【3-16】ヴェルファスト学園vsアリストリア学園
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少年ことクロード・エルモントは、火力至上主義のヴェルファスト学園でも二人しかいない、四重強化魔術が使える二人のうちの一人だ。
しかし、その二人の間にも序列は存在する。
もう一人は庶民出身でありながら、四重強化魔術を扱える新星。詠唱が苦手なものの、陽気な性格と着実に魔術式を積み上げていく姿は、クロードもそれなりに評価している。
対してクロードは、多くの魔術師を輩出した由緒正しきノリッシュ伯爵家の分家筋。そして唯一学生の中で五重強化魔術を使える生徒だ。
一般的に精霊王召喚による一撃が四重強化相当と言われる中で、五重強化魔術はそれをも超える威力を誇っている。
(七重強化なんてバケモノもいますが、彼ですら魔道具頼り)
いつか独力で七重強化魔術を使えるようになって、大賢伯としての地位を得る。そうして功績を挙げて「分家」などではなく、キチンとした伯爵位に立つのだ。
そんな野望を胸に抱き、魔術戦に臨んだ彼が取った戦術こそ、「片方が飛行魔術で飛び回りながら、もう片方が強化魔術を使って蹂躙する」である。
シンプルでありながらも、飛行魔術で飛び回っている相手に当てるためには相当な練度が必要だ。
普通の学園でそのレベルに達する生徒は稀だし、魔術の名門であるアリストリア学園や、精霊学に通じているフェルマー学園だとしても、確実に狙い打ってくる生徒なんてそう多くない。
実際にアリストリアの別動隊と、彼らに標的にされていた学園の6人。そしてフェルマー学園の6人もクロードだけで簡単に蹂躙できた。
「……そこの貴女、ただ者じゃありませんね?」
だからこそ、防御結界で粘るアリストリアの生き残り――灰色髪の女子生徒がウザったい。
数的にも位置的にも不利だというのにも関わらず、〈魔導書〉なんてニッチで前時代的な代物で、クロードの四重強化魔術を防いだのだ。
せっかく一方的な蹂躙劇を繰り広げ、観戦している魔術師たちに自分の実力をお披露目しようと思っていたのに!
(本気でかかるとしましょう)
認めたくはないが、事実として少女はクロードの四重強化魔術を防いだのだ。半端な魔術じゃ攻撃が通らない。
ならば、己の全てを出し尽くしてでも倒すまで。
幸いヴェルファスト学園の生徒は全員残っているし、ここでクロードが魔力切れになっても勝利は確実。
何より、優勝候補の二校をほぼ独力で全滅させたのだから、十分すぎる功績を残せたはずだ。
「――――」
「く、クロード。それやるのか?」
運び役の青年が少し驚いた様子で聞いてくるので、クロードは詠唱を続けながら頷く。
五重強化魔術は強力だ。
しかしその分詠唱が長く繊細で、かつ魔力消費も莫大。今の彼だと、一発撃ったら魔力切れで倒れてしまう。
とても実戦で扱えるような段階じゃない――が、四重強化魔術を防がれた以上、さらなる威力でねじ伏せるまで。
なにせ彼はヴェルファスト学園の代表。火力至上主義を掲げ、どんな防御でも打ち砕く自負がある。
クロードを抱えた青年が回避行動を取り、アリストリアの二人に的を絞らせない。
しかしどういうわけか、魔導書使いの少女は自分で魔術を使おうとしなかった。
魔導書の方が早いのは確かだが、書かれている魔術しか使えないのは臨機応変さに欠ける。常に位置が変わり続ける敵に当てるのは、それこそ無理難題であろう。
(もう少し――)
詠唱も終盤に入ったところで、ロミエを庇うように立つ黒髪の青年──ミハエルが詠唱を始めた。
事前に調べた限り、彼はアリストリアの魔術戦クラブで団長を務める実力者だが、適性は土。攻撃や戦闘には不向きな属性である。
風魔術で攻撃してこようと、速度や精度は適正持ちより劣るので、攻撃をしようと容易に回避可能だ。
それに、詠唱ももう終わる――その時、青年が地を蹴り空を飛翔して、一直線にクロードの元へと突撃してきた。
「は、はあ!?」
自殺行為とも言える行動に、クロードを抱える先輩が目を見開く。
その隙にミハエルは、クロードごと両腕で抱き掴んで拘束されてしまった。
「っし、捕まえたァ!」
ミハエルは上機嫌にニヤリと笑った。
それに対し、クロードは詠唱を保持しながら小さく歯嚙みする。
敵に行動を制限されるのは非常にマズイ。動きにくくなるうえに、もう一人の仲間――四重強化魔術を防いだ少女が攻撃しやすくなってしまうのだ。
逃げようにも、元より腹を抱え込まれている上に、ミハエルが下から突き上げるようにホールドしてきたので、前後左右を塞がれたので動けない。
魔術を使って引き剥がそうにも、先輩は混乱でそれどころじゃないし、クロードはクロードで五重強化魔術の維持で精一杯だった。
(マズイ、このままじゃあ――)
クロードが目を向けた瞬間、魔導書を掲げた灰色の髪の少女の周囲に、幾つもの魔法陣が生み出される。
「……あと、任せてください」
少女の呟き。クロードとの視線が交差した瞬間、魔法陣から無数の風の刃が放たれた。
ミハエルがいることなんて気にしない。味方諸共打ち倒すつもりだと気づいた時には、その一撃を腕に受ける。
そして相応の魔力が削られる感覚──同時に、クロードは直感的に気が付いた。
普通の魔術じゃこんなに減らない──と。
(これ全て、二重強化相当の威力じゃないですか!?)
