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776.恐るべき番人です!

「こ、これはとても厳しいですね」


 侵入型のクエストなど初めてのまもりは、眉を困らせる。

 視線の先には、倉庫を守る三人組の兵士。

 そのうち二人はこちらを向いている上に、手に剣と盾を持っている。

 そして腰に差しているのはベル。

 真ん中の兵士は右手に剣、左手にベルという状況だ。

 制服姿とはいえ、近づけばやり取りは必須になる。

 これは少しでもおかしな言動をしたら、周知を優先して動くという意思表示だろう。


「一度やり取りする形で行くか、それとも問答無用で片付けちゃうかね」


 三人が横並びというのはやっかいだ。

 ベル持ちに攻撃を集中すれば、当然残りの二人が異変の周知を始める。

 高火力のスキルでまとめていけば、派手なエフェクトと音で周知をプレイヤーが行ってしまうことになる。

 これではメイやレンのスキルが活きないと、まもりは悩み出す。


「で、でも、私が声を掛けたら挙動不審で捕まっちゃいそうですし……」


 NPC見知りを患うまもり、挙動不審を理由にNPCに逮捕されるという事態を想像して震える。

 とはいえ攻撃しようにも、三人が程よい距離感を取っているため、盾の範囲攻撃では網羅し切れない。


「その辺りは任せておいて」


 しかしレンは余裕の素振り。


「まずは、やりとりで距離を縮めましょう」

「は、はひっ」


 今時、緊張で右手と右足が同時に出るという奇跡を見せるまもりを連れ、レンとメイは進む。

 そして倉庫前を守る、三人の兵士のもとへ。


「なんだ? こっそり一杯なんて真似はできねえぞ」

「そうなの?」

「決まってんだろ。こんな雑用でも不備が見つかりゃキツイお叱りが待ってんだ」

「ったくよぉ、どうせ上級兵にしか振る舞わないクセになんで俺らが……」


 三人の兵士はそれぞれ、不満を口にする。


「この雑さ。フローリスに来てたのは上級兵だったのかしら……」


 制服のわずかな違いを思い出しつつ、つぶやくレン。


「だからとっとと帰んな。こんなとこ見られたらサボってると思われちまう」


 ここが一つのポイント。

 これ以上の長居は、角が立つ。


「悪いけど、そうはいかないの」

「【アサシンピアス】」

「うぐっ!」


【隠密】で姿を消していたツバメが無力化したのは、もちろん真ん中の『ベル持ち』だ。

 残った二人は、多少隙を見せても『ベルに持ち替える』というモーションが必要になる。


「なんだお前っ!」


 そしてこの瞬間から、兵士たちの意識が敵意に変わる。

 手にした剣で、こちらへ容赦なく攻撃を仕掛けにくるが――。


「【尾撃】!」

「うっ!?」


 その直前に猫の尻尾が兵士の顔を叩いて、体勢を崩す。


「【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ!」


 こうなってしまえば、あとは単なる的。

 メイの激しい乱打が、即座に二人目の兵士を打倒する。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 レンも三人目の敵兵との距離を詰め、魔法攻撃を狙いにいく。

