777.緊張一転
酔拳兵士を倒し、ワインに睡眠薬を投入したメイたち。
四人はメイの【聴覚向上】と、レンの【変化の杖】を使った連携で、城内をスイスイ進む。
黒猫レンと猫耳メイが並ぶ姿は、なんだかすごく和んでしまう。
「次の任務は中庭にいる魔獣の懐柔、もしくは打倒ね」
「魔物に騒がれれば兵士たちが集まってきますし、派手に戦っても同じ。なかなか厳しいクエストです」
失敗すれば必然的に、建国祭当日の第二王子救出の邪魔となる。
それどころか、この後の任務の難易度に関わることもあるだろう。
「あっ、見えたよ」
たどり着いた中庭。
そこにいる大型の狼は、薄灰色と濃灰色の二頭。
人間の胸部に届くほどの体高はもちろん、4メートルもある体長を見ればすぐに分かる。
間違いなく強い。
選択肢は、始末か懐柔か。
「二頭なのね」
狼二頭がただ放し飼いにされているだけなら、まだいい。
この二頭は、付近に注意しながら不規則な移動を続けている。
こっそり片方だけというのは、なかなか難しそうだ。
「目の前で片方を倒してしまうと、もう片方の懐柔ができなくなってしまったりするのでしょうか」
「あり得るわねぇ。片方を倒さず力を示すことができれば、もう片方も認めてくれるなんてパターンもありそう。そうなるとこの【特製干し肉】は、一頭を離して時間を稼ぐものと考えるのが妥当でしょうね。ただ【動物値】が低いと、そもそも食べてもらえないってところかしら」
その予想は、おおよそ正解だ。
「では【特製干し肉】は、一応私が持っておきます」
「よろしくおねがいしますっ」
そう言ってメイはなんと、緊張の中庭に堂々とまっすぐ歩いて入っていく。
「……え、ええっ!?」
いくら動物値が高くても、クエストに登場する魔物にここまで無防備に近づく姿は完全に異常だ。
メイの強さは十分理解しているが、それでもまもりはさすがに慌てる。
「はじめましてっ」
だが今回のクエストは、もともとの任務に『懐柔』が含まれていたため、動物値が高い効果を持つ。
濃灰色の巨狼は警戒しながらやって来ると、そのままメイの前に座り鼻を近づける。
「……っ」
喰いつかれたら終わりの距離感に、息を飲むまもり。
一方のレンとツバメは、余裕の様相。
メイが手を伸ばすと鼻をスンスンさせ、そのまま濃灰狼は頭をこすり付け始めた。
「すごい……」
驚きに息を飲むまもりの目はしかし同時に、駆けて来る薄灰色の巨狼を捉える。
その勢いはまさに、獲物を喰らいに行く獣のものだ。
「メ、メイさん……っ!」
その勢いは、ツバメとレンも注意を向けるほど。
しかし、それでも武器は取らない。
「よいしょっ!」
「え……っ!?」
なんと薄灰狼の飛び掛かりは攻撃ではなく、帰宅した飼い主に飛びつきに行く犬と同じだったようだ。
メイはそれを『尾の動きと飛び掛かりの軌道』で判断し、そのまま受け止めたのだった。
頬のあたりを撫でれば、薄灰の巨狼もうれしそうに尻尾を振る。
「す、すごいです……」
「私たちも、最初の頃は何度も驚いたわね」
「はい」
「メイは動物値の高さもあるけど、四足の獣にはめっぽう強いのよ」
「そ、そうなんですか……」
「相手次第では、明後日の方向を見ながら攻撃を回避します」
「そうなんですか……!?」
「この状態なら、もう大丈夫ね」
「はい、それでは私たちも」
小走りで狼たちの方に向かうレンとツバメに、首を傾げるまもり。
「おおっ、これはふわふわですね」
「本当ね」
そして狼たちの毛並みを楽しむ二人に、さらに驚く。
「どうして大きくてフサフサの動物は、こうも落ち着くのでしょう」
「そうねぇ」
ここぞとばかりに灰色狼の毛に埋まるツバメと、撫でまわすレン。
薄灰の巨狼に黒ローブのレンという中二病感満載の光景を前に、まもりも盾を片手にそーっと近づいてみる。
そして恐る恐る手を伸ばすと、大人しく撫でられる薄灰の巨狼。
まもりもフローリスでは猫と共に過ごす時間が多かったため、自然と動物値が上がっていたようだ。
「予想通り、魔獣の懐柔は一発クリア。二つ目の任務も問題なく達成ね」
「クエストに動物値が関わる時は、楽しい時間になります」
「メ、メイさんが動物と仲良くしてる姿は、癒されますね」
「とてもよく分かります!」
「このクエストでこんなことするの、私たちだけでしょうねぇ」
大きな戦闘にならなければ、増援が来ることもなし。
緊張の魔獣クエストは一転、狼モフモフ時間となったのだった。
「……と、ところで」
「どうしたの?」
「この場合【特製干し肉】は、も、もらってもいいのでしょうか……?」
「食べるのですか……!?」
「あっ、そ、その、ツバメさんが食べようと思っていたんなら私は全然!」
「いや、ツバメは別に「私も食べたかったのに!」の形で聞いたわけじゃないと思うわよ」
「そういうことでしたら、一口だけ」
「食べなくていいの。ていうかプレイヤー用の飲食アイテムじゃないから、普通に無理だと思うけど」
「そ、そう……ですか」
「そんなに肩を落とさなくてもいいでしょ」
「あははははっ」
普通に肩を落とすまもりに、さすがに笑ってしまうメイだった。
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