***
対空魔法を書いた時、狙ってまともに当たるとは思っていなかった。常に位置が変わり続ける目標へ正確に当てるには、その時その時で座標を割り出さねばならないからだ。
だからロミエは放つ範囲と数を増やし、一撃一撃の威力を底上げすることで解決する。
具体的に言えば、放たれる風の刃は全て二重強化が施されていた。
普通の攻撃魔術よりも消費魔力が多いものの、ロミエの魔力量はそこそこ多いし、途轍もなく難解な節制術式も魔導書の中に納まっていれば速度も犠牲にならない。
懸念点である「命中率の低さ」も、ミハエルが適切な位置で留めていてくれたおかげで解決した。
ロミエの魔術は面白いように命中し、三人は錐揉みしながら地面へ落下する。
そして──脱落を告げる魔法結界が展開された。
三人一ヶ所にいるため一つに纏まっているが、ロミエの魔法は規定値以上に魔力を減らしてしまう可能性もあったので、好都合である。
「……絶対、勝ちますっ」
魔力切れで地に伏すミハエルに向けそう告げると、彼はグッタリとしながらもグッと拳を上げる。
ロミエも己の両拳をキュッと握って応え、この場を離れるべく背中を向けた。
(ど、どうしよう……戦うにしても、魔法書じゃ数的不利はひっくり返しにくいし、ひと先ずは身を隠した方がいい……かな)
さっきのでそこそこ魔力を使ってしまった上に、一人で戦うとなると魔力を使いにくい。
とりあえず、敵のいる可能性が低くて安全な場所――奇襲してきた彼らがクリアリングしていた北東方面に向けて、ロミエは駆け出した。
しかし元々運動能力が低いうえ、疲労困憊で体力も回復しきっていないロミエは、すぐにふくらはぎや腹筋が痛くなり、息も絶え絶えになってしまう。
それでも、託された信頼に応えたい。皆に勝利をもたらしたい。怖いけれど、逃げたくなかった。
地面と触れる度、足裏から伝わる衝撃が筋繊維を引きちぎるように揺らす。
ロミエは血の味を舐めながら、必死に必死に足を回した。
「ゼェっ、ゼェっ、ヒィっ、ひぅっ……く。ぜぇ、ぜぇ、ぅぇっ──」
そうやってガムシャラに走っていれば、そこそこ距離を取ることが出来た。
けれど、まだ安心できない。
(もっと……て、敵がいないとこ……へ、行かないと──)
止めた足を無理くり再起動させながら、無詠唱で索敵魔法も使おうとしたロミエ。
しかし、とうに限界を迎えたロミエの身体は、その負荷に耐えきれなかった。
「ぁ────」
視界がグワングワンと歪み、平衡感覚が取れなくなって足が揺れる。
これ、マズイ──
そう思った時には、身体は倒れる横に傾いていって──
「だ、大丈夫! ですかッ!?」
「……へ」
地に激突する寸前、誰かが横抱きにロミエをキャッチした。
(だ、だれ……?)
ここに人はいないはずだし……いや、もしかしたら脱落した人が助けてくれたのかもしれない。
なんにせよ、ちゃんとお礼を言わなければ──そう思って顔を上げたロミエは、その目を限界まで見開く。
「ぁ…………な、たは…………」
ロミエと同じようにケープコートを羽織った明るい茶髪の青年だ。しかし、彼のケープコートは濃い緑色で、アリストリアを示す青色ではない。
そして、なにより決定的に違うのは肌の色。街灯に揺れる灯火が彼の青い肌を照らす。
青肌人種——つまりアナイア帝国出身の人間は、今大会に一人しかいない。
そう、たしか名前は――
「自分はフェルマー学園代表のアルウェルです。敵同士ですが、今にも倒れそうだったので、つい……」
キリっとした目尻のジト目を困ったように下げ、青い瞳を優しくロミエに向けた。
彼こそ、リフィル殿下を狙う刺客候補の一人。帝国出身の精霊使いアルウェル。
ロミエが一番会いたくなかった人物だった。
章の境目という事で、閑話と登場人物紹介を挟みます。
ここ数話で新キャラも複数登場したこともあり(自分も)混乱しそうなので、一旦のまとめになりますね。
本編はその次に投稿します!