 ほぼゼロ距離から放たれた四連続の氷弾は、見事に兵士を打破。

 見張りの突破は問題なく成功……かと思われた。

 クルクルと、レンの横を飛んでいくベル。

 どうやら攻撃より周知を優先しようとした三人目の兵士が、ベルを取り出した瞬間に魔法が炸裂。

 その手から離れたようだ。


「「「ッ!!」」」


 走る緊張。

 このベルは落として音が鳴った場合も、周知効果があるのか否か。

 それはレンにも分からない。


「「「…………」」」


 思わず始まるお見合い、そんな中。


「【加速】【スライディング】!」


 動き出したのはツバメ。

 地面に触れるスレスレで、これをキャッチ。


「……ツバメちゃん、ないすぅー」


 ついつい、声が小さくなるメイ。

 音を鳴らさない拍手で、ツバメを称える。


「……お、お見事でした……」


 それに引っ張られてまもりも小声に。さらに。


「……うまくいって良かったです……」

「別に今声を小さくしても、何にも変わらないわよ」


 なぜか歩き方まで忍び足になる三人に、レンは笑いながら倉庫の中へ。


「へえ、こういう樽を使っているのね」


 倉庫の中には、三つの大樽。

 よく見るサイズのものではなく、十個分ほどを一つにまとめたような大きさだ。


「それじゃ、さっさと【睡眠薬】を入れて次に向かいましょうか! ……ん?」


 振り返ってそう言ったところで、目が合った。


「「ッ!?」」


 レンの声に目を覚ましたのは、倉庫の隅で顔を赤くして眠っていた、ワインつまみ飲み兵士。


「ウソでしょ!? 小声になってたメイたちの方が正解なのっ!?」


 まさかの事態に慌てて【低空高速飛行】で迫るレン。


「はあっ!」


【魔剣の御柄】で斬りかかるが――。


「うぃーっ!」


 酔いで思わずフラついた兵士は、酔拳の様にこれを回避。

 右手に持った剣を振り回す。


「ッ!!」


 その読みにくい軌跡が、レンの鼻先をかすめていく。


「【ファイアブレード】」


 そして振り降ろした、炎に燃える剣。

 その判定は、通常の剣撃の数倍だ。


「あっぶな!」


 レンはこれを横っ飛びでかわして、右手を向ける。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」

「ひっく」


 これを酔拳兵士、まさかの全回避。

 この流れを見たメイが、即座に駆け付ける。


「【キャットパンチ】!」


 酔拳兵士、これをもっさりとした後転で運よく逃避。

 起き上がるとその手には、ウィスキーを入れるのに使われる容器スキットル。

 勢いよく『盗みワイン』を口に含み、指先に灯す魔法の炎。


「……ウソでしょ? ワインで火吹きはできないでしょ!」


 直後、放たれる豪快な【爆裂火吹き】


「わああああああーっ!? すごーい!」


 煌々とした炎がド派手に吹き上がるのを見て、思わず歓喜の声を上げるメイ。

 レンの『火吹き』という言葉を聞き、とっさに伏せることで三人も炎を回避していた。


「ここ、好機ですっ」


 早い起き上がりから、大技の隙を狙うのはツバメ。


「【電光石火】!」


 酔拳兵士、火を噴いた勢いのまま後方に倒れ込むことで斬り抜けもスルー。

 あまりに見事な回避だ。しかし。


「【反転】【紫電】!」

「うぐふっ」


 ツバメの攻撃は二段構え。

 すぐさま反転して振り返り、その場で電撃を放つ。

 いかに回避が見事でも、範囲攻撃をかわすことはできない。


「ありがとうツバメ! 【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 レンは今度こそ四発の氷弾を叩き込み、体勢を崩したのを確認して接近。


「最後はこれでどう!? 【スタッフストライク】!」


 トドメは野球のようなスイングで放つ、【銀閃の杖】の振り回し。

 叩き飛ばされた兵士はそのまま転がり、再び眠りに落ちるのだった。


「酔拳とは面白い兵士さんでしたね。レンさんがNPCに振り回される姿は久しぶりに見た気がします」

「あはは、本当だねぇ」


 なかなか変わった趣の戦いを完了。

 今度こそ【睡眠薬】をワイン樽に使用して、無事最初の任務を達成した。


「……それじゃ……次に……いきましょうか……」


 振り返ったレンは、小声どころか囁き声になっていた。

 これには三人、普通に声を出して笑ってしまうのだった。

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【メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと転移譚】~
― 新着の感想 ―
[一言] なお、リアルに睡眠薬入りのお酒を飲むと大変危険なので、真似をしないように(誰もしないか。)
[一言] 論理クイズ幼女と木箱のワインいきますね ワインが4本入った木箱が7つ。 ワインが2本入った木箱が7つ。 何も入ってない空の木箱が7つある。 幼女ABCは、これらを3人で山分けする。 どの…
[一言] 素朴な疑問 盗み呑みされてるじゃねーか!見張り何やってたんだよ! 抜け道でも有るのか、それとも見張りが何かの理由で見て見ぬふりをしていたのか? 抜け道なら空気孔とかが有りそう。 見逃し…
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