第38話 感情の再認識。
わいわいと騒がしい音で目が覚めた。
上体をこれでもかと揺さぶられては、おちおちと眠っている訳にもいかない。俺は何とか起き上がろうとしたところで、異変に気が付いた。
顔全体に広がる柔らかな感覚と、汗が程よく混ざった女の子のいい香りが漂ってくる。目を開くと天井が目に入るかと思いきや、ゆさゆさと揺れる双丘が出迎える。
ははーん、ここは天国だな?
俺は瞬時に悟った。
ならば、起き上がる必要もあるまい。
《演算領域》は狸寝入りを推奨した!
だが、状況の確認は必要だ。
何がどうなってこうなったのかは気になるところだ。
俺は薄目を開きながら状況を探る。
「ふふっ、レイくんの寝顔って凄く幼く見えるんだね」
「シャルさん、もう主を返してください」
「ええ~、もうちょっと堪能させてよ~」
どうやら俺をめぐって不毛な争いが繰り広げられていた。
今俺を膝枕しているのは、シャルだったようだ。
「レイくんの前だとふてぶてしい態度を取るのに、聞いてないと分かった時は、好き好きモード全開のルナちゃん、可愛すぎるよ」
「なっ、別に私は!? そんな事は……」
ごにょごにょと語尾が縮んでいく。
なにこれ面白い。もっと様子を見てみよう。
「だいたい主が悪いんですよ。私が折角ムードを出しているのに、悉く無視したり煙に巻いたりするんですよ。酷いと思いませんかっ」
「そうだね、それはレイくんが悪いね」
あれ。俺へのディスり大会にシフトしてる?
雲行きが怪しいが、ここで起きる訳にもいかない。
「でもそうな面倒くさいレイくんが好きなんだよね」
「うっ……」
かーっとルナは顔を赤らめる。
にやにやと意地悪な笑みを浮かべていた。
シャルはルナを揶揄うのがお気に召したようだ。
良く分かっているじゃないか。
「そういうシャルさんだって、最近随分主と妙に距離が近いですよね」
「へ……っ? そ、そうかな」
思わぬカウンターを入れられ声が上擦るシャル。
付け入る隙を見つけたルナは目ざとい。
パタパタと手で顔を仰ぐシャルに更に追い打ちをかける。
「もしかして、好きなんですか!?」
ふしゃーっと威嚇モードのルナ。
シャルは言葉を詰まらせる。
ぎゅっと汗ばむ手でシャルは俺の手を握る。
「べ、別に違うよ~。や、やだな~ルナちゃんは」
にぎにぎ。にぎにぎ。
寝ているからって俺で弄ぶな。
「でも感謝してるのは本当なんだ」
シャルは、幾分か声を落ち着かせた。
「レイくんがいなきゃ、ボスなんて倒せなかった。どんな時も落ち着いて、常に勝ち筋を探ってる。私が諦めそうになっても、レイくんならって期待もしちゃう。同じ冒険者として、信頼しているし、尊敬もしている。凄い人だよ、レイくんは」
俺をそんな風に思ってくれているとはな。
なんだか少し照れくさい。
「ん。おねーさんもそう思う」
「ああ、ノエルっ」
俺を強奪すると、自分の膝に置くノエル。
シャルと比べると、むちむちとした膝ではなく少し固い。だけど冷えてとても肌触りのいい素肌が、心地よく俺を包み込む。
「この人といると、冒険が全く飽きないね」
「ノエルさん、私に主を返してください!」
「ん~? なんか言った?」
「ぐぬぬぬ……」
ノエルはシャルに比べてとてもクールな表情だ。
ルナのどんな質問にもけろっと答えそうでもある。
「でも、少し不安になる。レイの傍にいてもいいのか。実力は拮抗しているようで、とても追いつけそうにない。咄嗟の機転、判断力。どれとっても一級品。多分……すぐに置いて行かれちゃう」
ルナはぐっと歯噛みする。
「私だって、怖いですよ。必要とされなる日が来るかもって」
俺はすぐにでも否定したかった。
まさか皆、そんな悩みを抱えていたなんて。
この世界は、異世界漫画のようなご都合主義には恵まれない。俺が強くなった時、周りが俺に抱く感情や恋慕や尊敬の念ではなく……畏怖、嫉妬、そして不安だ。
マイナスの感情がどうしても取り巻いてしまう。
自分は彼にとってのなんだ。
自分は彼に相応しい人間なのか。
俺は、勿論そんな事気にしない。
でも周りは、その些細な事実を気にしてしまう。
孤高。それは、ある意味孤独でもある。
俺はそうやって遠慮されて一人になる。
俺はそれが……とても寂しい。
「だったら……やっぱり」
「それでも。私は主の隣にいます」
ルナは、誰よりも真っ直ぐな目を向けた。
「主の『好き』を私は信じていますから」
シャルやノエルが呆然とするのを他所に、俺を取り返しに立ち上がる。
好感度50はある意味での節目だ。
迷いのない好意を向けられて、俺は凄く恥ずかしくなった。
「クレアはレイさんの事好きですよ?」
嗚呼、もう一度言おう。
この世界にご都合主義展開は無い。
綺麗に完結した話をぶち壊すのは、やはりコイツだった。
ルナはごほ、ごほっとせき込んだ。
「クレアさんの感情は、恋愛ではなく親愛でしょう!」
「んーよく分かりませんが、好きは好きです!」
なるほど。良く分かった。
ここで一つの仮説が立った。
クレアの好感度は、親愛度だったらどうだ。
クレアの『好き』は別種の好き。
例えば幼稚園の先生に子供が恋をするような、『好き』。
それは憧憬とかから来る感情で恋愛感じゃない。
【魅力支配】に隠されたスキル獲得条件。
好きに対する『恋』がどれ程の割合を示すならば。
きっとクレアは、冒険者としての俺に25の憧憬を抱いたのだ。
だから俺はクレアからスキルを獲得できない。
「……」
それはなんだか残念でもあった。
何故だろう。
クレアの事をそこそこ好きになっていたから?
まあ、考えても仕方ないか。
俺は、なんとなく俺の【ステータス】を開いた。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP56/360 MP0/220
称号:【植物の探求者】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】【勇猛果敢】
EXスキル:《鑑識眼》C《演算領域》E《二刀流》E《気配遮断》F《処世術》D《全属性耐性》F
スキル:『言語理解』C『料理』F『剣術』G『体術』F『槍術』G『火魔法』F『光魔法』G『土魔法』G『蓄積』F『瞑想』G『詠唱』G『紅魔』G『受け流し』G『先見』G『暗視』G
所持SP:25
なんかスキルめっちゃ増えているんですが!?
好感度確認!
ルナ好感度50
シャル好感度27
ノエル好感度24
クレア好感度25
なんというか、あれだ。
俺が寝ている間に何か色々激増している。
シャルとノエルは軒並み増えて……。
クレアは感情を再認識したって事か?
いや、待てよ……?
寧ろ逆じゃないのか。
ルナのユニークスキルを獲得した時。
そして、クレアのスキルを獲得した今。
感情を再認識したのは彼女達ではなくて……。
俺?





