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【3-11】観戦

 今回の魔術戦大会は街の半分を舞台とした市街戦。

 細い路地が多く、山の麓にあるだけあってほとんどが坂。ほぼ全てが4階以上の建物ばかりなうえ、常闇の欠陥のせいで視界も悪い。


 そんな街の半分を使って行われる魔術戦は、午前と午後の前後半で行われる。

 ロミエの出番は後半。広場に設けられた椅子に座って、デカデカと設置された水晶板に映される映像を眺めていた。

 攻撃魔術を感知し、即座にその場面の情景を映像に変換してくれるおかげで、水晶板では常に激しい戦闘が映し出されている。


 爆ぜる閃光。散り舞う砂埃――そこから飛来する風の刃。防御結界の煌めきや、雷魔術による煌めきとスパーク。


「そこだー、今っ!」

「あの子、あんなに飛んでぶつかったりしないかねぇ……」

「あ、噛んだなあいつ」


 観戦しにきた住民たちも、それぞれ映し出される映像に見入っていた。

 魔術戦は一種の娯楽としても見なされていて、戦闘の様子を写せる魔道具ができてからは、観戦の需要も大きく、こうして大画面で映されるようになっている。


 つまり、何かヘマしたら一瞬で大衆の下に晒されるのだ。

 例えば、ロミエが魔法書に書かれてない魔法を使ったり、〈世界の本〉での書き換えなんかしようもんなら――。


「うぅぅ……」


 考えるだけで寒気がして、ロミエは小さく見悶える。

 それを、なぜか隣に座っているリーンハルトが見逃さず「どうしたんだい?」と首を傾げた。


「え、えぇと……」


「昨日までの長旅の疲れがまだ取れないようだ。良い椅子を用意させようか?」


「い、いらないです……っ」


 フルフルと首を横に振るロミエ。

 これ以上注目されたくないのに、ここで特別扱いなんかされたら余計に目立つことになってしまう。


(そ、それに、なんで会長がこっちに座ってるの……??)


 彼は来賓枠でこの街に来たわけで、本来はもっと良い席が用意されている。なのに、わざわざ彼はロミエの隣へ座ったのだ。

 ニコニコと笑みを浮かべながら逐次戦況を説明してくるので、「は、はあ」と相槌をするしかないロミエがそこにいる。


「ン゛ン゛ッ。さっさと自分の席に帰れよ会長どのぉ。あんたは部外者だろう?」


 わざとらしく咳ばらいを挟むのは、アリストリア代表選手団の団長ミハエル・シル・コルトヘルム。

 リーンハルトと同じく四年生で、子爵家の彼は何らかの面識があるらしい。侯爵家である彼に対して、比較的砕けた口調で話していることからも伺える。

 とはいえ、ぎこちなく笑みを向けるミハエルに対して、リーンハルトはいつも通りの融和な笑顔で応えた。


「おや、私はアリストリア学園の生徒会長だよ。それにロミエは生徒会の期待の新人だ。気にかけて何が悪いんだい?」


「過保護なんだよ!! それに今は生徒会じゃない、ハルベリィ嬢は魔術戦の代表選手だ! 代表団の団長としてキッパリと言わせてもらう。邪魔だ」


「……そこまで言わなくても」


事実(じ・じ・つ)なんですがぁ??」


 ミハエルの額に青筋が浮かぶ。

 これにはリーンハルトも引き下がることができず、「じゃあ、期待しているよ」と一言残して来賓席に戻っていった。


「はぁ……なんでアイツはこうも自己中になったかなぁ……」


「え、あ……その、昔は違ったんです、か?」


「まあな。アイツとは初等学園からの付き合いなんだが、そん時はもっとこう……なんだ、内気な奴だったんだよ」


「内気……」


 社交的で事あるごとにロミエを巻き込もうとしてくる、あの人が……?

