第29話 不必要な接触は禁止ですよ。
「シャルロットはなんで冒険者になったんだ?」
「あ……それは」
シャルロットは僅かに言い淀む。要らない事を聞いたかと撤回しようとするが、彼女は無言で首を横に振った。
「お母さんが病気になったんだ」
なるほど、そういう話か。俺は黙って話を聞く。
「治療費がバカにならなくて、満足に入院も出来ないからって医者から言われて。だから私、冒険者になって代わりに稼ごうと思ったんだ」
彼女の双眸はいつになく鋭く、決意に染まった表情だった。命懸けで金を稼ぐ、その意味を文字通り理解しているからこその逞しい姿。そんな彼女を俺は素直に尊敬した。
「でも冒険者以外にも選択肢はあったんじゃないか?」
腕自慢の輩が集う場所。所詮は傭兵の真似事だ。
年頃の女の子が進んでやる職業ではないはず。
「シャルロットは、顔も可愛らしくてスタイルもいい。その魅力は絶対他の職業でも活きてくると思ったんだけどな」
「え?」
シャルロットは顔を赤らめて硬直する。
「れ、レイくんはお世辞が上手だね」
「いや、これは本心だよ」
「~~~っ、も、もう……!」
服の首元をパタパタさせて、落ち着かなさそうに身を捩る。彼女程の逸材がこうも褒められ慣れていないとは結構意外な話だ。
ともすると、彼氏も出来た事がない。
そんな勘繰りを抱くのは、今は場違いだろう。
「ノエルが誘って来たんだ。一緒に冒険をしないかって」
冒険者以前からの付き合いか。
ノエルは僅かにはにかんで俯く。
「それからずっと必死だったな~。なにをするにも全力で、全然上手くいかなくて。私達ってもとからそんなに運動神経もよくなかったから」
自虐的に笑うシャルロット。ノエルも当時の情景を思い浮かべているのか、懐かしそうに目を細めていた。本当に色々な事があったのだろう。
「でも、半年前にお母さんが死んじゃった」
間に合わなかった。彼女はお金を集められなかった。
「お母さんが死んだのだから私がこれ以上冒険を続ける意味は無い。ノエルもそれは分かっていた。でもだからこそ、続けようってノエルは私を目覚めさせてくれた」
唇を噛み、震える声で絞り出す。
「目的を失ったら、それ以上私は生きられない。でもせめて、一層を突破して、見返してやりたかった。私にも冒険者としての力があるんだって。天国のお母さんを安心させる為に」
そして。一年の時が流れて。
「二人でボスを倒した。凄く時間はかかったけどね? それで次の日にようやく二層に行こうと思ったら、明らかな初期装備で、魔物をバタバタと切り伏せる二人組が現れた」
俺が初めて冒険に挑んだ日。
「驚く事に、たった一日でボスまで辿り着いた。しかもまさか倒しちゃうなんて。余程息が合ってないとあのボスは倒せない。だからそんな二人が私は少し、羨ましい」
もし、当時の二人に今の俺やルナ程の才能があればあるいは、母親を助けられたかもしれない。救われる未来がどこにあったのかもしれない。
だが、実際は違う。
今彼女達にかけるべきは同情の言葉じゃない。
「ふはは。俺は特別だからな。当たり前だ」
俺は自信に満ちた顔で答えてやった。
「だが、その俺に並び立つお前らはもっと特別だ。才能がなくても、努力だけで二層に辿り着いた。誇っていいさ、二人は俺よりもずっと立派な冒険者だ」
前世の知識、技能。
それらを使ってようやくの俺とは訳が違う。二人はこの世界で生き、成長した冒険者。
強さに絶望し、打ちひしがれ、それでも尚腕を振るい、血反吐を吐いて起き上がった生粋の戦士。そんな彼女達に俺は敬意を表する。
「凄いな」
「っ……」
シャルロットは目に涙を浮かべた。
俺の手を握り込み、涙を溢れさせる。
今までの努力が報われた。
そんな晴れやかな表情で。
「ありがとっ」
なんという正ヒロイン力。
俺は思わずドキッとした。
恥ずかしくなって、目を逸らす。
「ねぇ、レイくん」
「な、なんだよ」
「シャルって呼んでよ」
「は、はぁ?」
「ノエルがそう呼ぶんだからさ。ねっ、お願い〜この通り」
手を合わせて拝み倒してくる。
こんな事されたら断れないじゃないか!
「……分かったよ。シャル。これでいいか?」
「ぁ、えっと……」
何故かシャルが挙動不審になる。
「急に言われると、照れるというか……たはは」
そうやって我に返るのが一番卑怯だ。
俺も何雰囲気に流されてんだ。
10→22
スキル『加速』『先見』を獲得しました。
□■□
「シャル、魔法で一掃しろ!」
「おっけ〜、見てて魔法『火炎』」
無意識に汗をかいてしまう熱量の温風が全身を撫で上げる。魔法の勢いも休憩前より増しただろうか。
焼き焦がされた『樹霊魔』は沈黙する。
「お疲れ様、シャル。やるな」
「うんっ、今日はかなりいい調子だよ」
そんな俺達の様子を見てルナが何かを感じ取る。
ピクンと耳を立てて、俺に爪を立てた。
「主、いつから呼び方を変えたのですか?」
「細かい事は気にするなって」
ルナは今度シャルに掴みかかる。
「私が寝てる間、主に何かされたんですよね」
「なんで俺が加害者みたいになってんだ」
「う、うーん。ちょっと口説かれたくらいかな」
「な……っ!?」
鬼の形相でルナが向かってくる。
その背後でシャルがぺっと舌を出した。
「待て待て、俺は何もしていない」
「人様に迷惑をかけるなとあれ程言ったではないですか」
「会話しただけで迷惑判定はシビアすぎねぇか」
シャルもシャルだ。
ようやく打ち解けたと思いきや、俺を揶揄うなんて。
「とにかく。主は不必要な接触は禁止ですよ」
「病原菌扱いされてる?」
ルナに深く釘を刺されてしまった。
なんでいつも俺は、こうなっちまうんだろう。
名前:レイ レベル:8
HP295/295 MP70/135
称号:【鬼狩り】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
EXスキル:《鑑識眼》D《演算領域》F
スキル:『言語理解』D『交渉術』E『礼儀作法』F『剣術』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『加速』G『先見』G『火魔法』G『蓄積』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G
所持SP:85
名前:ルナ レベル:15
HP172/180 MP550/550
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【勇猛果敢】
スキル:『隠密行動』E『剣術』D『体術』E『冷静』E『軽業』E『料理』F『並列思考』F『瞑想』F『敵感知』F『光魔法』G
名前:シャルロット レベル:24
HP555/570 MP425/425
称号:【鬼狩り】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【一致団結】
スキル:『先見』C『剣術』D『逆境』C『加速』E『痛覚耐性』G『火魔法』E
名前:ノエル レベル:23
HP230/230 MP630/630
称号:【鬼狩り】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【明鏡止水】
スキル:『遠視』E『暗視』F『蓄積』B『麻痺耐性』G『土魔法』C『光魔法』D
名前:クレア
称号:【鍛冶見習い】
ギルド:無所属
ユニークスキル:【獅子奮迅】
スキル:『鍛冶』S『目利き』S『受け流し』F『槍術』C『槌術』B『豪脚』C『硬化』D





