775.最初の任務ですっ!
「さあ、前夜祭が始まる時間だ」
裸電球のような魔法珠灯が輝く秘密基地。
スタンはそう言って立ち上がった。
「最初の任務は、建国祭で兵士たちに振る舞われる予定のワインに、【睡眠薬】を入れておくだったわね」
「準備はできています」
「ドキドキしちゃうね……!
「は、はひっ」
「この時間でも城の警備はとても厳重だ。気をつけてくれ」
レジスタンスの中心メンバーに見送られて基地を出る。
大通りとは違い街灯も少なく、崩れた外壁が一層みすぼらしさを増す。
夜となればもう、街中でも敵が出るタイプのマップにしか見えない。
四人は地図にあったポイント目指して、城外を回り込んでいく。
目的は背面に作られた、兵士用の勝手口だ。
「ああいうのを見ると、ワクワクしちゃわね」
城の外壁の天辺は道になっていて、そこにはそこそこの密度で松明を持った兵士が立っている。
これは従魔士などが空から向かおうとすると、見つかって騒ぎになる仕掛けだ。
「夜闇の中、松明の炎が動くのはちょっといいですよね」
やはり夜の侵入は、緊張感があって楽しい。
四人はそのまま城の背部へ回り、装備を帝国兵士の制服に変更。
厚い鉄の扉で作られた勝手口の前へ。
「おう、交代の時間か?」
「はい」
静かに応えるツバメ。
すると警備兵は重たい鉄扉の鍵を、開けながら問いかける。
「そうだ、一応合言葉を聞いておかないとな」
「はい、合言葉ですが――」
「お疲れさま」
【魔力剣】の一撃に、倒れ伏す兵士。
「ここでも問題なさそうね」
【変化の杖】で黒猫に化けていたレンは、ここで有用性を早めに確認。
難なく、城内への侵入に成功する。
「いきなりの合言葉で驚いちゃったわね」
「てへへ、ちょっとびっくりしちゃった」
「わ、私もですっ」
帝国兵士の制服を着ていなければ即座に警戒体勢に入られてしまうが、合言葉が言えなくて困っていても警戒が始まる。
ここはすでにドアを開けているのだから、『合言葉を聞かれたら即座に打倒』で正解。
なかなか侮れないスタートになっているようだ。
「こ、こわいですね。どこで兵士さんたちがやってくるか分からないですし……」
城内は綺麗な石造りの壁の各所に掛けられたランプが、橙の光を灯している。
暗い中に見える炎は、やはり興奮を誘発する。
「その点なら大丈夫よ」
「うんっ。付近に見回り中の兵士はいないよ」
メイは耳を澄ませて、付近の状態を確認。
「それじゃもう一度【変化の杖】で……先に進むわね」
歩いていなくとも、立った状態で見張りをしている兵士がいるだろうと、レンは黒猫姿で先行する。
「すごいです……」
その見事な連携に、思わず感嘆してしまうまもり。
マップは【地図の知識】を持つツバメが持ち、方向を指示。
メイ、もしくはレンが兵士に気づいたところでツバメが指示を出す。
「次の角を右に曲がって、回り込む形で行きましょう」
左側から兵士の足音がすれば右から、先の通路に兵士が見張っていればその視界の外を。
「だ、誰もいないかのようです……」
その見事な見張りの回避ぶりは、もはや無人の城内を歩いているかのよう。
まもりはこれに、驚きの声を上げずにいられない。
なんとメイたちは、城内を巡回している兵士たちを、全てあらかじめ察知して回避。
ただの一度も兵士に出会うことなく、目的の倉庫付近までたどり着いた。しかし。
「まあ、こういうのもあるわよね」
暗くて見づらいが、足元には小さめの魔法陣。
これを踏めば当然、良からぬことが起きることになる。
「【罠解除】」
ここはツバメのスキルで難なく解除。
そしてそのまま先へ進もうとしたところで、数歩先に現れた新たな魔法陣。
それはなんと、手前の魔法陣が発動しなかった場合に発動するという二重の仕掛けだ。
「「「「ッ!!」」」」
今までになかったタイプの仕掛けに、さすがに虚を突かれる。
魔法陣に現れたのは、召喚用のガーゴイル。
すぐにその手を確認。
突き出された右手には、魔法珠が埋め込まれていた。
「マズっ!!」
その真紅の輝きに、即座に反応するレン。
火の魔法は、火炎が燃え上がるタイプのものが多い。
この広くはない廊下でそれが放たれれば、逃げ場もない。
輝きと共に放たれるのはやはり、荒れ狂う炎だ。
「【かばう】!」
最後尾から聞こえたその言葉は、合図。
「「「っ!!」」」
メイとツバメとレンの三人は、即座にうつぶせの体勢を取る。
すると三人の背中の上を、まもりが低空跳躍で跳んでいく。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
念のための防御時間延長スキルが、功を成す。
約4秒に渡る火炎放射は、廊下を一瞬で黒く焦がした。
「【スライディング】!」
このままでは最前にいるまもりが壁になってしまうが、ツバメの【スライディング】なら問題なし。
「【アサシンピアス】」
見事な一撃必殺でトラップガーゴイルを打倒し、事なきを得る。
「助かりました」
「い、いえ、こちらこそっ」
ツバメがそーっと出す手に、まもりもそっとハイタッチ。
「倒すのに手間取ったら、もっと派手な音が出る魔法で仲間を呼んだりしてたんでしょうね」
「まもりちゃん、ツバメちゃんないすーっ!」
メイは伏せの姿勢のまま、尻尾を左右にフサフサ。
その可愛さが、ツバメとまもりの視線を奪う。
メイの伏せは犬、ツバメの伏せはまさにアサシンといった感じだった。対して。
「……私の伏せだけ、ギャグマンガみたいになってない?」
言われて視線を向ける三人。
「そんなこと……ないと思うよ」
「はい、そんなこと……ないと思います」
「そそそそんなことないですっ」
「なってるわねこれ!」
黒のローブに、シルバーの長い髪と杖。
バッチリ黒装備を決めた魔導士が慌てて伏せる姿は、無様に『ズッコケた』感が強くて、思わず口元が緩んでしまう三人。
「先に進みましょうっ!」
ため息のレン。
メイはそんなレンの手を引き、建国祭で振る舞われるワイン樽が詰め込まれた倉庫前にたどり着くのだった。
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