 とても信じられない事にロミエが訝しんでいると、ミハエルも「俺にもよく分からん」と肩を上下させる。


「12歳頃だったかな、一度実家に帰省して戻ってきた時辺りから変わっちまった」


「実家……ですか」


「まぁな、その時――ま、色々あってから、アイツは妙に達観した雰囲気で話すようになっちまったんだ」


 ミハエルが微妙に言葉を濁したが、どうやら実家に帰ったのがキッカケらしい。


(実家……か)


 金銭的な問題で、ロミエは一度も帰省できていない。なので、帰った先でどんな反応がされるのかが分からない。

 分からないので、リーンハルトの変化の理由も見当がつかなかった。


(迎え入れてくれる……のかな)


 だったら、きっと嬉しい。少しだけ前を向こうと思える。

 それこそ魔法のように、両親と出会えて食卓を囲み、いっぱいお話ができたら――そんな想像を膨らませるだけで、自然と頬が綻んだ。

 もしかしたら、彼も実家で似たような魔法に掛かったのかもしれない。


 ロミエが一人納得していると、ミハエルが「あとな」と付け加える。


「アリストリアに来てからは特にだな。ハルベリィ嬢みたいに潜在能力の高い生徒を見出して育成すんのが、今のアイツの《《趣味》》だよ」


「………………しゅ……み……?」


「……あぁ。ちなみに年下が好みって噂だぜ」


 「生徒会の役員、副会長以外は全員年下だろ?」なんて根拠も示されると、そうとしか思えなくなる。


(も……もしかして、わたし、そんな理由で巻き込まれてるの……?)


 だとしたら、とんだ迷惑である。

 とはいえ、リーンハルトは王家の血筋を持つ公爵家の跡取りだ。田舎平民であるロミエが逆らえるわけもない。


 「は、はは……」と小さく絶望していると、ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐり、ロミエの隣へ人が座った。


「全くですわ。妾が目を離した隙に、ロミエちゃんと馴れ馴れしく隣に座るだなんて……許せませんの!」


 そう言って右腕に巻き付いてくるのはライラック。ロンド王国が誇る円卓の十一賢者の一人であり、大賢伯が一人〈全能の魔女〉。

 精霊王の攻撃すらものともしない複合結界を展開した一人であり、なんなら王国北方の高原一帯を統治している、シェード大公爵家の直系子息である。


 最年少で大賢伯に選ばれ、短期間で様々な功績を挙げてきた彼女が、ロミエの腕に抱きついているのである。


「大賢伯どのぉ~? アナタも大概なんですがぁぁ??」

「あ、のっ……ライラ様……」


 ミハエルも協力して引っぺがそうとしても、彼女が離れる様子はない。


「嫌ですの、絶対に離れませんわ!! なんてったって、ロミエちゃんは妾の妹ですの――!」


 そういえばそんな設定だった……。

 もはや放心状態でされるがままのロミエに、ミハエルも同情の視線を向ける。


「……ハルベリィ嬢、心中お察ししますよ」


「は……ハイ」


 これならロミエとライラックが変に親密であっても、ニヒリアまでには結びつかないだろう。

 それが理解できてしまうからこそ、されるがままにするしかないロミエは、引きつった笑みを浮かべるしかないのだった。



***



(流石にこれ以上は過剰に受け取られかねないし、ちょうどいいか)


