第84話 首狩りの槍
レームとロウの前には未だに三匹の覚醒した獣と十匹程度の獣がいた。
サラがデルアート達を助けに向かってから一時間余りが経過していたが、レームには少し傷があるくらいで、まだ息も上がっていない。ロウは獣たちに語りかける。
「もうやめておけ、これ以上の争っても無駄に傷つけあうだけだ」
レームは残念そうな顔をする。
「何言ってんのよ。楽しくなってきたところなのに」
獣達も反応する。
「裏切り者が、お前を王とは誰も認めん。私たちはここで死んでも構わない」
「ほら。こいつらは殺し合いたいのよ。ならここで白黒はっきりさせた方がいいじゃない」
レームは槍を回しながらほほえむ。レームの周りには、彼に殺された獣達の首が散らかっている。
「まずは人間! お前を殺すがな」
「あらぁ、楽しみねぇ。この子達よりは楽しませてよ?」
レームが槍で獣の死体を指し示すと獣達は憤る。しかし、レームがブゥンと槍を振るって構えると、その迫力に思わず何匹かが後ずさりする。
レームの構えは独特で一度、槍を円状に振ったのち担ぐように構える。一見構えそのものは大雑把にみえるが、一度レームの制空権に入ると、正確無比かつ高速な槍の横振りで、あっという間に首をかられてしまう。
そうやって何匹も殺されている所を見ているため、獣達には無意識に恐怖が植え付けられていた。
「恐れるな、我らは森に選ばれた獣だ」
そう言うと獣の一匹、サルのワルドは黒い瘴気を溢れさせ始める。そして、瘴気を右腕を中心に一気に集める。次の瞬間瘴気がとれ、黒い大きな手が現れた。レームはなんとなく危険を察知する。
「触れるとまずそうねあれは」
ワルドは一気にレームに殴りかかる。レームは巨大な右手を避けながら、槍を振るう。
ワルドが気づくと、左手は地面に落ちていた。痛みでワルドは後退するが、しばらくすると手が生えてくる。
「異常ね。やっぱり……」
「これが森に選ばれた者達の力だ」
ワルドに言われて、レームは苦笑した。
「いい加減それ。馬鹿みたいだからやめてくれる?」
「なんだと?」
「あんた達は勘違いしてるみたいだけど、その力は森が与えたもんじゃないわ」
そう言うとレームはラビルを指差す。
「そこにいる、あの頭おかしい研究者があんた達をそうなるように仕向けただけよ」
ラビルは苦笑した。
「ここでそれを言ってしまうんですね」
レームはラビルにウインクする。
「なんだと? 嘘も休み休みいえ!」
レームは笑う。
「あんた達は知らないでしょうけど、たかだかこの規模の森でここまで大量に覚醒した獣が湧くのは異常なのよ……。全部、あそこの男が、意図して瘴気を増やしてるからそうなってるの」
獣達はお互い顔を見合わせる。
「王が死んだって日に合わせて瘴気を濃くしたそうよ。その時なんか瘴気がいつもより多かった自覚はないの?」
獣達の何匹かには思い当たる節があった。ロウも、あの王が死んだ日に覚醒したが、たしかに王が死んでから瘴気は濃くなった気がしていた。
「それをまあ、森に選ばれたなんて、いい笑いもんね。あんた達はあの男の実験に使われただけよ」
ラビルは苦笑する。
「煽ってるな、全く」
ワルドは怒りであまり集中せずにレームに突っ込んでいってしまう。レームはニヤッと笑うと、飛びながらワルドの攻撃を交わしてすれちがいざまに槍を一振りした。
ワルドはかわされて、そのまま二、三歩歩いたところで止まる。しかし、次の瞬間、その首が胴体から離れて落ちた。
「適当にやっちゃダメよう。覚醒したって言ってもただの拡大型なんて、すぐ死んでしまうんだから」
獣達は恐怖と怒りで感情が支配される。ラビルは感心した。
「さっきの煽りは、相手の集中を乱す狙いもあったのか。にしても拡大型を一太刀とはね……やはり五番より上は格が違うな……」
レームは槍についた血を払うようにブゥンと振ると、他の獣達を煽る。
「あら……かかってこないの?」
レームの迫力に、獣達は押されていた。すると、ロウが彼らに呼びかける。
「もう充分だろう。ここで命を失って何になる」
「だから、邪魔するなって……」
だがロウはそこでレームの言葉を遮る。
「お前とは代わりに俺がやる」
そう言うと、残りの獣達の前にロウが立ってレームと対峙した。
「あら、それは大歓迎……」
レームはペロッと唇を舐めて、槍を構える。




