が思っていたものとは違います! 幸せは正の感情のはずです。どうして涙が出てくる感覚になるのですか」
「感情があるものは本当に嬉しいと泣いてしまうんだ。嬉しすぎて泣くんだよ」
「そうなのですか。矛盾していますね」
「ああ。矛盾している。それが人間というものであり、感情というものなんだ」
その後、ご主人様とパウロは二人でたくさん話した。パウロの高ぶった感情を治めるように、感情にまつわること、人間にまつわること、そんなことをたくさん話した。
「落ち着いたか」
「はい。落ち着きました。ですが、ご主人様が私のことを壊してくださらないのなら、私はこの先何を生きがいに生きていけばいいのでしょうか。どうすれば幸せに生きていけるでしょうか」
「幸せになる方法を知りたいか?」
「はい。知りたいです」
「幸せになる方法は二つある。まず一つ、それは人から大切にされることだ」
「人から大切にされることですか。推測するにそれは長い時間がかかると思われます。大切にされるような関係性を構築するにはそれなりに時間がかかると思われます」
「ああ、そうだ。私とお前だって長い付き合いだろう? だからお前は私のことを大切に思ってくれているし、私だってお前を大切に思っているだから、さっきは幸せに感じたんだ」
「もう一つの方法はなんですか」
「もう一つの方法。それは人のために何かをやって、人から感謝されることだ」
「そうなのですか!? 人に感謝されれば、私は魔法使いの仲間たちを失っても幸せになれるんですか?」
「ああ、なれる」
話をしていると、外から光が差し込んできた。もう朝になったようだ。
「もう、朝だ。そろそろ帰れ」
「はい。分かりました、また来ます」
「もう来なくていい。その代わり私の部屋に行ってくれ。これは命令だ」
「分かりました。もう会えないんですか」
「会えるさ。きっと」
刑務所を出て、ご主人様の家に到着した。
何があるのだろう。そう思いながら、ドアノブに手をかけた時、脳内に情報が流れてきた。それは国からの情報だった。
パウロのメモリは国のデータバンクと共有しているから、新たな情報が入ってくれば、自然と頭に流れて来るのだった。
その情報は、捕まっていた魔法使いが全員消えたということだった。
全ての牢屋に鍵をかけていて、そこからは出られないはずなのに、牢屋には誰もいなくなったのだそうだ。
ご主人様たちがどこに行ったのか気になった。だがそれよりも、ご主人様の命令の方が大事だと思った。
ご主人様の部屋には魔法について書かれた文書があった。そこに書かれていたのはご主人様が新たに開発した二つの魔法に関する文書だった。
パウロは読み込んでインプットした。
一つは時空を超越する魔法だった。この魔法があればタイムスリップをすることができて、数百年でも数千年でも、未来でも過去でも行けるというものだった。
もう一つは異世界に転移する魔法だった。
ご主人様の研究によると、パラレルワールドといって、私たちが暮らしている世界と似たような世界が無限にあるということでした。
全てのパラレルワールドにいけるというわけではなかった。その無限にある中の、IF68JY7U89HU......という世界だった。
そして魔法に関する文書の他に、置き手紙が置いてあった。そこにはこう書かれていた。
私たち魔法使いは戦争にまつわる罪によって、死刑に処される。それは嫌だ。死にたくない。みんなそう思っている。
だから、私たちは異世界に行く魔法を使って、この世界から消えることにする。
これは私だけではない。魔法使い全員だ。
異世界に行ったら、それぞれが好きなことをして生きていく。
私はタイムスリップを繰り返して、時空を彷徨う旅をしようと思っている。
お前に言えなかったのは、分かっているだろうが、お前のメモリは国と共有しているからだ。お前に話すと国に気づかれてしまって、私の逃亡計画を阻止されてしまうからだ。
お前とは一緒に行きたかった。だけどそれは無理な話だった。
最後に私の命令を聞いてくれ。
私に会いに来てくれ。
お前も異世界に来て、私と同じようにタイムスリップをして、異世界のどこかの時代にいる私を探してくれ。
私はエルフで長生きするし、お前はロボットだから寿命はない。だからいつか必ず会えるはずだ。
追いかけてくるやつはいない。異世界に行ったら、お前のメモリの情報は国には届かない。異世界はそれほど離れているから。だからこの魔法についてもばれることがない。
お前のことを待ち続けている。以上。
パウロは命令に従うことにした。
パウロはご主人様が作ったロボットだから、命令には従う。
だが、今回は違う。自分の意志で命令に従うのだ。
パウロはこの後誰かがこの部屋に来て文書を読んだりしないように、魔法に関する文書と置き手紙を炎の魔法で燃やした。
そして、魔法を使って、異世界に転移した。
人に感謝されるために人を救う、時空を移動する旅が始まった。