 リーンハルトは席を離れつつ、背中で行われるライラックの暴走に耳を傾けながらも、足取りは迷わず《《とある人物》》の元へと向いていた。

 向かうは教員席の一つに座る、とある学園の引率教師。


「やあ、こんにちはホーク男爵」


「おやおや、どなたかと思えばリーンハルト殿。あいや、マークハリス殿とお呼びした方が良かったですかな」


「リーンハルトで構いませんよ。隣に座っても?」


 快く快諾したホーク男爵に促されるまま、リーンハルトは彼の隣に座る。

 ホーク男爵ことジェリー・ホークは、白髪混じりのぼんやりとした中年男性だ。

 年を取ってから多少威厳が出てきたとはいえ、生来物静かな雰囲気は拭いきれない。それが彼の魅力と言えば魅力であり、目立てなかった理由の一つでもある。


「リーンハルト殿も、私のよいち男爵に敬語をお使いになされなくても良いのですよ?」


 自嘲気味に笑うホーク男爵に、リーンハルトは「ご謙遜を」と首を振った


「ホーク男爵、貴方ほど強化魔術に秀でた魔術師を私は知りませんので」


 そう言い切ると、「いやはや、そうですか」と男爵は照れくさそうに頬をかく。


「勿体ないお言葉です。とはいえ……今はもう、以前ほどの威力は出せなくなってしまいましたが」


「魔力量……ですか」


「はい」


 ホーク男爵はそれが摂理であるからと、受け入れたように頷いた。

 個人差はあるものの、20代をピークにして歳を重ねていく事に魔力量は減少していく。彼は既に50歳を過ぎていて、全盛期からは程遠い。


 だが、その魔術の精度や緻密さは現役だ。昔見たことがあるリーンハルトは、その時の衝撃を今でも覚えている。


「今でも五重強化魔術は使えるのでしょう? 私のような、いち学生からしてみれば偉人のように尊敬できる存在です」


「……いやはや、そこまで評価してくださっているとは、なんともむず痒いものですな」


 ホーク男爵は満更でもなさそうで、照れくさそうに頭を掻く。


「でしたら、リーンハルト殿には覚悟していただかねばなりませんな」


「ふぅん……? 覚悟ですか」


 リーンハルトが問い直しても、ホーク男爵は表情を崩さずにぼんやりと答えた。


「今大会、優勝するのは我が教え子たちになりますので」


 そう言って、彼はスクリーンに視線を向ける。映される映像も少なくなり、既にほとんどの学園が脱落していた。

 残るはアリストリア学園と、ヴェルファスト学園の二校のみ。その二校の生き残りが、攻防織り交ざる戦闘を繰り広げている。


 防御結界を適切に展開させ、ツーマンセルで連携を取るアリストリアに対して、ヴェルファスト側は各々が個々に魔術を放っていた。

 ヴェルファスト学園は火力至上主義を掲げ、魔術の威力を重視している学園である。ゆえに一撃一撃が重く、中には二重強化魔術も含まれていた。


 しかし、今大会は集団戦。

 いかに個の火力が優れていたとしても、集団で負担を分散されては防ぎ切れてしまう。

 そのうえ、火力重視は魔力を多く消費してしまうので、ヴェルファスト側の選手は次々と脱落していった。


 残る選手は一人。ずっと最後列の物陰に隠れている生徒だ。

 とどめを刺すべく、アリストリア学園の3人が杖を構えて詠唱を始める。


 すると――物陰に隠れていた彼は、静かになった戦場にスラリと身をさらけ出した。


「おいおい、勝ち目ないからって降伏か?」

「最後まで戦わないのかよ、よくそれで代表に選ばれたな」

「いや、もしかしたらずっと練ってたのかもしれんぞ」


 そんな聴衆のざわめきを晴らすが如く、その生徒は二ッと笑みを深めて――


「――爆ぜろ」


 途端、放たれた爆炎がアリストリアの生徒たちを襲った。一人が張った防御結界を抵抗なく粉砕し、一瞬で三人を脱落させる。


「……あれはまさか」


 リーンハルトが目を見開くと、ホーク男爵は少し自慢げに語る。


「現在、我が学園には四重以上強化できる生徒が二人います。そのうちの一人が彼なんですよ」


 四重強化、つまり精霊王召喚による攻撃と同程度の威力だ。それを学生ながらにして、スクリーンの先の彼は使ったのである。

 広場で観戦していた人びとが、最後の最後で起きた逆転劇に湧いたと同時に、前半戦終了の鐘が鳴る。


 魔術戦大会の前半戦は、ヴェルファスト学園の勝利に終わった。

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